第1章 勝つチームには大義がある
勝つチームには大義がある/
大義の下に続く三つの要素/
チームを好きになってもらう:距離を近くする:「場」をもうける
:一人ひとりに居場所を用意する/
自信を積み上げていく
第2章 進化を楽しむ
考え続ける/
自分の「強み」を突き詰める/
自分なりのスタイルを見つける/
覚悟をもつ/逃げたら、同じ壁/
相手を尊重する/
「知らない」を知る/
失敗から学ぶ/
感謝と謙虚/
準備の大切さ/
進化を楽しむ/
超一流から学ぶ/
人生で大切にしていること/
日々心がけていること
第3章 成長の道のり―幼少~社会人―
ラグビーを通じて成長する/
苦しかった高校日本代表のキャプテン/
文武両道を目指す/
大学時代の失敗から得たこと/
家族から受けた影響/
ラグビーで勝負する/
社会人の自分に立ちはだかった壁/
乗り越える―東芝キャプテン時代―/
最高の瞬間を分かち合うために/
未来への引き継ぎ
第4章 日本代表で学んだこと―エディジャパンの4年間―
日本代表の主将になる/
充実したキャプテン時代―2012年―/
ウェールズに勝つ―2013年―/
試練の3年目―2014年―/
そして、ワールドカップへ―2015年―
第5章 未来を創る
憧れの存在へ/
憧れの存在であり続けるために/
エディーさんへの想い/
障害者のスポーツをもっと広めたい/
武蔵野東ラグビー部のこと/
旅は続く/
なんのために勝つのか
◇◇著者紹介◇◇
廣瀬 俊朗(ひろせ としあき)
1981年10月17日、大阪生まれ。5歳のときにラグビーを始め、北野高校を経て慶應大学に進学。99年度U19日本代表、高校日本代表に選出される。2004年、東芝入社。2年目からレギュラーとして活躍。07年主将就任(07-11年度)。08-09、09-10シーズンではトップリーグプレーオフ優勝を果たす。09年のプレーオフはMVPも獲得。07年日本代表入り。12年にはキャプテンとして再び選出される。15年ラグビーW杯では、日本代表史上初となる同一大会3勝に貢献。通算キャップ28。ポディションはSO、WTB。
《2015年・9月9日(水)》
ワールドカップまで10日を切った。
前回まではワールドカップと言われても当事者でなかったから、「あと10日か。楽しみやな」と純粋に思うだけであった。でも、今回は違う。このために4年間頑張ってきた。だから、緊張感がある。また、これまでの努力の結果が判明することが恐ろしくもある。
……僕はきっと初戦のグラウンドに立てない。直接グラウンドに立って、勝利に貢献することは叶わないと思う。
正直、悔しい。
与えられたチャンスでは思い切りプレーした。練習から自分の100%を常に出してきた。よい準備ができていることもメッセージとして出せていたと思う。ただ、その上で他を押しのけて「何がなんでも出してくれ!」という意識までもっていけたかと言われると疑問が残る。
なんでだろうと思う。キャプテンという立場があったときは、自分がプレーして貢献していくことが当然だと思っていた。しかし、いち選手の立場になってみると、自分が出ることが最優先でなくなってしまった。チームが一番やりたいラグビーを表現して、結果を残すことが最優先になった。
いろいろなことが客観的に見えるが故かもしれない。自分が10番を背負ってグラウンドに立っている姿が想像できなかった。かと言って、努力してこなかったわけではない。スキルの練習は欠かさずやってきた。ウエイトでも重い重量にチャレンジしてきた。だから、ワールドカップのスコッドにも選ばれた。
でも、なんだろう。このモヤモヤした感じは。
その中でも、チームのためにやることは、ある。
このタイミングで、コーチングコーディネーターの(沢木)敬介さんから南アフリカのアタック分析を頼まれた。分析ソフトを使って、いろいろな対策を練った。映像を観る。プレゼンの資料をつくる。その説明を考える。
普段、僕たちはミーティングの時間に15分座って聞くだけだが、そのための準備にはパソコンの操作を含めて
10時間程を要した。とてもありがたいと思った。
また、分析を進めるにつれ、相手チームのアタックの考え方についてもよくわかった。勉強になった。分析の結果を日本代表のコーチ陣にプレゼンする。なかなか貴重な機会。久しぶりに味わう緊張感は、よい刺激になった。この資料が使われるかどうかはわからないが、僕にとってはよい時間になった。
〈中略〉
《9月19日(土)》
南アフリカ戦当日。
メンバーとメンバー外は行動をあまりともにしない。僕は、朝のフィットネスを終え、一人で散歩に出掛けた。外に出ると、早速日本代表のジャージを着た人に出会った。嬉しかった。その後も、南アフリカのジャージを着た人をたくさん見かけた。
ワールドカップの日がこうやってスタートすることが、とても嬉しかった。天気もよかったので、ブライトン駅まで歩くことにした。駅では、ボランティアの人が誘導してくれていた。また、南アのジャージを着た人が大勢いて、彼らにとってラグビーが身近にあること、イギリスにも住んでいる人がいることが感じられた。
ひとつ裏のストリートを歩いたら、雑貨屋、カフェ、古着屋、お土産屋など、普通の観光をしている気分になった。途中で紅茶専門店があったので、妻に少しだけプレゼントを買った。1時間くらい歩いてホテルに戻り、今度はメンバー外の仲間でビーチ沿いのカフェに行った。ここでも、いろいろな人に声をかけられて嬉しかった。その後、僕たちはスタジアムへバンで向かった。いつもの高速道路ではなく、壮大な海の横を通り抜け、草原の中を抜けた。素晴らしい景色。合宿地のある網走を彷彿とさせた。
スタジアムに着くと、中では既に試合前のアップが始まっていた。ワールドカップの試合会場の雰囲気は両チームを温かく迎える感じでとてもよかった。会場のファンは明らかに南アフリカの方が多い印象だった。
アップが終わって、選手は一度退場して最後の準備をする。その際、皆が一つになって退場していた。
そのときの皆の顔がよかった。まとまっているなと実感できた。気持ちが高まる。いよいよ試合が始まるのだ。ワクワクした。試合前の国歌斉唱。南アフリカのアンセムが流れたときは、全身が震えた。最高の時間が来たと思った。
そして、君が代。皆が心を一つにしているのがわかった。
一瞬の静寂を挟んで、キックオフの笛が響く。
JAPANの、僕たちの集大成を見せるときが来た――。