子どもの「よさ」「課題」が手に取るように見えてくる!
マルチタスク思考で充実する「ながら指導」のススメ
「ながら」という言葉を聞いて、どのようなイメージをもちますか?
「テレビを見ながら勉強するのはやめなさい」といった叱責の言葉があるくらいですから、おそらくあまりよいイメージではないでしょう。実際、「ながら勉強」は、学習していることが頭に残りにくいなどと言われますから、否定的なイメージになるのは自然なことです。
しかし本書で提案したいのは、上記の考え方とは真逆です。すなわち、「ながら」を推奨するための本なのです。
私(松村)と共著者である三戸先生は、もうかれこれ10年間教壇に立ち続けてきましたが、解消できずにずっとモヤモヤし続けている疑問がいくつかあります。そのひとつがコレです。
「A先生は『センスがある』よね」と言うときの「センスがある」とは、いったい何なのか?
誰かを褒める(評価する)言葉であることに違いないのですが、それを口にしている本人も、言われている側も、それが具体的に何なのか、あいまいなまま言葉にしているように思うのです。これは、お互いの能力の多寡の問題ではなく、単に「これまで言語化されてこなかった」ブラックボックスなのではないか…と。
もしこのブラックボックスを解き明かすことができれば、子どもたちへの指導に対して悩みを抱えている先生方の手助けになるのではないか。そんなふうに考え続けた結果、たどりついたのが、「『マルチタスク思考』で周囲にアンテナを張り、『ながら指導』で対応する技術」だったのです。
一部を抜粋すると、次のような指導技術です。
“個別に指導しながら、クラス全体の理解度を推し量り、授業展開を調整する”
“発言している子どもの考えにうなずきながら、周囲の子どものつぶやきに耳を傾け、対話の糸口にする”
“クラス全体に向けて説明しながら、理解がおぼつかない子どもの様子を掴んで、机間指導に切り替える”
“子どもと楽しく遊びながら、子ども同士の人間関係をつかんで、クラスづくりに生かす” etc
決めつけるわけにはいきませんが、およそ子どもたちへの指導に悩みを抱えている先生方に共通していることがあるように感じています。それは、こういうことです。
「子どもの姿を見ているようで、実は見えていない」
視界には入っているのだけど、(よいことであれ悪いことであれ)そこで何が起きているのか、あるいは起きようとしているのかを意識していないということです。それを見える化し、次に打つ手立ては何かを「選択・判断」できるようにするのが、「マルチタスク思考」であり、「ながら指導」なのです。
はじめに
第1章 理論編
マルチタスク思考で「ながら指導」を充実する
1 教師という仕事は「ながら」に溢れている
2 私たちは無自覚に「ながら指導」を行っている
3 これからの働き方を考えるうえでも必須な「ながら」
4 「ながら指導」の起点をつくるマルチタスク思考
5 「ながら」タイプ
6 「ながら指導」が生み出す指導の変化と効果
7 本書の構成とその読み方
8 明日からの活用と応用に向けて
9 「ながら指導」の肝は「視点の行き来」!
第2章 領域編
[領域a]質の高い授業を実現する
1 質の高い授業における子どもの姿
2 教師に求められる力は実に多様
3 質の高い授業は常に「マルチタスク思考」
[領域b]クラスにまとまりを生み出す
1 クラスがまとまっていく3つのステップ
2 子ども一人一人が本当に見えていますか?
3 まとまるからこそ、イレギュラーが見える
[領域c]一人一人の思いに気づく
1 子ども自ら教師に相談するハードルは高い
2 まずは気づいてあげること
3 子どもの小さな変化をキャッチして指導に生かす
[領域d]学校全体で子どもを育てる
1 学年・教科を超えて語り合える職員室
2 軸足はあくまでも自分のクラス
3 授業以外の時間だからできる「ながら指導」
第3章 事例編
マルチタスク思考を働かせる「ながら指導」の実際
[登下校]
1 朝のうちに子どもの抱える問題の火種を鎮火する
2 朝の支度の時間の子どもたちへの対応を誤らない
3 生活上のトラブルを未然に防ぐ
[授業]
4 子どものリアクションを授業に生かす
5 子ども自らが学び合う授業をつくる
6 子どもの反応に応じて授業展開を切り替える
7 子どもの学びを充実する板書にする
8 一人一人の特性を生かす授業を実現する
9 即興的な指導を充実する
10 臨機応変に学習活動を展開する
11 クラス全員の学力を底上げする
12 個別指導と全体指導を一体的に充実する
13 子どもの機微をつかんで指導に生かす
14 クラス全体の学習の様子にアンテナを張る
15 授業の調整力を高める
16 リアルタイムな子どもの学びを評価に生かす
[休み時間]
17 学級に信頼と安心感を生み出す
18 子どもの素の姿を把握する
19 廊下を教師の死角にしない
20 トラブルの予兆をつかんで未然に防止する
21 教師間で情報共有して指導効果を上げる
22 子どもの情報を生活指導や学級運営に生かす
23 遊びを通して、子どもを価値づけ、よさを広げる
24 子どもの様子を語り合える風土をつくる
25 子どもたちに節度や安心感、意欲をもたらす
26 お互いに学級を見合い、指導力向上につなげる
27 前向きな気持ちで専科の授業を受けられるようにする
[給食]
28 安全に配慮しつつ子どものよさを見つける
29 子どもの様子を見取る「目のつけどころ」を知る
30 給食の時間を子ども理解の場とする
31 子どもの心身の健康状態を把握する
32 給食の片づけを通して子ども理解を深める
[清掃]
33 掃除の時間でこそ見えるよさを評価する
34 学年・学校全体でクラスの様子を見取る確度を上げる
[生活指導]
35 子どもの判断力を養う
36]子どもの納得感を得る指導性を発揮する
[休み時間]
37]専科の先生との連携を高めていい実践を増やす
第4章 活用編
「ながら指導」を活用するための考え方と条件整備
1 「ながら指導」を行ううえで必要な3つの要素
2 9つのアプローチ
[アプローチ①]自分の指導やクラスの様子を振り返る
[アプローチ②]同僚と授業を見合い、語り合う
[アプローチ③]学年会で子どもの姿を語り合う
[アプローチ④]クラスの事務仕事の効率化を図る
[アプローチ⑥]周到な授業準備と展開方法を工夫する
[アプローチ⑦]生活指導は先手を打つ
[アプローチ⑧]子どもに任せられることを見つけて任せる
[アプローチ⑨―1]1日の見通しをもって過ごす:三戸編
[アプローチ⑨―2]1日の見通しをもって過ごす:松村編