
自分の可能性に気づく場としての学校
不登校を経て世界を飛び回るフォトジャーナリストとなった佐藤慧さんが多感な子どもたちに綴った読み物、10分後に世界が広がる手紙シリーズ全3巻(小社刊)。ここでは、学校という場のかけがえのなさや、不安・窮屈さを感じている思春期の心に向き合う5話を、Edupia連載として再編集しました。
第2回は『勉強なんてしたくない君へ』収録の「可能性の「種」を見つける」。学校が足りない地域に住む子どもたちと、将来の夢について話したことから見えてきたことーー。
学校で過ごす時間が短い子と将来の夢
フォトジャーナリストという仕事を始める前に、ぼくはアフリカのザンビアという国で、学校の校舎を建てるプロジェクトを行っていました。その地域には、いくつも学校があるのですが、どんどん子どもの数がふえるので、全然教室が足りません。そこで、日本の人々から寄付を集めて、教室をひとつふやすというプロジェクトを思いついたのです。
ザンビアの学校は、1年生から9年生まであるのがふつうで、日本でいえば、小学校と中学校が、ひとつになったような感じです。ぼくがプロジェクトを行った学校には、2000人をこえる生徒がいましたが、教室はたったの19部屋。単純に計算しても、もしみんなが一度に授業を受けるとしたら、ひとつの教室に、100人以上入らなければいけないのです。
もちろん、そんなぎゅうぎゅうでは、きちんとした授業ができません。なのでこの学校では、「三部制」をとっていました。朝学校に来る学年、昼学校に来る学年、夕方学校に来る学年と、分けていたのです。
君はたぶん、毎日5時間目とか、6時間目まで授業があると思うけど、三部制だと、毎日2時間目か3時間目までしかないことになります。学校に通う時間が短くなると、うらやましい? ぼくも学校が苦手だったから、はじめはそういうふうに思っていたけれど、実はちょっと、こまったこともあったのです。
近所の子どもたちと遊んだり、話したりするなかで気づいたのですが、かれらの口にする「将来の夢」の種類が、日本の子どもたちにくらべて、とても少ないのです。「先生」と「会計士」、あとは「お医者さん」という答えがほとんどで、男の子だと、「軍人」と「サッカー選手」も加わります。
君や、君の友達はどうでしょう?
「美容師」とか「ミュージシャン」「宇宙飛行士」を夢見ている人もいるかもしれません。ほかにも、「大工さん」「ゲームクリエイター」「動物のお医者さん」など、いろいろと思いうかべることができますよね。
ザンビアでであった子どもたち 撮影/佐藤慧
楽しい!に出くわすかもしれない場にいるということ
ところが、電気やインターネットも通っておらず、テレビを見たり、本を読んだりする機会も少ない田舎では、「どういう大人になりたいか」という、可能性の「種」を手に入れる機会が、とても少ないのです。
すべての人に、どんな人間にでもなれる可能性があると、ぼくは思います。でも、もし自分が「なにをやりたいか」すらもわからなければ、どんな可能性も芽生えません。
学校というのは、そうした自分の可能性に気づくための場所でもあります。文字をならうことで、たくさんの本を読むことができます。新聞を読んだり、辞書をひくこともできるようになりますね。理科をならうことで、世界のさまざまな不思議にふれられます。花火はなぜ、あんなにきれいな色の火花をちらすのか、月はなぜ、細くなったり、まん丸になったりするのか、世界の仕組みを、ときあかしていくことができます。
家庭科を学ぶことで、おいしい料理で人をよろこばせたり、くつしたの穴をふさいだりできるようになるし、歴史を学ぶことで、これまで生きてきた、たくさんの人の人生について、知ることもできます。
そんなひとつひとつのものごとから、「自分はこれが楽しいな!」と思える「種」を見つけることが、学校に通う、大切な目的のひとつだと思います。
教室をふやすことで、ザンビアの田舎にくらす子どもたちの、そうした「種」を見つけることのできる時間が、少しでもふえてくれたらいいなと思い、このプロジェクトを思いついたのです。
ひとりでは見つけられない「種」がある
君はどうでしょう? 学校に通う中で、夢中になれるものと出合ったり、将来のすてきな夢の「種」を見つけることはできているでしょうか?
「そんなもの、見つからないよ」と思う君も、まだあきらめないでください。「学校で見つける」とはいっても、その「種」は、授業や教科書の中だけにあるわけではありません。自分とはちがう人と出会い、さまざまな感性や、考え方を持つ同級生と話したり、知らないことを教えてもらったりすることで、ひとりでは見つけることのできなかった、自分の可能性の「種」を見つけることができるのです。
たとえば給食の時間に、「この牛乳はどこからきたのだろう?」と、「らくのう」や「動物」に興味を持つかもしれません。たとえば友達が落ちこんでいるのを見て、どうやったら助けられるかなと、「カウンセラー」になりたいと思うかもしれません。休み時間の遊びの中で、「プロスポーツ選手」や、「昆虫学者」、「漫画家」や「建築家」になりたいと、そんな可能性の「種」を見つけられるかもしれません。
可能性の種はみつけられることを待っている 撮影/佐藤慧
もし君が、学校でなかなか「種」を見つけられなくても、大丈夫。「種」は学校の中だけにあるわけではないのです。世界は、学校の何千倍も、何万倍もひろいのですから。学校ですごす時間というのは、そんな、もっともっと広い世界の中で「種」を見つける、練習のようなものかもしれません。
「もう種をみつけたよ!」という君は、さらにたくさんの種を見つけられるかもしれません。「種」はいくつ持っていても、いいのです。ポケットいっぱいにつめこんだ「種」が、大人になってから、とつぜん芽を出し、花ひらくこともあるでしょう。その「種」を友達に分けることで、その友達にとっての大切な「種」になるかもしれません。
今日君は、どんな「種」を見つけられるかな? 君の見つけたその「種」は、どんな花をさかすのでしょう?
執筆者紹介
佐藤 慧
フォトジャーナリスト
1982年岩手県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル/D4P)フォトジャーナリスト、ライター。同団体の代表。世界を変えるのはシステムではなく人間の精神的な成長であると信じ、紛争、貧困の問題、人間の思想とその可能性を追う。言葉と写真を駆使し、国籍−人種−宗教を超えて、人と人との心の繋がりを探求する。アフリカや中東、東ティモールなどを取材。東日本大震災以降、継続的に被災地の取材も行っている。著書に『しあわせの牛乳』(ポプラ社)、同書で第二回児童文芸ノンフィクション文学賞など受賞。東京都在住。

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