教材と向き合う旅へ
子どもたちの力を育むことができる授業を行うためには、授業そのものの進め方の工夫も大切ですが、授業前にどれだけしっかり準備できるか、つまり、入念かつ臨機応変な対応も可能な授業計画を作っておくことができるかも、非常に重要なことです。
とりわけ国語の授業では、教材そのものの特徴をとらえる「教材分析」と、その特徴を生かした授業の方向性を考える「教材研究」が大切です。
このことは、多くの皆さんもよくご存知だと思います。その一方で、「教材分析をしようと思うのだけれども、どこから手をつければよいか、わからない」といった悩みもよく聞きます。
そこで今回、「教材分析のための鉄則」を整理し、こちらでご紹介することにしました。
本来、教材分析の方法にきまりはありません。ご自身なりの着眼点、方法で分析してよいのです。しかし、「どうしていいかわからない」「どこから手をつければいいのかわからない」というときのために、「では、まずはこの3つをやってみてください」というものをまとめています。
国語授業の「鉄則」
【物語の教材分析の《3つの鉄則》】
【説明文の教材分析の《3つの鉄則》】
【詩の教材分析の《3つの鉄則》】
「教材分析は、この3つだけでいい」というものではありません。まずはこの3つの鉄則で分析をはじめ、そこから見えてきた特徴に応じて、さらに分析を進めていただければと思います。
それでは、詳しく見ていきましょう。
【物語の教材分析の《3つの鉄則》】
鉄則1 基本三部構成をとらえる!
まずは、物語全体が、どう構成されているかをとらえます。
「基本三部構成をとらえる」とは、物語全体を「設定の部分」「山場の部分」「結末の部分」の3つの部分に分け、全体の構成をとらえることです。
基本三部構成をとらえることで、その物語の組み立ての特徴が見えてきます。
鉄則2 「設定」をとらえる!
物語の舞台となる時・場所や、登場人物の人物像などを設定といいます。物語で設定をとらえることは初歩的なことなので、ともすると軽視される傾向もあるようです。
しかし、物語とは「中心人物の変容」を読むものです。「はじめはどうだったのか」をきちんととらえておかないと、「何によって、どう変わったのか」も見えてきません。
また、物語の中での中心人物の考え方や行動の理由も、設定から読み解くことができます。「ごんぎつね」では、なぜごんは兵十に栗やまつたけを届けたのか。単純に「いたずらをしたことへの償い」と考えてしまいがちですが、冒頭での「ひとりぼっちの小ぎつね」という設定に着目すれば、「おれと同じひとりぼっちの兵十」に対する気持ちが償いだけではないことが見えてきます。
さらに、「伏線」も設定の一つです。伏線は中心人物の変容に深く関わる大切な要素です。教材分析を行う上では見逃せません。
鉄則3 中心人物の変容から主題をとらえる!
くり返しになりますが、物語とは、つきつめれば中心人物の変容を描いたものです。中心人物が、何によって、どう変わったのか、いつ変わったのかをしっかりとらえておかなければなりません。
勘違いされやすいことですが、物語の学習とは、物語の結末をとらえることではありません。「作者がその物語を通して描きたかったこと」つまり「主題」をとらえることが目的です。そしてその主題は、「中心人物の変容」によって描かれているのです。したがって、物語の学習においては中心人物の変容をとらえることが、「主題=物語の心臓」をとらえることになるのです。
【説明文の教材分析の《3つの鉄則》】
鉄則1 基本三部構成をとらえる!
物語と同様、説明文でも、まずは全体がどうなっているかをつかむために、基本三部構成をとらえます。
説明文の基本三部構成は、「話題・課題の部分」「事例・具体例の部分」「まとめ・主張・要旨の部分」の3つです。
基本三部構成をとらえることは、このあとの「鉄則2 話題・課題をとらえる!」「鉄則3 まとめ・主張・要旨をとらえる!」ための土台ともなります。
鉄則2 話題・課題をとらえる!
説明文を読むとき、どうしても「事例・具体例」に目が行ってしまいがちですが、「事例・具体例」は、「まとめ・主張・要旨」――つまり筆者がその文章で伝えたかったことを述べるための材料にすぎないと言ってもいいくらいです。
それよりも「この文章で何を述べようとしているのか」「筆者は何を提起しようとしているのか」を示している「話題・課題の部分」をとらえておくことはとても大切です。文章の方向性をとらえることにつながります。
鉄則3 まとめ・主張・要旨をとらえる!
まとめ・主張・要旨をとらえることは、説明文の心臓をとらえることになります。
ここで注意しなければならないことは、まとめ・主張・要旨の違いです。
「まとめ」は、そこまでで述べられた事例・具体例などをまとめたもので、そこに筆者の強い主張などは入りません。低学年で扱う、事実を述べた説明文などになどに多く見られます。
「主張」は、事例・具体例などを踏まえた上で、筆者が述べる自分の考えです。中学年になると、最後に筆者の主張が述べられている説明文が多くなります。事例・具体例などをいったんまとめ、その上で筆者の主張を述べる場合もあります。まとめを主張ととらえてしまわないよう注意してください。
「要旨」は、まとめや主張を一般化したものです。筆者がその文章で伝えたかったことを抽象化したものともいえ、物語の「主題」と共通するものです。筆者の主張の後、要旨まで述べられている説明文は高学年になってから登場します。
すべての説明文にまとめ・主張・要旨の3つが揃っているというわけではありません。
【詩の教材分析の《3つの鉄則》】
鉄則1 五感をとらえる!
詩で描かれていることは、作者が五感を通して得た感動を言葉で表現したものです。視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚のうち、おもにどの感覚によって得た感動が描かれているのかをとらえます。
それによって、何が描かれているのかをつかみやすくなり、作品をまるごととらえることにつながります。読みの方向性をもつことができます。
鉄則2 使われている技法と効果をとらえる!
詩には、リフレーン、リズム、連構成、比喩、韻など、様々な技法が使われており、それによって効果が生まれています。私たちが詩から受け取る印象は、その効果によるものです。
どんな技法が使われているのかをとらえることから、作者が描こうとした感動の方向をつかむことができます。たとえば、五七調の言葉が多く使われていれば重厚な空気感を表現しようとしているのではないかと考えることができますし、七五調であれば軽快な調子を描きたかったのだとわかります。
鉄則3 作品全体に流れる規則性をとらえる!
詩には、何らかの規則性をもって作られているものもあります。たとえば、連を構成する行数や、1行の文字数がそろえられていたり、使われている擬音語・擬態語の種類だったり、とりあげている題材(各連で、3文字のくだもの名をあげている――といったこと)であったりします。
このような規則性は、その詩がもっている大きな特徴です。たとえば、同じ規則性をもった連がいくつか続いたあと、最後の連だけあえてその規則性が崩されているとしたら、そこに作者の感動の中心があるのではないかと考えることができます。
また、その規則性を生かした創作活動を行うこともできます。詩の創作は評価が難しい面もありますが、「授業で扱った詩の規則性を生かした詩を創作する」という具体的な課題を提示すれば、評価のポイントが明確になります。
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以上、「物語」「説明文」「詩」の教材分析の3つの鉄則についてご紹介しました。もちろん「鉄則」はこれ以外にも「音読」「漢字指導」「話し合い」などの「指導の鉄則」としても考えられます。それはいずれ紹介させていただきたいと思います。
次回からは、具体的な教材を取り上げて、鉄則による教材分析・授業づくりをご紹介させていただきます。
次回は、5月21日を予定しています。質問やリクエストなどございましたら、下部コメント欄からお気軽にお問い合わせください。