「スイミー」を使った単元づくり

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「スイミー」を使った単元づくり - 東洋館出版社

「スイミー」は、レオ=レオニによって文も絵も書かれた作品です。大きなまぐろにきょうだいたちを食べられてしまったスイミーが、仲間と力を合わせてまぐろを追い出す展開は、子どもが大好きなハッピーエンドストーリーとなっています。登場人物や構成を捉えやすく、複数の教科書に取り上げられています。

体言止めや比喩、倒置法などの表現技法が駆使された谷川俊太郎の訳文は、詩情豊かで心地よいリズムを生み、子どもたちは繰り返し音読を楽しみます。また、「こわかった。さびしかった。とてもかなしかった。」など、スイミーの視点で語られていることから、子どもは自然とスイミーに寄り添って読み進めていきます。

800字程度と短い作品であるため、音読に取り組ませたり、短い時数で扱ったりするのに適しています。低学年の学習だけでなく、中学年では既習事項の確認や揃えとして、高学年では体言止めや比喩、倒置法といった表現技法の教材として扱うこともできます。

新学期の物語学習では、当該学年の〈物語の読み方〉を身に付けることに加え、次の3つを意識して単元を構想します。

  1. 既習事項を確かめ、学びの揃えを行う。
  2. 物語を読むことを好きになり、読書へと導く。
  3. 音読の技能、読み取る力、自分の考えを書く力、対話する力など個の状態を把握する。

特に、1)の〈物語の読み方〉を確かめて学級全体の学びを揃えることが大切です。2学期以降の学習に大きく影響します。2)は年間の読書指導の導入となります。3)の個の捉えは、学習開きから継続しているものです。

では、2年生の1学期に「スイミー」(光村図書2年上)を扱った実践をご紹介します。

まず、「スイミー」を読み聞かせ、「このお話を紙芝居にして1年生に聞かせようか」と呼びかけました。「紙芝居を作りたい」と意気込む子どもたちが、次の瞬間「紙は何枚必要かな」と言い始めました。

ある子どもの「私はまぐろを書きたいから1枚目がいいな」という言葉に、「はじめからマグロがいたら、きょうだいたちは食べられちゃってるよ」と返す子もいます。「『ある日、おそろしいまぐろが……』とあるから、『ある日』より前にはまぐろはいない」という発言をきっかけに、時が変わるところが紙の切れ目となることに気付きました。

さらに、新たな登場人物が登場するところや、場所が変わるところ、出来事の変化も紙の切れ目であることを見つけ出しました。紙の切れ目は場面分けの条件であり、物語の筋を読み取るための要素とも重なります。

【物語の筋を捉える要素】

登場人物(中心人物や対人物といった役割)

場(場所)

出来事(事件)

結末(最後どうなったのか)

1年生では「だれ?」「いつ?」「どこ?」と一つ一つ指導者がリードしながら読んできました。本単元では、それらの要素を子ども自身に見つけさせることをねらったのです。指導者である私は紙芝居を作らせたいとは思っていません。子どもが自ら〈物語の読み方〉を見つけるのに適した活動が、紙芝居作りであったのです。また紙芝居をするには、繰り返し音読したり、スイミーの心情を読み取ったりする必然も生じます。このように、子どもの目的と指導者のねらいは異なります。

低学年で言語活動を設定することが効果的なのは、次のような理由によります。

  • 何をするのかが、子どもにとって明確である
  • 意欲的に学習できる
  • 言語活動の過程で、必然的に言葉の力を身に付けることができる

ただし、ねらいに適した言語活動を設定するには、その活動で使う言葉の力について十分な吟味が必要です。

単元終末に同一作者の作品を多読させる活動は、よく行われます。しかし、それだけでは、読解で身に付けた〈読み方〉を使って読んでいるかどうかわかりません。〈読み方〉の活用の仕方を学ぶ手立てが必要です。そこで、「スイミー」との比べ読みの学習を仕組みました。そもそも別の物語ですから、登場人物も出来事も異なります。それでも共通するのは、登場人物の役割や構成です。それらを子ども自身に見つけさせることが、〈読み方〉を読書に活用できるようにするポイントです。
読み比べる作品は、次の2点を観点として探しました。

  1. 登場人物の人物像や役割が「スイミー」と似ていること
  2. 構成が〈始め―事件―解決―結末〉となっていること

本単元では、「あいうえおのき」(レオ=レオニ作/谷川俊太郎訳・1979年・好学社)を選びました。これは、嵐によって仲間を吹き飛ばされてしまったもじたちが、知恵者によってみんなで力を合わせて文を作り、困難に立ち向かうという話です。比較の思考を働かせやすいように板書を工夫し、教科書「スイミー」の挿絵に合わせて、「あいうえおのき」の絵本から〈始め―事件―解決―結末〉を含む5枚の挿絵を並べました。

「二つの話のにているところを見つけよう」とだけ呼びかけ、共通点や類似点をノートに箇条書きさせました。その際、「どちらも」から書き始めさせることで、共通点や類似点を端的に表現できるようにしました。

  • どちらも、作者と訳者が同じ。
  • どちらも、悲しいことがおきた。
  • 私は、どちらも事件がおきたと書いた。
  • どちらも、最後はハッピーエンドで終わる。
  • どちらも、仲間と協力して乗り越えた。
  • どちらも、はじめは平和に暮らしていた。

このように、子どもは話の流れに関係なく発言するので、挿絵に合わせて板書します。板書がいっぱいになると、「はじめは、平和に暮らしていたけれど途中で事件が起きた。最後はそれを乗り越えることができた」と、構成に目が向きます。そこで構成の言葉を貼り物で目立たせました。

2つの作品を比較した板書

登場人物の役割や特徴の共通性も指摘します。

  • どちらも、困ったときに助けてくれる人物がいる。悪者もいる。
  • どちらも、登場人物が小さい。そしてたくさん出てくる。
  • あぁ、だからみんなで力を合わせないといけなかったんだ。

このほかに「どちらも自然が舞台になっている」と場の類似点も指摘しました。板書を整理しながら、【物語の筋を捉える要素】と【話の流れ(構成)】の二つが似ていることを確認しました。

「レオ=レオニさんが伝えたいことが似ている」と、作品のテーマ(主題)について発言する子どもが現れました。2年生で主題に迫らせる必要はありませんが、「二つのお話から、『レオ=レオニさんは○○ということを伝えたいのかな』と考えた人はいますか?」と尋ねてみました。すると、いくつもの意見が出ました。

  • 困ったことや辛いことがあっても、みんなで力を合わせれば乗り越えられる。
  • 困ったことがあっても、自分たちの力で解決することができる。
  • 一人一人の力は小さいけれど、みんなが協力すれば大きな力となる。
  • あきらめないことが大切。   など

こうして、比べ読みの観点に【作者が伝えたかったこと(作品のテーマ)】が加わりました。

読解から読書へのつなぎは完了し、多読に入りました。「レオ=レオニさんの絵本を読んで、『スイミー』と似ているところがあったらメモしましょう」と指示して、読み比べる際の三つの観点を書いた模造紙を掲示しておきました。

3つの観点を示した模造紙 

記録用紙には、書名と共通点や類似点をメモさせます。「事件が起きた」「中心人物の知恵で解決した」といった構造や、人物像や場などに類似点をメモさせます。何も見つからなければ「なし」と書けばよいことも伝えました。感想ではなく、類似点を書かせることで学んだことを活用しているかどうかを見取る記録となります。

本単元では、「スイミー」と読み比べるのに「あいうえおのき」を取り上げましたが、「フレデリック」(レオ=レオニ作、谷川俊太郎訳、2000年、好学社)も適しています。「ちょっとかわったねずみのはなし」という副題の通り、一匹だけ他とは違うねずみが仲間を救う話です。ねずみと魚の違いはあるものの、「スイミー」との共通点が多い点でおすすめです。

「スイミー」を中心学習材として次のような単元も構想できます。

  1. 読書単元・ レオ=レオニの作品をポスターにして紹介し合う(主題を含むと中学年以上でも可) ・ 魚の出てくる話を読み集めて紹介し合うなどテーマ読書をする
  2. 表現単元 ・ レオ=レオニの作品を劇やペープサートにして発表する
  3. 創作単元 ・ スイミーの人物像や設定を使い、〈設定-事件-解決-結末〉の構成で物語を創作する 〈設定―事件―解決―結末〉といった構成を意識して書く
  4. 評論単元 ・ 「スイミー」の表現技法(比喩、体言止め、倒置法など)や色彩語などに着目して評論文を書く(高学年) ・宮沢賢治など他の作者の作品や谷川俊太郎作品と比較した評論文を書く。

中学年や高学年では、それぞれのねらいに合わせて既習教材として「スイミー」を使った単元を展開することができます。

青山由紀(あおやま・ゆき)

筑波大学付属小学校教諭

全国国語授業研究会理事/日本国語教育学会理事/光村図書小学校『国語』教科書編集委員

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