一人ひとりが思いを語り合い・学び合う平和教材「ヒロシマのうた」

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一人ひとりが思いを語り合い・学び合う平和教材「ヒロシマのうた」

単元名:「ヒロシマのうた」〜原爆をテーマにした作品を通して戦象と平和について語り合う 教材:「平和のとりでを築く」(光村図書/6年)※プレ教材として    「ヒロシマのうた」(東京書籍/6年)
「ヒロシマのうた」の授業づくりを紹介します。
本教材は原爆についてリアルに描かれており、子どもたちにとっては文量も多く、時代設定を理解しづらいため、読み解くのが難しい作品ともいえるでしょう。
今回は、安達真理子先生(カリタス小学校)に、平和教材を一人ひとりが自分事として読み、学び合って、そこから自分なりの考えを形成する授業づくりについてご提案いただきました。

国語科は、個人の発想や解釈の違いを通して学び合うことに意義のある教科である。一人ひとりが自分の言葉で語り合い、聴き合うことを通して、思考を深められるように促し、共に学び合うことの価値を実感して、人間的な成長をもたらしたい。

本単元は、「ヒロシマのうた」と「平和のとりでを築く」を通して原爆の真実を知り、戦争と平和についての思いを語り合って、どのような生き方をしたいと願うかという「考えの形成」を促すものである。

近年、長時間を費やすような大単元は指導計画に組み込まれないので、本実践のような授業時数を確保することは難しいだろう。しかし、平和教材においては(平和教材だからこそ)、一人ひとりが自分事として読み、学び合って、そこから自分なりの考えを形成することが重要であろう。本実践は、そのための一つの試みとして受け止めていただければ幸いである。

平和教材を全員が自分事として読み、語り合える環境を設定するには、事前に方針を決めて、それなりの手立てを打たなければならない。本単元における方針と手立ては、以下の通りである。

  1. 全員が、読みの構えをもてる ⇒様々な文献から必要な知識・情報を共有する。  
  2. 全員が、筆者や作者、登場人物の視点に立てる ⇒自分事としての読みを促す。
  3. 全員が、語り合い・聴き合いに参加できる ⇒授業形態(ペア・班別・個の考え別)を吟味する。
  4. 全員が、自分の考えを形成できる ⇒「書くこと」活動(鑑賞文作成)によって自分の考えを表現し、それらを互いに鑑賞する機会を設ける。

「ヒロシマのうた」は、原爆について最もリアルに描く文学作品といえる。他に類を見ない程に文章が長いことや、時代設定を理解しづらいことなどから、読み解く上でかなりの手強さが感じられる。また、冒頭にある被爆直後の情景が、目を背けたくなる程リアルな描写であるという、心理的な負担感や困難さも伴う、ある意味で覚悟が必要な難教材であることは事実である。

しかし、作者・今西祐行の実体験(水兵として被爆直後の広島で救護活動を行った)に基づいて作られた、非常に重厚な作品でもある。主人公の少女「ヒロ子」と「ヒロ子の母」、その2人を見守る「わたし(稲毛)」との16年間にわたる壮大な物語を、自分事として丁寧に読み、戦争の真実について考えを深めたい。
様々な難解さを乗り越えるため、一人ひとりの想像力を駆使して協働的に読み深め、物語が描く世界を学級全体で共有し想像していきたい。さらに、物語に秘められたメッセージを受け止めながら、戦争と平和に対する自分なりの考えを形成することができたら、主体的で豊かな読みとなるだろう。

一方、プレ教材として用いる「平和のとりでを築く」は、新聞記者であった筆者による説明文である。原爆ドームの保存に関して、1960年急性白血病のために16歳で亡くなった少女の日記がきっかけとなったことが記されているが、これは「ヒロシマのうた」に登場するヒロ子の育ての父が急に亡くなるという部分と重なる、原爆の実相である。6年生の子どもが「人の心の中に平和のとりでを築く」とはどういうことかと、自分事として考える契機になる文章だろう。

  • 原爆に関わる文献を読むことを通して、考えを広げたり深めたりすることができる。C(1)イ
  • 原爆を描く文章から戦争の事実を理解し、既有知識と関連付けて多様な見方・考え方ができる。C(1)ア
  • 物語の全体像や登場人物の心情を具体的に想像したり、表現の効果を考えたりすることができる。C(1)エ
  • 戦争について自分事としてとらえ、主体的に読み深めて、考えを形成することができる。C(1)ウ
  • 考えの共有を通して他者の解釈・鑑賞に耳を傾け、自分の解釈・鑑賞を更に深める。C(1)オ
  • 原爆に関わる作品に幅広く触れ、テーマをもって探究的な学びへと発展させる。C(1)カ

以下、単元計画表の凡例は以下の通り。

平:「平和のとりでを築く」

ヒ:「ヒロシマのうた」

めあて・主な発問 ねらい・留意点 (1)〜(4)本単元における手立て
第一次 1 平:「平和のとりでを築く」(題名)とは? 説明文と出合う・初読の感想を表出する
2 平:書かれている事実を検証しよう 資料を活用して検証する:(1)知識・情報の共有
3 平:筆者が読者に訴えかけていることは? 読者として考えを形成する:(2)自分事の読み
第二次 4 ヒ:「ヒロシマのうた」(題名)とは? 物語と出合う・初読の感想を表出する
5 ヒ:物語の設定を捉えよう 1〜3場面での時・登場人物の変化を捉える
6 ヒ1場面:「わたし」の行動を図に描こう 「わたし」の行動を捉える:(2)自分事の読み
7 ヒ1場面:「わたし」の心情を想像しよう 場面を選んで語り合う:(3)個の考え別の活動
8 ヒ2場面:出来事を図で確かめよう 7年後のやり取りを捉える:(1)知識・情報の共有
9 ヒ2場面:両者の心情を想像しよう 人物を選んで語り合う:(3)個の考え別の活動
10 ヒ3場面:再会の経緯・状況を捉えよう 15年後の状況を捉える:(2)自分事の読み
11 ヒ3場面:「ヒロ子」の心情を想像しよう 会話文から心情を想像する:(3)個の考え別の活動
12 ヒ:最後の一文にはどんな意味がある? 情景描写と主題を考える:(2)自分事の読み
第三次 13 ヒ:物語のよさは?学んだことは? 鑑賞文(平和への思い等):(4)鑑賞文の作成
14 ヒ:鑑賞文を読み合おう 鑑賞文を相互評価する:(4)鑑賞文の作成

表1

まず、物語の背景を理解しやすくする手段として、「平和のとりでを築く」を先に読み、原爆の事実を知識として学んでおく。一人ひとりがもっている原爆に関する情報や戦争のイメージは千差万別なので、歴史的事実から基本的な知識を得て、読みの構えを築いておくためである。

原爆症や急性白血病など、「平和のとりでを築く」に書かれている内容から理解しておくことで、「ヒロシマのうた」の読みがスムーズになる面が多々ある。また、説明文を読んで原爆の事実に衝撃を受け、疑問や問いをもつことで、物語を読む上での主体性や覚悟が生まれることも大事な点である。

物語の読みにおいては、単に悲惨さを受け止めるだけではなく、登場人物が追い詰められていく苦しさや、やるせない悲しさ、それを乗り越える強さに想いを致すところまで、読み深めさせたい。それには、時代背景や被爆直後の広島の様子、登場人物が取った行動についての状況理解が必要となるので、「構造と内容の把握」に時間をかけて、全員が想像できるよう促したい。

学習内容 主な発問・指示⇒予想される反応 ※教師の支援/評価
場面の把握 (1)「わたし」「ヒロ子」「ヒロ子のお母さん」誰の心情を中心に想像したい?⇒「ヒロ子」(恐らく多数)

※灯籠流しの動画を見せ、場面を想像しやすくする。

心情の想像 (2)自分にとって、一番心に響く「ヒロ子」の言葉はどれ?それはなぜ?
「あたし、お母さんに似てますか?」
(自分のお母さんの顔を知らないなんて・・・。その悲しさが感じられるから。) 
「会ってみたいな」
(会った記憶がなく、これから先も会えない辛さが表れているから。)他

※全員が自分にとって印象深い言葉を挙げられるようにする。

⇒選ぶ言葉によってグループを作成し、活動する。
・・・手立て(3)個の考え別の活動

※自分事としてヒロ子の状況を想像し心情を表現することができたら、価値づける。

※共有して繋がりを見出す。

振り返り (3)「ヒロ子」の心情について振り返って書きましょう。 ※自分の言葉で振り返らせる。

表2

第11時 板書

誰の心情を中心に想像したい?

⇒「ヒロ子」 ★予想される発言:「第3場面は、ヒロ子の心情を中心に描いている場面だから」など。

一番心に響く「ヒロ子」の言葉は?

  1. 「とうろう流しです。去年もやっていました。きれいですよ。」
  2. 「何ですか、それ。」
  3. ヒロ子ちゃんはだまって聞いている様子でした。
    (言葉になっていないが、本当に驚いている時は声が出ないから。ヒロ子の言葉ではないけれど大事だから。)
  4. 「あたし、お母さんに似てますか?」
  5. 「会ってみたいな・・・・・・。」

①~⑤のうち、どれについて深く考えたいかを選びグループを形成して話し合う。

各グループで考えたことを共有する

各グループのまとめ

  1. とうろう流しを「きれい」としか思っていなかったヒロ子が、自分に関係する原爆の話を聞き、捉え方が変わった。戦争と原爆を二度としないでほしいという気持ちになった。
  2. 第1場面から16年経っていて、名札というものが何なのかも知らずに質問した。そして、見知らぬ人の名前・住所・血液型を不思議そうに眺めている。実はお母さんものだが……。
  3. 傾聴して、自分の中で受け止めている。第2場面(実の子ではないことに薄々気付いていた)とつながった。この話を聞いたことで「ミ子」と「ヒロ子」が同一人物になった。
  4. しっかり受け止めた後、「にっこり笑って」言った。稲毛さんへの気遣いだろう。お母さんとつながっていると分かり、薄々気づいていた思いがすっきりした。勝ち気になれた。
  5. やっぱりショックだったのだろう。本音が出た言葉。思っていることを口に出すことはないから、それほど強く思ったということなのだろう。お母さんに会ったことはあるけれど、その時は赤ちゃんで記憶にない。「・・・・・・」に意味がある。この後、ワイシャツに原子雲の刺繍を入れるが、それは現実を受け止めるという気持ちの表れだろう。

各グループからの考えを聞き、「ヒロ子」の心情についての思いをノートに書く。
自分とは違うグループの解釈や意見に触発された内容の振り返りが多かった。多様な観点で読み深め、多くの見方・考え方に出会えた喜びが綴られていた。グループで話し合い、クラスで共有することで、読みの幅は確実に広がっていた。

『作者からのうったえは』
原爆の出来事をベースとして書かれた「ヒロシマのうた」は、後世の私たちに戦争がどれだけ悲惨なものであったかを教えてくれる。
物語は原爆の翌日未明、「わたし」が見た情景描写からはじまる。実際に作者が見たであろう一つ一つのことが、令和の世を生きる私たちが到底知り得ないことばかりで、冒頭からショッキングだといえよう。
時は流れて七年後、あの時「わたし」が通りすがりの家族に託した赤ちゃんの存在が物語を展開させる。ふと聞こえたたずね人から文通が始まり、実際に会うことになる。そして「追っかけるように」来た手紙に出てくる、義理のおばあさんの存在に私は注目したい。亡くなった実の孫と代わって現われたもう一人のヒロ子。複雑な感情が行きどころをなくし、「拾われた子のくせに・・・・・・」とヒロ子に八つ当たりする様は、傍から見ればダメなことである。しかし、よくよく考えてみればそれも当然といえる。どこの馬の骨とも知らぬ子に、実の孫のように接しろ、など無理があるからだ。原爆症で亡くなった息子のこともあり、戦争のことを思い出させるヒロ子を嫌悪してしまうのは、どう抗っても自然に湧き上がる感情だ。
戦争によって、原爆が落とされなければ、ミ子もお母さんと過ごせたかもしれない。橋本さんたち一家だって、幸せにいられたはずだ。そう思わずにはいられない。全ての原因が戦争に帰結するこの物語は、「戦争は二度としてはいけない」とうったえているのである。

この子どもの鑑賞文を読むと、戦争を自分事として捉えて物語を主体的に読み深め、学び合いを通して考えを形成してきたことがうかがえる。様々な視点からの読みを共有してきたからこそ、単なる悪役で終わりそうな「義理のおばあさん」に着目し、その視点からも戦争の実相を炙り出すことができたのだろう。

本校では数十年来、3年生以上の各学年で平和教材を単元化することを伝統としてきた。それは、「共に祈り、学び、仕える人に」との学校教育目標に照らして、「平和をつくり出す人」を育てるための実践である。今後も、平和教材を自分事として読み味わい、一人ひとりが語り合い、学び合い、考えを形成していきたい。

安達 真理子(あだち・まりこ)

カリタス小学校教諭 

全国国語授業研究会理事/東京国語教育探究の会副代表/東京書籍小学校国語教科書編集委員/前日本私立小学校連合会国語部会全国委員長/全国大学国語教育学会会員/日本国語教育学会会員

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