「どうぶつの赤ちゃん」〜学びの選択肢が個と協働の学びを支える〜
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執筆者: 山田 秀人
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単元名:くらべて よもう 教材:「どうぶつの赤ちゃん」(光村図書/1年)
「どうぶつの赤ちゃん」の授業づくりを紹介します。本教材は、ライオンとしまうまの2つの事例を挙げて、冒頭の問いに対する答えを説明しており、子どもが2つの事例を比較しながら読むことを促す仕掛けが工夫された説明文です。今回は、山田秀人先生(沖縄県・宜野湾市立大山小学校)に子どもたち一人ひとりが参加する国語授業を目指すための表現活動の工夫や、子どもが自分で学び方を選択できる手だての具体について、本教材での授業に沿ってご提案いただきました。
ここで言う「参加」とは、学習の場に居るだけではない。子ども一人ひとりが課題をもって、その解決に向けて自分なりに活動していることだと考えている。 例えば、教師の一方的な発問により、一問一答形式の授業で、いわゆる勘のいい子どもだけが発言していく授業があったとする。勘のいい子の発言のみが板書される黒板をノートに写すだけでは、ほかの子どもたちにとって、そこに一人ひとりの学習が成立しているとは言い難い。
藤井千春によれば、「学習とは、既有の知識を使用して世界と相互作用し、自らの知識体系(概念)を修正・発展的に再構成していく知的活動」であると述べられている。このことを本単元において考えてみる。動物の赤ちゃんについて、子どもが既にもっている知識や説明文についての知識体系を教材と向き合うことで、修正・発展的に再構成していくことだと捉えた。
ここでは、そのような学習のあり方が成立する全員参加の国語授業を支える手だてとして、次の2つを紹介したい。
①能動的な(必然性のある)読みにつながる表現活動(どうぶつの赤ちゃん図鑑づくり)
②多様な学び方を支える学びのオプション(ワークシートの選択)
本教材「どうぶつの赤ちゃん」は序論部で2つの問いを示している。その上で本論部では、「ライオンの赤ちゃん」と「しまうまの赤ちゃん」の2つの事例を挙げて、問いに対する答えを説明している。筆者は、読者が2つの事例を比較しながら読むことを促すしかけ(説明文特有の表現技法)を用いている。
例えば、2つの事例において、説明する観点を揃えている点である。赤ちゃんの「大きさ」や「目や耳」の様子、「お母さんと比べた見た目」「移動の仕方」「食べ物」などの観点が、同じ段落数に揃えられて説明されている。また、「1年ぐらい」や「7日ぐらい」など具体的な数字を示し、加えて「もう」や「たった」という副詞的な表現により数字が読み手に与える驚きを増幅させている。説明する観点を揃えた上で、その内容が強調されるような表現技法を使うことで、読み手は自然と2つの事例を比べて読みたくなるのである。
さらに、結論部が書かれていないことも特徴的である。「このように、動物の赤ちゃんの様子や大きくなっていく様子は、動物によって違っています」と、まとめを書くこともできたはずだが、2つの事例を比較して読むことを通して、子どもたちが感じたことや分かったことを引き出そうとしているのだと私は捉えている。
本単元では、このような教材を子どもが能動的に読むために「どうぶつの赤ちゃん図鑑」を作るという表現活動を設定した。図鑑を作るという課題が、子どもの「どのような内容を書こうか?」「どのような書き方をしたらいいか?」という問いを生み出すと考えた。その問いが読みの必然性につながるだろう。
また、図鑑づくりの活動を設定するために、単元前から『くらべてみよう! どうぶつの赤ちゃん』(増井光子(2008)ポプラ社)を読み聞かせている。みんなも実際に作ってみようと、意欲を喚起することも活動設定の流れに含まれている。
〔知識及び技能〕
〔思考力、判断力、表現力等〕
〔学び向かう力、人間性等〕
第 一次 |
学習の見通しをもつ(第1〜3時) |
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第 二次 |
事例や観点を比べて読む(第4~7時) |
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第 三次 |
「どうぶつの赤ちゃん図鑑」づくりに取り組む(第8~10時) |
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本時では、初めに子どもの感覚的な表現活動を促すことで、子どもの教材との出合いを印象付け、学習材で学んだことを自分の表現に活かすという学びの必然性を生み出そうとした。
動物をお題に、動物の名前を言っていくゲームである。同じ動物を言ってはいけない。みんなで順番に言っていき、全員言えたらゲームクリアとなる。動物にはどんなものがいるか確認するためにゲームを行った。
このゲームは子ども一人ひとりがもつ動物に関する既知を引き出すために行った。その際、「どんな動物?」などと 問い返していくことも有効であると考えている。 また、ゲームを通して子どもたちから出てきた動物は板書して残しておく。そうすることで、「図鑑づくり」へと向かう単元全体の学習活動において、自分がどの動物で取り組みたいかを選ぶ選択肢になると考えた。
導入で、知っている動物の名前を想起するゲームを行い、教材との出合いの期待値を高めた。その後、まずは子どもたちに1段落の文章だけを載せた紙を配布した。
T:今日から学習するのは、この「どうぶつの赤ちゃん」という説明文だよ。
C:え? 何も説明されていないよ。
C:問いの文しか書かれてないよ。
T:ごめん、続きがなかったね。
自分がますいさんなら、動物の赤ちゃんの何を紹介するかな? 好きな動物で考えてみよう。
このように、どのようなことが書かれているか予想することで、書き手としての構えを持つことを促した。また、自分が書き手になる構えをつくることで、「動物の赤ちゃん図鑑づくり」という表現活動に自然と没入できるようにした。
本時のねらいは、「文章中の重要な語や文を考えて選び出すことができる」である。そのための活動のオプションとして、次のようなワークシートを4枚用意して、自分が取り組みやすい方法で活動するように促した。加えて、ワークシートは途中で変更してもよいことを伝えた。自分で学習を調整する力につながると考えたからである。
下記のようにワークシートを作成していた子がいた。この子は、文章中から抜き出した言葉と、自分がライオンの赤ちゃんについて知っていること(既知)を混同して書いていた。そこで、「教科書に書いてあることは赤丸、自分で考えたことは青丸にしてみよう」と声かけをした。自分の考えを書けていることは大いに称賛しながらも、本時のねらいである「文章中の重要な語や文を考えて選び出すことができる」ように活動の修正を促した。
それぞれが選んだワークシートを用いて読み取りを行なった後、交流する時間を設けた。異なるワークシートで取り組んでいる友達と交流したり同じシートを使う友達と相談したりすることで、個々の学びがつながり、必然性のある協働的な学びが展開されていったと感じている。
今回の実践では、以下の2つを取り上げて紹介した。
①能動的な(必然性のある)読みにつながる表現活動(どうぶつの赤ちゃん図鑑づくり)
②多様な学び方を支える学びのオプション(ワークシートの選択)
①は、読むことの目的や必然性をもたせるための工夫である。子ども自身が書き手の立場になることで、読むという受動的な行為が、「参考になることはないかな」「自分だったらどう書くかな」と試行錯誤しながら能動的に読むことになる。今回は、紙幅の関係上、書くことが苦手な子や異なる方法で表現したい子の願いを実現するための方法についてまでは言及することができなかった。第三次における表現方法のオプションの作り方については、またの機会に紹介したい。
最後に②については、今回、ワークシートに選択肢(オプション)を用意することの紹介にとどまった。他にも、音読の方法やノートの取り方、読み方などにも、子どもによって多様な学び方があってもよいと考えている。例えば、教科書を読むことにおいても、自分で読みたい子もいれば、教師の範読を聞きたい子、デジタル教科書を使いたい子、読み上げ機能を使って繰り返し聞きたい子など、様々な学びの様相が考えられる。子どもの多様な学び方を支える方法については、今後さらに研究を深めていきたい。
本稿で取り上げた2つの授業デザインの視点は、それぞれが個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を支えることにつながると考えている。
「どうぶつの赤ちゃん図鑑」をつくるという共通の課題が、仲間と「一緒に取り組もうとする姿勢」や「友だちのいいところを見つけようとする態度」を涵養する。しかし、その課題へのアクセスの仕方は多様な方法があっていいと私は考えている。それが、学びのオプションである。
〔引用・参考文献〕
増井光子(2008)『くらべてみよう!どうぶつの赤ちゃん(全10巻セット)』ポプラ社
藤井千春(2020)『問題解決学習で育む「資質・能力」』明治図書出版
山田秀人(2022)『体験から「論理」に気づく読みのゲーム60』東洋館出版社
山田 秀人(やまだ・ひでと)
沖縄県・宜野湾市立大山小学校
全国国語授業研究会監事/日本授業UD学会会員/UD35代表/UD国語
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