UDLの視点でつくる国語科授業 -2年説明文「どうぶつ園のじゅうい」(光村)の授業実践-

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UDLの視点でつくる国語科授業 -2年説明文「どうぶつ園のじゅうい」(光村)の授業実践-

米国発の「UDL(Universal Design for Learning:学びのユニバーサルデザイン)」*1とは、障害の有無にかかわらず、すべての学習者の学びを助けるための概念的フレームワークです。そのねらいは、「学びのエキスパート」(自らの学びを舵取りできる子ども)を育てることです。

いま日本では、「自立した学習者」を育てるために、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」を図ることが求められています。UDLは、その実現を目指す有効な指導方法の一つです。

UDLでは、「なぜ学ぶのか?」という学習者の目的意識を重視します。そして「何を学ぶのか?」「どのように学ぶのか?」を、学習者自らが選んで学びを進めるように支援します。

また、「カリキュラム」の障害を想定して、それを事前に対応しておきます。学習者自身が、学習の「ゴール」を目指して、「教材」「方法・手段」の「オプション」(複数の選択肢)を選び、自らの学び方を「評価」しながら学習を進めていけるようにするのです。

したがって、UDLの視点で国語科授業をつくるには、次の4つの要件が重要になります。

  1. 「単元のゴール」を明確にする (必然性のある学びをつくる)
  2. 「教材のオプション」の活用を図る (中心教材・選択教材を準備する)
  3. 「方法・手段のオプション」の活用を図る (学び方の調整を支援する)
  4. 学習者と「評価」を共有する (評価の観点を明確にする)

以下では、UDLの視点で展開した国語科授業の具体について述べます。

一日のしごとリーフレットをつくろう

「どうぶつ園のじゅうい」(光村図書/2年上)

本単元では、学習者が「一日のしごとリーフレットをつくる」という目的に向かって、「学びの必然性」をもちながら、中心教材「どうぶつ園のじゅうい」を個や協働で読み直します。また、興味のある仕事を選んで調べたり、理解や表現の「方法・手段」を選んだりできるようにして、自らの学びを調整しながら進めることができるようにします。

〔知識及び技能〕

時間的な順序に関する表現に着目しながら読むことができる。

〔思考力、判断力、表現力等〕

時間的な順序や事柄の順序などを考えながら、内容の大体を捉えることができる。

〔学びに向かう力、人間性等〕

「一日のしごとリーフレット」を進んでつくったり、動物園の獣医の仕事について感想を書いたりすることができる。

【第一次】

「どうぶつ園のじゅうい」を読んで感想を書いたり、「一日のしごとリーフレット」づくりの計画を立てたりする。 ・・・4+家庭学習

【第二次】

「一日のしごとリーフレット」をつくる中で、「どうぶつ園のじゅうい」の説明の仕方を読み直す。・・・7+家庭学習

【第三次】

「一日のしごとリーフレット」を紹介し合う。・・・1+家庭学習

「単元のゴール」を明確にする

●一日の仕事リーフレットをつくる

「教材のオプション」の活用を図る

●中心教材「どうぶつ園のじゅうい」

●選択教材「各自が興味のある教材を選ぶ」

「方法・手段のオプション」の活用を図る

●インプットに関するオプション
1.見学 2.インタビュー 3.書籍 4.動画 5.ウェブサイト

●アウトプットに関するオプション
A.画用紙 B.GIGAパソコン

学習者と「評価」を共有する

● 「はじめ・中・終わり」に注目して読んだり書いたりする。

● 「はじめ」では、大まかな仕事内容を読んだり書いたりする。

● 「中」では、時間的な順序に注目して読んだり書いたりする。

●「中」の事例の性質の違いに着目して読む。

● 「終わり」では、まとめに注目して読んだり書いたりする。

2-7-1.個の探究活動

各学習者は、単元を通して表1のような個の探究活動を行いました。なお、表で示した「IN」はインプットのオプション、「OUT」はアウトプットのオプションを示しています。

各学習者は、「一日のしごとリーフレット」をつくるために、自分が興味のある仕事を選び、自らの学び方の得意・不得意を考慮しながら学習を進めました。まさに「多様な学び方」で学習活動が展開されたと言っていいでしょう。

表1 個の探究活動の例

2-7-2.協働の活動

単元における「学びの必然性」に即して、下記の★印ように「協働の探究活動」としての話し合い活動を組織しました。

【第一次】教材を読んで感想を書いたり、リーフレットづくりの見通しをもったりする(4時間)
【第二次】「リーフレットをつくる中で、教材を読み直す(7時間)+家庭学習 第1時 「中」の事例(仕事内容)を調べる。
第2時「中」の事例(仕事内容)を書く。★
第3時「はじめ」の紹介として、大まかの仕事内容を書く。★
第4時「はじめ」「中」の事例を書く。
第5時「中」の事例の性質を検討する。★
第6時「終わり」のまとめを書く。★
第7時リーフレットを仕上げる。
【第三次】リーフレットを紹介し合う(1時間)+家庭学習

第一次では、「どうぶつ園のじゅうい」を読んで感想を交流したり、リーフレットづくりの計画を立てて見通しをもったりしました。一斉学習(協働)で確認することが大切です。

第二次では、協働でリーフレットの書き方を学んだ上で、個別にリーフレットを書き進めました。前者はできるだけ短時間で済ませるようにして、後者に時間をできるだけ確保するように進めました。特に第5時では、リーフレットづくりの中間発表会として、協働で検討する時間を設定しました。

なお、個の探究活動を活かすために、一番重要な「中」の事例を書き進めておいて、「はじめ」「終わり」の内容を書き加えていくようにしました。

第三次では、協働で互いのリーフレットを紹介し合いました。教室での交流だけではなくて、クラウド(本校ではNTT communications「まなびポケット」を使用している)による交流も行いました。

図1 A児「サッカー選手の一日」

図2 B児「南極観測隊の一日の仕事」

本単元では、よりよい「一日の仕事リーフレット」に仕上げるために、「どうぶつ園のじゅうい」を読み直すという展開にしました。

「リーフレットづくり」では、「個の探究活動」として、様々な学習対象に対して自分の学び方を調整しながら学習を進めることができました。

また、「協働の探究活動」として、個の「リーフレットづくり」という学びの文脈に寄り添って、協働での話し合い活動を設定しました。

例えば、第二次第5時では、「リーフレットづくり」の中間発表会として交流活動を位置づけることで、「1.自分のリーフレットの仕事内容→2.中心教材の読み直し→3.自分のリーフレットの見直し」を促しました。

学習者の「学びの必然性」が伴う「1.個の探究活動→2.協働の探究活動→3.個の探究活動」という探究活動のつなぎ方こそが重要です。こうしたつなぎ方が「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」の実現に通じると考えています。

*1 トレーシー・E・ホール他著,バーンズ亀山静子(訳)(2018):UDL 学びのユニバーサルデザイン.東洋館出版社.
*2 桂聖(2023):UDLの視点でつくる国語授業② 個別最適な学びと協働的な学びをつなぐ.教育研究,№1455.初等教育研究会.pp.86-89.
本稿は、桂聖(2023):国語における「探究的な学び」 〈私〉の作品をつくる学び.授業UD研究,vol.15.日本授業UD学会.pp.18-22.の改稿である。

桂 聖(かつら・さとし)

筑波大学附属小学校教諭

筑波大学非常勤講師兼任/全国国語授業研究会理事/日本授業UD学会理事長/光村図書『国語教科書』編集委員/小学館『例解学習国語辞典』編集委員

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