令和時代の総合的な学習の時間入門ー教科を越えて活用可能な指導力が向上する

    令和時代の総合的な学習の時間入門ー教科を越えて活用可能な指導力が向上する

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      Barcode: 9784491043845

      松村 英治/編著

      $14.00

      著者紹介

      松村 英治
      東京都大田区立松仙小学校主任教諭
      1988年、愛知県生まれ。東京大学大学院教育学研究科にて、秋田喜代美先生に師事、修士(教育学)。平成24年度より足立区立千寿常東小学校教諭、平成27年度より現職。国立教育政策研究所「評価規準、評価方法等の工夫改善に関する調査研究」(R1小学校生活)協力者。
      《主な著書》『授業研究の創り方』令和元年7月/『学びに向かって突き進む! 1年生を育てる』平成30年2月/『「学びに向かう力」を鍛える学級づくり』平成29年3月、いずれも東洋館出版社
      [2021年7月現在]

      目次

      第1章 どの学校でも無理なくできる総合の可能性
      多くの教師が抱える総合の悩み
      草の根的な課題と構造的な課題
      教科等の有する「よさ」を発信するむずかしさ
      総合の課題を乗り越える鍵

      第2章 及第点をクリアできる総合の単元モデル
      70点前後の及第点をクリアできる総合とは
      総合の単元モデル
      魅力やよさの発信型
      やるべきことの実践型
      やりたいことの実現型
      どの単元モデルが及第点をクリアしやすいか
      総合あるある落とし穴

      第3章 専門教科を軸にして他教科等の指導を充実する
      アサガオを育てて子どもが育つ
      「劇場型」から「立ち上げ型」への授業転換
      授業の緻密さとワークシートの落とし穴
      どの教科等でも子どもの思いや願いを出発点とする可能性
      教科等を通底する共通点と特質に基づく相違点
      「可能な限り」を広げる「単元構想力」
      そして、総合の世界へ
      国語の授業改善リバイバル
      単元内自由進度学習への挑戦
      二つの課題意識
      総合のジレンマは、各教科等の隠れた課題を映し出す鏡

      第4章 教科等と総合の授業を往還する指導の総合力が磨かれるプロセス
      第1節 子どもたちと共に学んでいける授業づくり
      学習課題を子どもとつくる国語授業
      見通しをもちながら、子どもたちと一緒に進んでいく
      迷いを伝え、博士からリスタートする
      どの教科等の授業においても、ピンチはチャンス
      チームとして総合を推進する

      第2節 子どもたちが思考を働かせる授業づくり
      社会科と総合が共に重視する「問い」
      「問題解決的な学習スタイル」と「探究的な学習プロセス」
      子どもも教師も共に成長できる
      コメント力を磨く
      教科書を使い倒す
      新たな教材や単元を開発する
      総合との出合い直し
      「とりあえず、まず調べる」をやめる

      第3節 先を見通しながら指導の方途を探る授業づくり
      体育の授業づくりで大切にしていること
      「防災」をテーマとする二つの実践から学んだこと
      スタートカリキュラムを経験したことで生まれた気づきと指導の仕方の変化
      学級総合のおもしろさとむずかしさ
      広い視野からテーマをとらえられれば、活動を通じて興味・関心を高められる
      学校全体で及第点をクリアできる体育授業を目指すには

      第4節 子ども自身が「何とかしたい」と思うことを課題にする学習づくり
      「3年生ならでは」を生かした総合の授業づくり
      国語の専門性と総合との親和性
      国語で培った指導力は総合でどう生きているか

      巻末資料 「やりたいことの実現型」単元モデル

          Description

          私(編著者・松村)は、総合的な学習の時間(以下、「総合」と略)は子どもにとっても教師にとっても、必要不可欠な意味のある時間だと思っています。総合に取り組むなかで先生方が授業力を向上させ、子どもたちと共に手応えのある「確かな学び」をつくり出している姿を、これまで幾度となく見てきたからです。

          しかしながら、そうした総合に出合えず、総合の本当のおもしろさを知らない子どもたちや先生方は全国にたくさんいると思います。それに対して、私は悲観的に受け止めてはいません。総合の有する課題の実態を受け止め、解決の方途を知ったうえで、できる範囲での実践を積み重ねれば、必ずよい変化が訪れることを知っているからです。

          本書で扱う総合は、独創性あふれるオンリーワンでも、名人芸と言われるナンバーワンでもありません。勤務校の実態、子どもたちの状況、地域事情などを鑑みつつ、無理なく実現できる実践を通して、子どもにとっても、教師にとっても魅力あふれる学びを生み出す総合です。

          本書には2つの軸があります。
          軸の1つ目は、「どの学校・教師でも、確かな理解に基づいて実践すれば必ず及第点をクリアできる総合」です。そこで、第2章では、「及第点をクリアできる総合の単元モデル」を紹介しています。

          軸の2つ目は、「総合の実践を通じて、専門教科の授業をよりよくする」「専門教科で培った授業力を総合で生かす」そんな専門教科と総合の授業を往還するなかで、普段使いの指導の総合力を向上させることです。そこで、第4章では、4人の先生方の実践を紹介します。

          この4人の先生方は、総合の実践はもとより、専門教科の実践においても全国的に名を知られているような「カリスマ教師」ではありません。どの学校にもいらっしゃるであろうごく一般的、しかしながら誠実で努力を怠らない教師です。彼らが「いかにして総合と出合い直し」「総合のおもしろさに気づき」「総合の実践を通じて、専門教科の授業力を向上させていったのか」そのプロセスを明らかにしています。

          [本書の軸1]
          及第点をクリアできる総合の単元モデル

          本書では、次の3つの単元モデルを紹介しています。

          [単元モデル①]魅力やよさの発信型
          [単元モデル②]やるべきことの実践型
          [単元モデル③]やりたいことの実現型

          ここでは、単元モデル③をかいつまんで取り上げたいと思います。

          [探究課題例]
          ●ものづくりの面白さや工夫と生活の発展(ものづくり)
          → この探究課題に、「情報化の進展とそれに伴う日常生活や社会の変化(情報)」を組み合わせることも考えられる。

          「やりたいことの実現型」は、子どもたち自身がとにかく「おもしろそう!」「やってみたい!」と思えることを出発点として活動を展開します。そのため、課題を自分事にもっていくための指導が必要ありません。実は、横浜市の大岡小学校や戸部小学校といった老舗校によく見られるモデルでもあります。

          人形劇、クレイアニメ、影絵、大道芸、和菓子やムービー作成といった、子どもがおもしろいと思える実践がたくさん行われています。しかも、指導計画をよく読むと、ものづくりが地域の方とのかかわり、地域の課題に結びついたりしているので、さすがは老舗校だと、そのレベルの高さを感じさせられます。

          しかし、本書で提案したいのは、ものづくりに特化したモデルです。つまり、地域の課題解決などといった難易度の高い実践に挑戦するのではなく、子どもがつくってみたいと思うことを実現する実践です。
          たとえば、人形劇をつくる実践であれば、次が考えられます。

          [活動内容例]

          ●単元の導入で子どもたちの人形劇への意欲を高め、どんな人形劇をやってみたいかというアイデアを出し合う。

          ●出し合った意見のなかからテーマを一つ決めて役割を分担する。

          ●人形劇を行う準備を進め練習する。

          ●ある程度形になってきた段階で、プロの人を招いて自分たちの人形劇を見てもらい、助言をしてもらう。

          ●プロの意見を整理・分析して、自分たちには何が足りないのか、改善するためには何が必要かを話し合う。

          ●単元の後半では保護者を(可能であれば地域の人も)招待して公演する。

          「やりたいことの実現型」ではものづくりを通じて活動を展開していくので、自分たちだけでは見つけ出せない課題を提供してくれる存在を設定することさえできれば、授業を課題探究にすることができます。

          その道のプロ(企業を含む)が地域で活動していれば、直接協力をお願いすればよいわけですが、そのような方が地域にいなくても問題ありません。GIGAスクール時代の今日ですから、子どもたちの練習風景や作品を撮影したデータを送って見てもらい、オンラインで課題を指摘してもらうという方法も考えられると思います。

          また、この単元モデルは、子どもたちの活動の成果が「モノ」として可視化される点に強みがあります。少しずつできあがっていく様子が目に見えてわかるので、自分たちの活動の積み重ねを実感しやすく意欲が持続するのです。

          [本書の軸2]
          専門教科と総合の実践を通じて、指導の総合力を向上させる

          第1節 子どもたちと共に学んでいける授業づくり
          —国語と総合を通底する授業の見通しと展開の見極め
          [実践者]村松千恵子(東京都大田区立松仙小学校主任教諭)
          [教職歴]12年目 [専門教科]国語

          総合の実践によって、村松先生の指導が変わったことはありますか?

          一番は、つまずきや壁を成長のチャンスだととらえられるようになったことだと思います。
          松仙小1年目の「食」の実践を通して、“悩んだり迷ったりすることはおもしろい”“ときとして学びがグンと広がる”と感じるようになりました。その結果、失敗や想定外の出来事に対して、あまり怖がらなくなりました。

          (中略)

          特に総合の場合には顕著ですが、どの教科等においても、授業では教師の想定外が起きます。こうした状況を楽しめるようになりました。

          以前は、教師の定めた道筋で進めて必要な答えに辿り着けることがよいと思っていて、そうなるよう努力していました。そうしたことも大切なことではあるのですが、そればかりにとらわれると、型にはめた授業にしてしまったり、子どもたちの意見を誘導するような発問をしてしまったりします。
          この点は大きく変わったと思います。「授業は生きものだ」とよく言われますが、“本当にそうだなぁ”と。

          これらに加えて、「この1時間で必ず到達したい」「ここまでは進めたい」と考えていることをきっちりやり切る力も伸びたように思います。
          総合については、子どもたちと話し合いながら進めていくし、絶対的な時間設定があるわけではないので、一つのことに何時間でもかけることができます。これは総合のよさである反面、むずかしさでもあります。

          いくら時間数設定に自由度があるとは言っても、単元の見通しをもつ段階で、「このサイクルや活動は〇時間」と決めて取り組むことも必要です。時間をかけさえすればいい学習になるわけではないからです。
          何でもかんでも状況に合わせて長引かせてしまうと、学習活動が這い回ってしまいます。それでは探究する学びにはなりません。

          (中略)

          時間的ゆとりをもちつつ、1時間のなかで話し合いがまとまらなければ次の時間にもち越したほうがいいという見極め、逆に時間をかけずにさっと決めて次に進んだほうがいいという見極めの双方が、教師には求められると思います。

          教師の見通しと準備、そして見極めの大切さは、総合に限ったことではないと思います。
          私自身、どの教科等の授業においても、いっそう大事にするようになりました。
          絶対に押さえなければいけないところは外さない、そのうえでなら脱線も、遠回りも、立ち止まることも、引き返すことも、やり直すこともしていい。そうするうちに、変化に対する心の余裕が生まれていったのだと思います。

          総合の実践は、専門教科である国語の授業においてどのように生かされていると思いますか?

          本来は当たり前のことなのでしょうけれど、「単元計画や学習課題、1時間の授業の流れを子どもたちと一緒につくっていく」ことを、それこそ“がっつり”やるようになったと思います。

          具体的には、国語の単元計画や学習課題をつくる際、「単元で身につける力」と、(「読むこと」であれば)「子どもたちの初発の感想」を照らし合わせます。
          単元で身につける力は、教師が単元のはじめに示します。
          初発の感想を書く際には、「はじめて知ったこと」「疑問に思ったこと」「もっと知りたいこと」「自分の考えと比べて」などの観点を示します。子どもたちが「何を書けばいいかがわからない」ということをなくすとともに、その後の課題設定をする際の焦点化のためです。

          学習課題を決める際には、子どもたちと話し合うことを大切にしています。「自分も学びたい」「友達の意見も聞きたい」と子どもたちが主体的に取り組める単元にしていきたいと考えているからです。

          その後の私の国語の授業は、およそ次のようなやりとりからスタートするようになりました。

          T「今日の学習課題は何ですか?」

          C「詩に込められたメッセージを考える、です」

          T「授業の進め方はどうしますか?」

          C「個人で考えてから、グループで交流。その後全体で交流!」
          C「その後、再構築をします!」
          C「いいと思います!」

          T「グループはどんな形にしますか?」

          C「今日は、尋ね歩きがいいです!」
          C「賛成です!」

          このように授業の冒頭で、子どもたちとやりとりしながら短時間で決めていくようにしています。これは、総合の授業でのはじめ方と同じです。

          (中略)

          このような授業の進め方ができるようになったのは、次のことが理由だと思います。

          ●総合的な学習の時間の進め方のベースを国語や他教科でも生かし、子どもと共に単元の学習計画を立てる。
          ●毎時間の終わりに、授業のまとめや次時の見通しを確認する。

          このスタイルで授業を続けていくうちに、子どもの学ぶ姿に次のような変化が生まれました。

          ①見通しをもって授業に取り組んでいる。
          ②1時間ごとのぶつ切りの授業ではなく、単元全体として一つ一つの学習課題をとらえている。
          ③自分たちで授業をつくっているという意識をもって学習に取り組んでいる。

          この3つのなかでも特に顕著なのが①です。
          たとえば、1つの課題に何時間かけて取り組むかがわかっていることで(見通せていることで)、集中力が切れることなく計画的に取り組んでいく力が高まったように感じています。

          また、1時間の授業でわかったことを次の課題に関連づけて考えられるようにもなったと思います。その結果、日常のなかで触れているものにも関連性を見いだすアンテナが強くなり、ニュースなどで見たことや自分の経験と関連づけられるようになっていきました。これは、「前後の課題を意識しながら学ぶ姿」だと私は考えています。
          このように①の力が高まることで、②や③の力につながっていったのだと思います。

          (後略)

          Specifications

          • 読者対象: 小学校教員
          • 出版年月: 2021年7月21日
          • ページ数: 224

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