子どもの1年間の学びを「横系統」でデザインする
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執筆者: 藤平 剛士
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単元名:「物語のおもしろさ」「物語の読みどころ」を紹介カードで伝える 教材:「帰り道」(光村図書6年) 「帰り道」の授業づくりを紹介します。本教材は6年生で最初に読む物語文であり、内容も子どもたちが自分事として捉えやすいテーマで描かれています。 今回は、藤平剛士先生(相模女子大学小学部)に、子どもが物語の「おもしろさ」や「読みどころ」をみつけ、登場人物に自分を重ね合わせて気持ちを考えるなど、子どもたちが意欲的に取り組む授業づくりについてご提案いただきました。
4月の新学年スタート。子どもも教師も期待に溢れている。これから始まる1年間で、子どもたちに「言葉の力をつけたい」「国語の魅力を伝えたい」そんな気持ちでいっぱいだからだ。特に「読むこと」の教材は、毎年、教材研究から力が入る。
国語の授業デザインには、「縦系統」と「横系統」がある。「縦系統」とは、学年の目標や内容の系統性を指し、「横系統」とは、1年間の指導目標や内容の系統性を指している。「縦系統」は、学習指導要領や教科書指導書などにも掲載されており意識されやすい。しかし、「横系統」は自分の実践を振り返ってみても、意識されにくいといえる。
本来ならば、年間の見通しを含んだ年間指導計画を作成する4月にデザインすることが望ましいが、多忙を理由に後回しにしてしまっていないだろうか。そこで、「横系統」の授業デザインとはどのようなもの、具体の実践を紹介する。
6年生の物語文では、語られる視点によって描かれている人物像の違いを捉えたり、主題を読み取り表現の工夫に着目しながら作品の世界を捉えたりすることがねらいである。そして、読み取り、授業で学んだ主題に対しての感想を自分の言葉で表現できる力をつけることを目指したい。
しかし、自分の実践を振り返ると、どの教材でも「初発の感想→読後の感想」と、同じ学習活動をしていることに気が付いた。国語が苦手な子どもの気持ちになって考えれば、「また、書くの・・・・・・」と苦しい時間の連続だったことだろう。
そこで、「横系統」を意識した授業デザインを大切にしたい。まず、これから1年間で扱う物語文教材を横に並べてみる(資料1・教材はすべて光村図書)。これだけで、授業経験がある教材であれば、教材の特性や子どもと学びたいことが頭をよぎるだろう。
1学期 | 2学期 | 3学期 | |||
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1年生 | 大きなかぶ | やくそく | くじらぐも | たぬきの糸車 | |
2年生 | ふきのとう | スイミー | お手紙 | スーホの白い馬 | |
3年生 | きつつきの商売 | まいごのかぎ | ちいちゃんのかげおくり | 三年とうげ | モチモチの木 |
4年生 | 白いぼうし | 一つの花 | ごんぎつね | プラタナスの木 | 初雪のふる日 |
5年生 | なまえつけてよ | カレーライス | たずねびと | 大造じいいさんとガン | |
6年生 | 帰り道 | やまなし | 海の命 |
【資料1】光村図書 物語文教材一覧
次に、1年間を見通して指導事項や言語活動を「横系統」の学びとして授業デザインする。実際には、学びの繰り返しと振り分けを行う。本教材の「帰り道」では「視点のちがいと人物像の捉え方」、「やまなし」では「作品の世界観を捉えること」、「海の命」では「作品から中心人物の生き方を捉える」を学習のねらいとする。また、主な言語活動を「本の紹介カード」「ポスター作成」「物語の地図」へと発展させる年間指導計画をデザインする(資料2)。
「物語文」年間指導計画
6年生 主題から関連づけて読む
語られる視点によって、描かれている人物像の違いを捉える。
主題を読み取り、表現の工夫に着目しながら、作品の世界を捉える。
1学期 | 2学期 | 3学期 | |
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教材名 | 帰り道 | やまなし | 海の命 |
ねらい | 作品の世界を捉え、自分の考えを書こう。 物語を読むときには、構成や表現のしかた、使われている言葉などに着目し、作品の世界を想像して読み深め、作品の世界を捉える。 |
登場人物の関係を捉え、人物の生き方について話し合おう。 どの人物の立場から感じたり考えたりしたことかを、はっきりさせながら物語の感想を伝え合うことで、物語の読みを広げる。 |
登場人物の関係を捉え、人物の生き方について話し合おう。 どの人物の立場から感じたり考えたりしたことかを、はっきりさせながら物語の感想を伝え合うことで、物語の読みを広げる。 |
言語活動 | 本の紹介カード 自分が物語の読みどころだと思った一文や言葉をポップで表現する。 |
宮沢賢治作品ポスター 「やまなし」と、宮沢賢治の他作品を読み比べ、(題名の付け方・構成・表現のしかたや言葉の使い方・作者が作品に込めた思いなど)紹介ポスターを書く。 |
物語の地図 物語を読み、中心人物の変容とそのきっかけを中心に一枚の「物語の地図」にまとめる。 読み取った主題を書く。 |
【資料2】6年生「物語文」年間指導計画
高学年の物語文であれば、物語全体を俯瞰した読みから登場人物の変容を読み取り主題を捉える、学びの繰り返しが必要である。しかし、言語活動は感想文一択ではなく、教材の特性に合わせて選択する必要がある。このように、教材の特性に合わせた学びの繰り返しと振り分けを4月に行うことで、見通しをもった1年間の国語授業がデザインできる。
教材「帰り道」は、6年生最初に読む物語文であり、子どもたちが、登場人物に自分を重ねて読み進めていくことを想定した内容でもある。子どもたちは、「律」と「周也」のように、学校生活などで友達との気持ちのすれ違いを経験している。自分の気持ちは自分で分かるが、相手の本意は分からない。本教材は、登場人物2人の気持ちが、場面でそれぞれ描かれており、「突然の雨」が2人の気持ちや物語の展開をつなぐしかけになっている(資料3)。
教材分析では、律と周也のそれぞれの視点で文章を整理する。律の本意と周也の本意をそれぞれ緑色と黄色で分け、矢印などを用いて、2人のすれ違う様を図式的に把握する。カギとなる分は赤色で、互いの成長を表す情景描写は青色で色分けすることで、本教材の構造が一目で分かるように工夫した。
同じ出来事でも、視点人物や叙述の違いで意味合いが変わる面白さがあり、ここが読みどころでもあるため、教材分析の時点でしっかりと文章構造を把握しておくことが必要だ。
子どもたちとは、登場人物の互いの本意とすれ違いとの関係を、時系列で対応させながら読み取っていきたい。また、登場人物の心の成長を、情景描写を中心に捉えていく読みを目指したい。登場人物ごとに描かれている2つの物語を関連付けながら読むことで、互いの気持ちのすれ違いや心の成長を読むことができる。
そこで、時系列に整理した「表で読む」ことを取り入れた読みの時間が単元の軸となる。そして、子どもたちが自分事として課題を捉えるために、「物語のおもしろさ」を本の紹介カードにする活動を単元のゴールにしたい。本の紹介カードには、子どもが読み取った「物語のおもしろさ」や「物語の読みどころ」を自分の言葉で表現させることを目指したい。
〔知識及び技能〕
自分の思いや考えが聞き手に伝わるように文章を音読することができる。(1)ケ
日常的に読書に親しみ、読書が、自分の考えを広げることに役立つことに気付くことができる。(3)オ
〔思考力、判断力、表現力等〕
登場人物の相互関係や心情などについて、描写を基に捉えること。C(1)イ
人物像や物語などの全体像を具体的に想像したり、表現の効果を考えたりすること。C(1)エ
第一次 | 単元のゴールを決める(第1時) |
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第二次 | 登場人物の設定を中心に読む(第2~6時) |
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第三次 | 「本の紹介カード」をつくる(第7~8時) |
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本時では、読み進めてきたそれぞれの人物像をもとに、「変容」を一文でまとめる。
ねらい
「〇〇に悩んでいた律が、□□できた。」「〇〇に悩んでいた周也が、□□できた。」の定型文で表現し、意見交換する活動を通して、物語の読みどころに気付かせる。
個々の意見を学級全体に発表し、黒板にまとめる。
悩み
律 …思っていることがなんで言えないのか? 周也 …言葉のキャッチボールができない
変容
律 …はっきりと自分の思いを言う 周也 …だまってうなずく
教材文ではだれの言葉か明示されていない「行こっか。」「うん。」という言葉。ここまでの読みを生かして、この短いやりとりに込められた意味を考える。
突然の天気雨によって、2人が見合って大笑いをする。その結果、律の一言(「ぼく、晴れが好きだけど、たまには、雨も好きだ。」「ほんとうに両方、好きなんだ。」)が2人を変容させる。
→言いたいことが話せなかった「律」が自分の気持ちを話し始め、人の話が聞けなかった「周也」が相手の気持ちを受け止めることで会話のキャッチボールができた。
「行こっか。」……律のことば 「うん。」……周也のことば
子どもが、意欲的に授業へ参加する姿勢が目立った。「周也の気持ち、分かる」「私は律に同感」という子どもたちのつぶやきから、律や周也と自分を重ねて読むことができたことが分かった。子どもたちにとって大切な作品、授業となったと思う。
6年生の教材は、どれも小学校6年間の集大成にふさわしい読み応えのある作品である。それは、作品の主題が子どもたちの生き方に大きく訴えかけてくるからだ。この点でも、作品の横系統を4月の段階で捉えておくことは、授業づくり、さらには学級づくりにも大きなヒントになる。
本教材は、友達関係に悩み始める6年生にとっては、ドキッとする内容である。本時の授業でも、登場人物の変容を読むことを通して、自分の気持ちを整理している子どももいた。一方で、読解力に差も見られるため、答えの定型文を示すことで授業への参加率を引き上げたい。子どもの実態に合わせて、選択肢を用意するなども効果的である。また、本の紹介カードを本屋に並ぶ「ポップ」のようにすることで、イラストや工作が得意な子どもは意欲的でもあった(資料6)。一人一人の得意を活かせる様々な言語活動の設定が年間計画には必要である。
〔参考文献〕
白石範孝(2020)『白石範孝の「教材研究」教材分析と単元構想』 東洋館出版社
藤平 剛士(ふじひら・たけし)
相模女子大学小学部教諭
全国国語授業研究会理事/日本私立小学校連合会国語部会全国委員長/新考える国語研究会
文学の授業における、初発の感想を書かせるという活動に替わるものとして、「読後感」を書くという実践を以前掲載した。これを基にした授業づくりについてこれから述べていきたい。 文学作品に出合ったときの新鮮な気持ちを大切にしたいと思う。教師主導で学習課題を設定することもあるだろうが、やはり子どもが自ら読んでいくための問いをもてるようにするためにはどうしたらよいかと考えたとき、読後感から問いをつくっていくということは、その1つの方法であると考える。
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