どの子も、きれいなひらがなが書ける ─なぞらない「ひらがな書写」指導のコツ─
|
執筆者: 桂 聖
|
国語入門期では、「ひらがな書字」は必須の指導内容である。どの子も、ひらがなが書けるように丁寧に指導する必要がある。
しかし、一般的には、きれいなひらがなを書けるように指導することは難しいようである。ひらがなが書けるのは「書字」のレベル。そして、きれいなひらがなが書けるのは「書写」のレベルである。
「書字」ができていても、「書写」まではできていないことが多いのである。
その主な原因は、次の3つである。
1つ目は「評価基準が低いこと」である。
子どもたちはひらがなを書けるようになったことで満足する。教師もそれに満足してしまう。これでは「書字」レベルに留まってしまう。子どもが「もっときれいな字が書けるようになりたい」と思えるように指導することが大切になる。
2つ目は「指導時数が少ないこと」である。
ひらがなの指導ばかりに時数を割くことは難しい。だが、入門期だからこそ、ひらがな書写の指導に十分時間を割くべきである。どの学年も指導してきた私の経験からいえば、1年生のころが、一番字がきれいになる時期である。私たち教師はこの最適な時期を逃してはならない。
3つ目は「書写レベルの指導の仕方が分からないこと」である。
中でも、誤解が多いのは「なぞり書き」(お手本の字をなぞること)を何度も書かせる指導である。
「なぞり書き」の練習よりも、「写し書き」(お手本の字を見て書くこと)の練習の方が効果的であるという研究もある*1。子どもは「なぞり書き」の練習が好きではない。ただ単に、薄い字をなぞっているだけなので、自分で字を書いているという感覚にならない。自分の頭を使って書いていないのである。
では、どのようにして、きれいなひらがなを書けるように指導するのか。
ここでは、拙著*2で示したなぞらない「ひらがな書写」指導のコツについて述べる。
まず、なぞらない「ひらがな書写」は、次の3つのステップで書く。
例えば「す」の書字を例にしよう。
このステップで大切なことは、字形を覚えるということである。「なぞり書き」はしないが、字形を覚えるために、練習として指でなぞるのはよいだろう。
このステップでは、字形がきれいかどうかは気にしない。子どもが「す」の大体のイメージをつかめればよい。
図3のような「お話」を指でなぞる。棒人間になったつもりでなぞっていくことで、文字の全体像をイメージする。
このステップは、書家の永田紗戀氏が開発したものである*3。「しゅーっ」などの「オノマトペ」(擬態語・擬声語)が特徴的である。永田氏によれば、「オノマトペ」こそが書写のコツだそうだ。
ここでは、位置やバランスなどの見方を細かく説明している。
実を言うと、「字を書く力」よりも、「字を見る力」の方が大切である。苦手な子は、そもそも位置やバランスなどを「正しく見る」ことができていない。だから、正しく書けない。上記のように「字の見方」を指導することが大切になる。
ただし、教師から一方的に「正しく見る」方法を教えたとしても、子どもは学んでいない可能性がある。そこで重要になるのが、図5の「変なところ探し」の活動である。
あなたも、図5の右二つの「す」の変なところに気付くはずだ。特に真ん中の「す」は、かなりきれいな字に思える。だが、位置のバランスが悪いことに気付いたのではないだろうか。
このようにして、「3つのステップ」に加えて「変なところ探し」を活用して指導することで、子どもの書くひらがながきれいになり始めるのである。
さて、ここからは、拙著*4には書いていないことである。
これまでに述べた指導で、ひらがな書字はきれいになり始める。しかし、それが身に付くには繰り返し学習が必要である。拙著の巻末に付けた「お手本」と「練習用紙」を使って、毎日練習する。私の経験では、3か月ぐらいで、ほとんどの子は、きれいなひらがなが書けるようになる。
指導のポイントは、次の3つである。
1つ目は「書写する際にお手本を真横に置いて練習させること」である。
一番大切なのは、お手本をよく見て、「お手本そっくり」に写し書きの練習をすることだ。そのためには、できるだけ書写する箇所の近くにお手本を置く必要がある。
書写とお手本が離れていると、「ワーキングメモリー」(脳の作業記憶)の問題で、お手本の字形の記憶を保持したまま、書写することが難しくなる。
2つ目は「子どもの実力や学習経験で練習量を決めること」である。
ひらがな46文字を集中してきれいに書くと、かなりの時間がかかる。「お手本そっくり」に書くからだ。
国語入門期の子どもは、これまでの学習経験や実力がかなり違う。ひらがなを初めて習う子もいるし、すらすら書ける子もいる。練習量を一律に決めることができない。
そこで、「練習用紙」を3分の1ずつ区切って線を引いて、練習量は本人に任すようにした。「3分の1だけ」でもいいし、「全部」(3分の3)やってきてもいいと話す。そうすると、練習の負担も軽減できる。
3つ目は「毎日、小刻みに評価し続けること」である。
練習用紙には、「◎」(すばらしい!)、「○」(まあまあ。)、「★」(チェックされたところをかきなおそう。)という評価欄がある。これに丸をつけて返却する。
「チェック」する文字は、仮に不備がある文字がたくさんあっても、3文字程度にする。たくさんチェックされていると、児童のやる気が失せるからだ。もちろん、その「チェック」した3文字は、翌日に修正して提出してもらう。
小刻みな評価があるからこそ、反省するし、やる気も出るのである。
いま、ますますデジタル重視の時代になっている。しかし、だからこそ、アナログできれいな字が書ける力はますます貴重になるに違いない。ひらがながきれいに書ければ、カタカナ、漢字もきれいに書けるようになる。きれいな字を書くための「字を見る力」が身についているからだ。
きれいな字は一生モノ。あなたの目の前の子どもたちにも、このきれいな字を書く力をぜひプレゼントしてほしい。
〔参考文献〕
*1 小野瀬雅人『入門期の書字学習に関する教育心理学的研究』(1995)風間書房
*2 桂聖・永田紗戀『なぞらずにうまくなる 子どものひらがな練習帳』(2012)実務教育出版
*3 *2に同じ。
*4 *2に同じ。
桂 聖(かつら・さとし)
筑波大学付属小学校教諭
筑波大学非常勤講師兼任/全国国語授業研究会理事/日本授業UD学会理事長/光村図書『国語教科書』編集委員/小学館『例解学習国語辞典』編集委員
文学の授業における、初発の感想を書かせるという活動に替わるものとして、「読後感」を書くという実践を以前掲載した。これを基にした授業づくりについてこれから述べていきたい。 文学作品に出合ったときの新鮮な気持ちを大切にしたいと思う。教師主導で学習課題を設定することもあるだろうが、やはり子どもが自ら読んでいくための問いをもてるようにするためにはどうしたらよいかと考えたとき、読後感から問いをつくっていくということは、その1つの方法であると考える。
記事を読む今回は、田中元康先生(高知県・高知大学教職大学院教授/高知大学教育学部附属小学校教諭)に、教材「インターネットは冒険だ」(東京書籍・5年)の授業づくりの工夫について、紹介していただきます。説明文の学習で当たり前のように行われる「要旨をまとめる」とはどういうことなのか。あらためてその意味や方法を確認しながら学ぶことで、汎用的な読みの力が育ちます。
記事を読む本教材「まいごのかぎ」(光村図書・3年)は、登場人物 りいこが次々と遭遇する不思議な出来事が、第三者目線とりいこの視点とを織り交ぜて描写されることで、読み手もまるで巻き込まれていくかのように展開し、ワクワクしながら物語の中に入り込むことができます。 今回は小島美和先生(東京都・杉並区立桃井第五小学校)に、一つひとつの叙述を自身の経験を想起しながら丁寧に押さえ、りいこの気持ちや行動と比較することで、人物像に迫っていく授業づくりを、紹介していただきました。
記事を読む今回は髙橋達哉先生(東京都・東京学芸大学附属世田谷小学校)に、新教材「文様」(光村図書・3年上)について、続く教材「こまを楽しむ」を踏まえた上で分析し、授業づくりのポイントとその具体例を紹介していただきました。 3年生はじめ、説明文に親しむための【れんしゅう】として、本教材にはどのような特性があるのでしょうか。 また、どのようにすれば主体的に読みを深められるのか、「ゆさぶり発問」のアイデアにもご注目ください。
記事を読む柘植遼平先生(千葉・昭和学院小学校)に、新教材「アイスは暑いほどおいしい?―グラフの読み取り」の授業づくりについて、「雪は新しいエネルギーー未来へつなぐエネルギー社会」と合わせて紹介していただきました。 今回の新教材の追加で、グラフや表などの資料が筆者の主張を分かりやすく伝えるための工夫として、捉えやすくなったことに着目し、資料を中心に説明文読解が深まるような単元づくりを行います。
記事を読む今月の5分で分かるシリーズは、藤平剛士先生(神奈川県・相模女子大学小学部)に、授業開きで確認し合いたい、すべての学びの基礎となる4つのスキルについて、実際の授業展開に沿ってご紹介していただきました。
記事を読む