「『鳥獣戯画』を読む」を私はこう授業する
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執筆者: 藤田 伸一
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単元名:筆者の発信の仕方を学び、生かそう! 教材:「『鳥獣戯画』を読む」(光村図書・6年)
「『鳥獣戯画』を読む」の授業づくりを紹介します。本教材は、内容の面白さはもちろん、論の展開の仕方、表現の工夫、絵や絵巻物の読み方など、読者を惹きつける筆者の工夫が随所に散りばめられています。今回は、藤田伸一先生(川崎市立土橋小学校)に筆者の説明に着目し、述べ方の様々な工夫を多角的に見捉えて、子どもたちが自らの表現に生かすことを目指した授業づくりについてご提案いただきました。
説明的文章には、3つの読みの内容がある。
第一に、書かれている事柄である。第二に、筆者の主張(考え)である。第三に、述べ方の工夫である。これらの3つの内容を読み解くことが説明的文章の大きなねらいになる。
本教材は、これら3つの内容が子どもたちにとって大変魅力的で、学ぶべき点が多い。また、ジブリ作品を手掛けていることで有名な高畑監督が筆者であることも、子どもたちが本教材を読みたくなるきっかけになるだろう。さらに、「鳥獣戯画」というかなり昔に書かれた絵巻物が、アニメーションのような特徴をもっていることに子どもは驚嘆するにちがいない。
内容の面白さもさることながら、筆者の説明の仕方にも随所に工夫が見られる。絵の魅力に引き込まれるような述べ方がされている。まさに、「『鳥獣戯画』を読む」である。なぜ、絵を「見る」ではなく「読む」にしたのか、この題名が謎かけのようになっているのも面白い。
筆者の絵の見方、読み方を学ぶことが、自らの表現に生かすことにつながる好教材である。
子どもたちは、今後の生活の中で、絵画をはじめ書や文章といった様々な文化的な材にふれていくことだろう。それらをどう見て、どのように考え、解釈していけばよいのか、その素地が本単元で創られることが期待できる。さらに、作品から受け取ったものを自分なりに再構成し、新たな情報や考えを付加して発信していく力も付けることができる。
≪述べ方の工夫を見いだす「目のつけどころ」≫
興味を湧かせるように書かれている箇所を見つける
書き出しはどうか
なぜ? どうして? などの「?」を生み出そうとしているところはないか
面白い発想や逆転の発想をしている部分はないか
分かりやすく書かれているところを見つける
優しい言葉に置き換えているところはないか
詳しく具体化されているところはないか
図や表やグラフ、写真などを用いているのはなぜか
具体事例の順序性に目を向ける
納得度を高めている表現を見つける
双括型になっているのはなぜか
強調している表現はないか
主張と具体例、根拠との関係はどうか
本教材は、6年生で学ぶ2つ目の説明文である。「読むこと」「書くこと」関連単元の構成となっている。本教材で学んだものの見方や解釈の仕方、それらの述べ方の工夫を生かして表現活動につなげていく単元構成である。
先述した通り、題名が極めて魅力的であり、「鳥獣戯画」を“読む”となっている点にこの教材の奥深さがある。読み手は、単元を通してこの謎を解き明かすべく読むことになるであろう。そして、筆者が高畑勲氏であることも、この題名をつけたことと大いに関係があるに違いない。筆者には、「鳥獣戯画」が動いて見えるアニメのようであり、ストーリーをも併せもっていると感じているのだろう。
次に、構成を見ていくと、既習の説明文のような分かりやすい三部構成にはなっていない。はじめの絵の描写を序論とする。「鳥獣戯画」や絵巻物についての解説や解釈などが本論。そして、筆者の主張が結論と位置付けられるだろう。そのように見ると、尾括型の文章ということになる。要旨は、9段落を読めば簡単につかめるようになっているが、「『鳥獣戯画』は国宝であるだけでなく、人類の宝だ。」となぜ言えるのかについては、事例の中から散りばめられた根拠を集めてつなげていく必要がある。
最後に、筆者が絵や絵巻物をどのように見たり解釈したり評価したりしているのか、それらをどのように述べているのかという点に言及する。まず、冒頭は度肝を抜かれるような見事な描写ではじまる。読み手は、絵が動き出すような感覚に駆られるのではないだろうか。それは実況中継風に単文と現在形や体言止めを使った説明がなされている効果である。また、墨の色や筆運びといった細かいところにまで目を配り、人物のリアルな描き方を評価しつつ、解説を施している。さらに、絵巻物の解説では、読み手に語りかけるような書きぶりで、人物の動きを追体験させるような働きをもたせている。人物の表情や姿から内面を想像したり、ストーリーを創り出したりしている。
第一次 | 題名から問いを見つけ、解決する。(第1・2時) |
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第二次 | 筆者の述べ方の工夫や要旨を捉える。(第3~7時) |
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第三次 | 「鳥獣戯画」や他の絵画などの興味のある場面を選び、ボスターにまとめ発信する。(第8~11時) |
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筆者は、この「鳥獣戯画」を「人類の宝」だと評している。その具体を探り、筆者がどのように読み手に伝えようとしているのかを多角的に捉えるのが本時である。多角的というのは、主に3つの方向から述べ方の工夫に迫ることを意味している。書き手は、読み手に興味をもってもらうように、分かりやすく、納得してもらえるように論を展開していく。そのために、言葉選びや表現の仕方に苦心する。先に挙げた3つのことを念頭に置きながら文を磨き上げる。そこに説明の仕方の工夫が生まれる。それらをあぶり出し自らの表現に活かしていこうという思いを本授業でもたせていきたい。
第一次では、題名から問いを創り、各自で解決を図っていく。その際に「筆者は、どうして題名を『鳥獣戯画』を『見る』ではなく、『読む』にしたのか」という問いを全体の共通課題として追究していく。「鳥獣戯画には、表情や動きがある」「絵巻になっているので場面がつながっている」「ストーリー性がある」「まるで漫画やアニメのようになっている」だから、「読む」としたのだという意見が出されるであろう。筆者がアニメーション監督であるということも関係していることに気付かされるだろう。
前時までの学びは、筆者が「読む」にした意図に迫り、書き手が絵や絵巻を読んでいる部分に意識を向けることが大きなねらいである。
まずは、子どもたちを共通の土俵に乗せなければならない。そのために、筆者が、絵や絵巻物を読んでいるまとまりを確認する。これがずれていては、述べ方の工夫を見つける際に、様々な箇所の工夫が出されてしまう。一枚の絵や絵巻物のつながりで絵を読んでいる段落と、「鳥獣戯画」や「絵巻物」を解説している段落があるので、そこは区別して考えていけるようにしていきたい。
次に、筆者が読んでいるまとまりには、工夫が見られるのかという課題意識をもたせていく。ここでは、子ども自らが工夫を見つけていきたいと思えるよう、教師がとぼけたり仕掛けをつくったりしていく。
「これらの筆者が読んでいるまとまりを、君たちが読んでどう思った?」という投げかけでは、教師の誘導は少ないが、刺激が少ないため課題意識が弱い。そこで、「筆者が自分の読みを述べている段落と『鳥獣戯画』や『絵巻』を解説している段落の書きぶりはすごく似ているね」ととぼける。子どもの中にずれをつくり、「えっ、ぜんぜん違うよ」という思いを起こさせる。この瞬間に課題意識が芽生え、子どもたち一人ひとりが比較検討していきながら解決に向けて動き出していくのである。
まずは自力で、絵や絵巻を読んでいる説明と解説している説明とを比較検討することによって、述べ方の違いを浮き彫りにし、ペアやグループで述べ方の違いを整理分析する。対話を通して、読んでいる側の説明には、実況中継風な描写や筆者と対話をしているかのような語りかけなどの表現が多用されていることに気付いていく。
自分の読みを説明する際には、どのような言葉を使ったり表現の仕方をしたりしていけばよいのかをまとめるようにする。この一般化が、三次における自らの作品の読みの紹介時に活きていくこととなる。
筆者は、専門的な知識を読み手に興味深く、分かりやすく、納得してもらえるように言葉を選び、表現の仕方を工夫している。その意図をつかむことが、そのまま自らの表現に活きて働くこととなる。
本時では、筆者が絵や絵巻物をどのように読み、どんなふうに説明しているのかに迫った。アニメーション監督ならではの独特な言い回しを捉えることができた。それだけでなく、作品の見方や考え方についてもアプローチすることができたのではないだろうか。三次では自分で絵や絵巻物を読み、それを表現することで述べ方の工夫を定着させていくこととなる。
藤田 伸一(ふじた・しんいち)
神奈川県・川崎市立土橋小学校
全国国語授業研究会理事/全国大学国語教育学会会員 日本国語教育学会会員
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