1年生が楽しんで活動する国語授業
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執筆者: 青木 伸生
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なんでも初めての取り組みになる1年生。子どもたちの意欲はなかなかのものです。その意欲を失わないようにするのが教師の役目。しかし、「きちんとさせよう」という思いが強すぎると、楽しむはずの言語活動は、教師からの「注文の多い料理店」になってしまい、子どものせっかくの意欲が失われていきます。子どもたちが困ると、教師はそのサポートに忙しくなり、教師自身のゆとりも失われます。
まずは、子どもの「やってみたい」気持ちを最優先にして、等身大の言語活動を設定しましょう。今ここで、この単元で達成できなくてもいい部分は目をつぶり、言語活動を経験することに重点をおきます。1年生の子どもたちは、これから6年間という長い時間をかけて、様々な言語活動を経験し、成長していきます。そうした見通しの中で、言葉の学びとして何を大切にするかをよく考え、実践していきましょう。
1年生の2学期の単元として、子どもも教師も大変にならない学習活動を紹介します。
本単元は、筑波大学附属小学校の1年生が、5月から6月にかけて実施したものです。入学したばかりの1年生は、もちろんまだ読み書きが十分にできていません。本校に入学するには試験がありますが、当然のことながら、読み書きができないという前提の元で試験問題が作成され、実施されます。文字が読める方が有利などということはいっさいありません。
入学してから、子どもたちは、詩の音読、暗誦や、書き写し(視写・聴写)などの活動を継続してきました。同時進行で、平仮名の文字指導も進めてきました。本単元に入るころ、子どもたちはまだ数文字の平仮名しかしっかりと練習してきていませんでした。見よう見まねで黒板の文字をメモしたり、一編の詩の視写をしたりしている程度です。正しい書き順で、綺麗な文字を書けるというような段階ではありません。
そのような子どもたちが、「はたらく乗り物を紹介しよう」という単元を実施しました。
はじめは、「はたらく自動車を紹介しよう」というものだったのが、「飛行機を紹介したい」と言う子どももいたために、「自動車」から「乗り物」へと範囲を広げました。
ここで大切なこととして、子どもは「音声言語」で紹介をするということです。1年生の1学期に実施した単元のため、文章を整理して書くところまでを達成すべき活動として設定しませんでした。子どもが、自分でまとめた乗り物について、話せればよいということにしました。
まずは、身のまわりで、働いている乗り物について想起させます。単元のはじめは、「はたらく自動車」の紹介を想定していたので、子どもたちへの問いかけは、「自動車」に限定したものでした。
「みんなは、はたらいている車に、どんなものがあるか知っているかな?」
子どもたちは、様々な「はたらく自動車」を教えてくれました。
「パトカー」「救急車」「バス」「タクシー」など、いろいろな車が仕事をしていることを確かめた後、子どもたちに投げかけます。
「今出てきた自動車の中から、一つを選んで、友達に紹介しましょう。みんなだったら、 どの自動車を紹介したいかな」
「消防自動車」「ごみ収集車」……
ここで、「飛行機を紹介したい」という子どもが出てきました。そこで、「では、自動車だけでなくて、はたらく乗り物の紹介にしよう」と、範囲を広げました。
子どもは、自分が紹介したい「はたらく乗り物」について、絵を描いたり、図鑑の写真を見たりして、イメージをつくっていきました。作業をしている子どもたちを見て周りながら、教師は声をかけていきます。
「この車は、どんな仕事をするの?」
「それで、これがついているんだね」
仕事の内容と、それに合わせた「つくり」について、意識をもたせていきます。
発表の参考にするために、教科書にある説明文を資料として読みました。「じどう車くらべ」「はたらくじどう車」「いろいろなふね」の三つです。それぞれの説明文で、仕事とつくりをつなげる言葉が異なっています。
「じどう車くらべ」
自動車の仕事とつくりを「そのために」という言葉でつないで紹介しています。
「はたらくじどう車」
「ですから」という言葉で、仕事とつくりをつないで紹介しています。
「いろいろなふね」
「このふねには」「このふねは」という言葉で、仕事とつくりをつないでいます。
子どもたちは、三つの説明文を読みながら、「自分はどうしようか」と考えます。子どもの発表で一番多かったのが、「そのために」でつないだ表現でした。
子どもの発表は、音声言語によるものだったので、「そのために」が一番自然に内容をつなげる言葉だと判断したのでしょう。あるいは、実際に紹介する練習をしながら、自分の中で感覚的にいちばんしっくりくる言い回しを選択したのかもしれません。
子どもたちは、紹介する乗り物の絵を描いたり、図鑑をコピーしたりして準備を進めました。その中で「発表する中身を、絵の裏側に書いてもいいか」という質問がありました。いわゆる「発表原稿」を書いてもいいかという設問でした。もちろんOKを出しました。すると、ほとんどの子が、メモを書き出しました。
教室に8か所の発表会場を設置しました。みんなの前で一人ずつ発表しても、1年生はすぐに飽きてしまって、人の話を聞きません。そこで、8人ずつが一斉に発表する仕組みをつくって、それを4セット行いました。子どもはその中で1回だけ発表すればいいのです。
まずは、1番から8番までの人が同時に発表します。次に発表する9番から16番までの人は、自分の発表場所で、前の人の発表を聞かなければなりません。21番から36番までの人は、だれの紹介を聞くかは自分で決めて、自由に聞きに行くことができます。このような仕組みの発表を4回くり返すと、全員が発表できます。しかも全体で4セットしか行わないので、子どもたちは飽きません。固定メンバーを設定したのは、お客さんがだれも聞きに来なかったという子どもが出ることを防ぎます。
発表が終わった後に、子どもたちはノートに自分の発表について振り返りをメモしました。この時の振り返りは、「自分の発表について」に絞りました。振り返りの仕方も、絵で表してもいいし、文にして言葉で表してもいいことにしました。絵で表すときには、よくできたと思ったら、ニコニコの笑顔を描きます。もっと頑張ろうというときには、シクシクマークを描きます。このようにして、自分の表現を振り返る場を設定しました。
実際、ほとんどの子どもが、ニコニコマークの顔を描いていました。一人だけ、「もっとたくさん紹介する文を書けばよかった」という振り返りを書いた人がいました。
子どもたちは、みんな自信をもって紹介活動を行っていました。自分の選んだ乗り物については、調べることもしていましたが、知っていることを整理して紹介する人もいました。この時期に、図鑑などから必要な情報を取り出す作業は、そう簡単にはできません。ここでは、できる範囲での活動にとどめ、子どもに負担がかからないようにしました。子どもに負担がかかると言うことは、教師のサポートもそれだけ大変になるということです。子どもも教師も、楽しく言語活動を経験し、その達成感を積み重ねることが大切です。
青木 伸生(あおき・のぶお)
筑波大学附属小学校
全国国語授業研究会会長/日本国語教育学会常任理事/教育出版小学校国語教科書編集委員
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