思いつきの感想の交流からの脱却
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執筆者: 田中 元康
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単元名:読んで考えたことを伝え合おう 教材:「ごんぎつね」(東京書籍ほか各社/4年)
「ごんぎつね」の授業づくりを紹介します。本教材は各社の教科書に掲載されている定番教材です。登場人物である「ごん」と「兵十」の行動から、心情の変化を読み取ることができます。今回は、田中元康先生(高知大学教育学部附属小学校教諭/高知大学教職大学院教授)に、ごんと兵十二人の関係性に着目し、距離を読むことで、子どもたち自身が考えや感想をもって交流し合う授業づくりについてご提案いただきました。
「ごんぎつね」は各社の教科書に掲載されている。東京書籍では指導事項として、「『読むこと』において、文章を読んで理解したことに基づいて、感想や考えをもっている。C⑴オ(考えの形成)」が示されている。
単元では、作品を読み、記述から場面の移り変わりや登場人物の心情の変化の様子を想像し、感想をもつという学習過程が考えられ、「読んだ感想を友達と伝え合う」ことを単元のゴールとして学習を行っていくようになる。
ここで示されている「感想や考えをもつ」ために、教師はどのような働きかけを行えばよいだろうか。例えば、「どのような感想をもちましたか」という発問をして、一人の子どもの感想をきっかけに多くの子どもの感想を引き出す授業を行うことも考えられる。しかし、幅広い答えが返ってくる発問を行うことで、子どもが教室で一緒に作品を読み、考えを交流し、感想をもち合うことにつながるのかとも思う。
そこで、今回「ごんぎつね」でのごんと兵十の関係に着目し、二人の距離を読むという授業を考えた。以下の図1を見てもらいたい。
各場面に「ごん」と「兵十」が登場する。最初の場面では互いの位置(距離)は離れており、向き合っていない。しかし、途中から「ごん」が「兵十」を見るようになり、「兵十」に近づく。そして、最後の場面では「兵十」は「ごん」を見るのだが、それは撃たれた側と撃った側という関係になる。
今回の実践では、二人の距離を図に表すということを行う。二人の距離や顔の向きは、文中の表現から明確に読み取ることができる。そのため、図のように「なぜ四・五の場面でごんは兵十に近づいたのか?」という問いをもつようになる。
そのとき、教師は「近づいたごんの思いを想像しよう」と問いかけ、距離の変化から生まれた子どもの疑問を単元のねらいに結び付けるような課題提示をする。距離の変化という“事実”にもとづいて想像をすることは、ごんの行動の理由を探ることになり、作品を深く読む感想となっていくのではないだろうか。
〔思考力、判断力、表現力等〕
中心人物とほかの人物との関わりについて考え、感想を伝え合うことができる。C(1)エ・オ
読んで考えたことを伝え合う。C⑵イ
第一次 | 課題をつかむ/全体を読み、最初と最後の場面を図に表す(第1・2時) |
第二次 | 「ごんぎつね」を読み、「ごん」と「兵十」の距離、顔の向きを読み、その場面での行動をもとに「ごん」の気持ちを想像する(第3~9時) |
第三次 | 図をもとに「ごんぎつね」を読んだ感想を図(「作品の星座」)に表し、友達と伝え合う(第10・11時) |
第四次 | 振り返り(第12時) |
本時は、1時間目に作品を読み、意味調べをした後、「ごん」と「兵十」の関係を読むという「めあて」をつかむ2時間目である。
【活動の流れ】
(以下凡例 ○:子どもの活動 ・:予想される反応 ※:教師の働きかけ)
※「物語は、必ず・・・・・・がある」と黒板に書く。
※「『ごんぎつね』の中心人物(主人公)に大きな変化があるから、今日の時間は、中心人物が誰か、そして、何が変わったのかを見つけて」と問いかける。
うなぎを逃がす場面での「ごん」と「兵十」の関係を読む3時間目。
一の場面を読んで、ごんと兵十のきょりを考えよう きょりはどうなった?
うなぎ事件により、ごんと兵十のきょりはさらに遠くなった。
前時は、つぐないを始める場面で「ごん」と「兵十」の関係を図に表した。次の時間で6時間目である。
A:兵十をおどろかせたい
B:うなぎをとったつぐないをしたい
C:兵十と仲よくなりたい
A:兵十をおどろかせたい
B:うなぎをとったつぐないをしたい
C:兵十と仲よくなりたい
・Aはちがうよ。Bだと思うよ。
・うん、Bだと思う。でも、Cが気になるな。
○自分の考えを持ち、発表する。
○全体で話し合う。
・Aはちがうよ。
・いわしをとったのは、つぐないのためだよ。
・でも、つぐないなら何日ももっていくかな?
・それにのぞいたのは、気になっているんじゃない?
・償うつもりだったんだけれど、それだけじゃなくて、兵十と仲良くなりたいという気持ちが強くなったんだと思う。
※話し合いでは、Bの「つぐない」の理由を優先して取り上げながら、「でも、Cもありそうだ」という意見や、「どちらも正しい」という子どもの思いを見取っていく。そして、「Cもごんの言動から読み取ることができないだろうか」と子どもの思いに揺さぶりをかけていく。
※Cの根拠として、「ごん」と「兵十」の共通点に目を向けた子どもの意見を見取り、全体へ返す。
○課題に対しての自分の意見を書く。
・B(つぐない)のために届けた。そして、それだけじゃなく、兵十への思いも生まれたのでは・・・・・・。
以下にこの授業での子どもの発言や教師の返しをまとめたものを示す。
Aはすぐに消したが、Cを消すのにためらう意見が出された。Bが答えなのだけれどCも・・・・・・と言うのだ。そこで「Cと思う証拠があるはず」と返した。その結果、松茸の数、裏口からのぞくなどの行動や「あんなきずまで」というごんの言葉を見つけ、「ごんのなかに兵十と仲良くなりたいという思いが生まれているのでは」という考えの根拠となる記述を見つけていった。
二瓶弘行先生が実践されている、「作品の星座」を参考にしてサンプルを示した。「あらすじ」「作品の心」以外のコーナーは自分で考えて作ってよいことにした。そのため、作品例で提示したもののように同じものは一つとしてなかった。自分の思いでコーナーをつくることを楽しいと思い、違っているからこそ、友達の作品を興味深く読もうとする姿が見られ、そこから話をする姿もあった。
「ごん」と「兵十」の二人の関係を読む、という課題をもって読み進めることによって、「かわいそう」といった簡単な言葉での感想は出されなかった。償いの難しさ、分かってもらえないことの悲しさといった、これまでの子どもたちからは発せられたことのない感想が作品の星座に綴られていた。
物語を読み感想をもつことは、言語活動として設定されることが当たり前のようにあるが、何らかの課題や表現方法が示されることによって、その感想は友達同士で交流し合えるものとなり、より深まりへ向かうのではないかと考えた。
また、「作品の星座」については、何年も前に二瓶先生が提案されていたが、今日の「個別最適な学び・協働的な学び」に生かされる面が多くあることを学んだ。今後、物語を読む学習において取り入れていきたい表現方法であると感じた。
〔引用・参考文献〕
二瓶弘行(2006)『クラスすべての子どもに確かな学力を“夢”の国語教室創造紀』東洋館出版社
田中 元康(たなか・もとやす)
高知大学教育学部附属小学校教諭/高知大学教職大学院教授
全国国語授業研究会理事/日本国語教育学会会員
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