資料を使った説明文を「読む・書く」単元づくり
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執筆者: 青山 由紀
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高学年になると様々な教科や総合活動などで、資料を活用して表現する機会が増えます。そのため、図表やグラフ、写真などの資料と文章とを照らし合わせながら内容を理解することとあわせて、資料の役割や効果の理解が不可欠です。
学習指導要領の「読むこと」と「書くこと」にも示され、教科書にもそれに応じた単元が設定されていますが、次のような難しさがあります。
この問題を踏まえて、次のことに留意して実践しました。
教材:「固有種が教えてくれること」(光村図書/5年)ほか
本実践の対象学級は、総合活動で校内外の「安全」について追究してきました。その成果を休み時間に自主的に「安全フェスティバル」を催すなど、より多くの児童に伝えたいという思いをもっていました。そこで、リーフレットに書きまとめたものを図書室に置くことを指導者が提案し、子どもたちが意欲を示したところから単元が始まりました。
すぐにレポートにまとめた子どもが、「みんなに見てもらい、検討して欲しい」と言ってきました。その子は[動機][調べ方][わかったこと]などの見出しを立て、しっかりと書いていましたが、[調査結果]は複数の写真を並べただけでした。すぐに、「写真を並べただけではわかりにくい」と指摘されました。
これをきっかけに、子どもたちは 「写真も含め、そもそも資料とは、どんな役割を果たしているのだろう」
「資料の効果的な使い方とは?」
という問いをもちました。
この問いを解決するために、教科書教材「固有種が教えてくれること」を使い、資料の役割と効果を学ぶことにしました。また、教材を読む前に題名から、「固有種が何を教えてくれるのか?」「筆者が伝えたいことは何か?」という課題も生まれ、それらも追究することとなりました。
5年生後期ともなると、題名に着目して問いをもったり、説明文の「読みのゴール」を筆者の主張を読み取ることと捉えたりできるようになります。
上記に、以下の指導のねらいも加えて単元を構想しました。
必然を伴った「要旨を捉える」活動を仕組む。
資料を使った説明文を多読する。
プレ |
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第一次 |
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第二次 |
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第三次 |
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第四次 |
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中心教材「固有種が教えてくれること」は、固有種を保護することと環境保全の関係から、我々がすべきことを複数の資料を示して説いたものです。5年生にとって興味関心の高い絶滅危惧種や環境問題が話題であるため、多くの子どもが自分事として筆者の考えを読み取ったり、自分の考えをもったりしやすい説明文です。
図1のような文章構成となっています。全部で9つの資料が使われていますが、授業では5つにまとめて扱いました。
読後、「これが大事だと思う資料、ベスト3」を考えさせました。大事かどうかを判断する理由が、資料の役割や効果と重なるからです。
資料には、だれもが「大事だ」とか「必要ない」と思うものと、判断が分かれるものとがあります。本実践では、[絶滅したとされる動物]の写真が、だれからも支持されませんでした。その理由について子どもたちは、「動物の写真があることで読者には助けとなるが、必ず必要というほどではない」と説明し、この資料が「読者の知識を補う」役割をしていることを理解しました。
検討する中で、評価が大きく変わった資料がありました。それは、最初の[日本とイギリスの陸生ほ乳類]に関する地図と表です。初読後にこの資料を「大事だ」と支持した子どもは9名であったのに対して、検討後には23名まで増えました。
その理由は、「筆者が論を進める上で、『日本には固有種が多い』ことが前提となり、その証拠を地図とデータで示すことが重要」と気づいたためです。大事かどうかという主観的・直感的に捉えた理由を話し合うことで、【資料の役割や効果】を客観的に捉えることができたのです。
第一次で子どもたちは、【資料の役割と効果】を次の5つに整理しました。
ここで、「資料の役割って、この5つだけなのかな?」という新たな問いが生まれ、ほかの役割も探ることとなりました。予定ではそれを確かめるために、指導者が予め用意した教材群から選択して、【資料の役割と効果】を調べるはずでした。
ところが、「4年生のときに学習した『ウナギのなぞを追って』に使われていた資料について調べよう」と言い始めたのです。全くの想定外でしたが、内容は既に理解しており、読み直して資料の効果と役割を検討するのに、2時間あれば十分と判断しました。急きょ既習教材「ウナギのなぞを追って」(光村図書/4年)の資料を検討することにしました。
教材を見た瞬間に、「キャプションや表題がない!」と驚きの声があがりました。4年生のときには気にも留めていなかった資料の見方が変化していたのです。すぐに、自分たちでキャプションや表題をつけ始め、役割や効果も考えました。黒板に貼り出した資料の下に次々と考えを書き込んで、検討していきました。
新たに、次の2つの【資料の役割と効果】を見つけました。
「資料の役割はまだあるかもしれない」「ほかの説明文も読んで検証したい」とさらに勢いづく子どもたちのリクエストに合う教材を探す約束をして、少し期間をおいてから追究することにしました。
5、6年生の教科書から、次の四つの説明文を用意しました。
1グループ4名のグループ学習とし、次の流れで進めました。
ジグソー学習に似た形態をとったため、発表するときも、聞き手となって自分のグループに報告するときにも責任を伴います。
発表グループは、【資料の役割と効果】を説明するだけでは、聞き手に理解してもらえません。話題や事例、そこから分かる事実のまとめと筆者の主張を端的に説明した上で、資料について解説する必要があります。そのため、要旨をまとめざるをえません。
それまでの学習で身につけた文章構成図に小見出しを書き加えたものをクラスの共通ツールとして活用できることを、助言しました。下の図4は、子どもたちが説明するのに使用した構成図です。
グループで検討している間に、指導者は話し合いが停滞したり、読み誤っているところを見つけたりしては指導しました。それもあって、同じ説明文を選んだグループ同士の読みは、ほぼ一致しました。中には図5のように異なるところもありましたが、聞き手からの質問や意見によって是正されました。
ジグソー方式では、聞き手は自分のグループに戻って説明する責任を負うため、子どもたちは自分が選ばなかった説明文についても全て、文章構成図を書いたり要旨をまとめたりするなどの一人学びを行い、準備をしていました。これにより、聞き手と質疑応答する中で誤りは修正され、【資料の役割や効果】が明らかとなりました。
大幅な修正を余儀なくされたグループから、「修正発表をしたいので、次の授業の始めに10分だけください」という申し入れがあるなど、予定よりも2時間オーバーしたものの、子どもが自ら何度も読み返しては話し合う姿に、主体的に説明文を多読させるねらいは実現できました。
振り返りには「自分たちの資料の解釈と他のグループの解釈を比べて考えることで、私たちの改善点を見つけることができた」という記述も見られました。
リーフレットを書く手だてとして、調査報告文と意見文の2種類の構想メモ用ワークシートを用意しました。話題は、安全の後に研究を始めたSDGsでもよいこととしました。
【話題提示―調査方法・結果―まとめ(提案)】や【話題提示―仮説検証―考察・意見】という展開例を示し、どこにどのような資料を使用するのか、その目的も書き込ませました。メモの段階で個別指導を行い、完成させました。
本実践は子どもの問いや思いに従い、帯単元として展開しました。
読むことと書くことの複合単元は、通常は同時期につなげて行いますが、扱う時期よりも大切なのは、資料を使う効果や目的を明確にもって書く活動に臨ませることです。それには、伝えたい思いや内容を十分に耕す必要があります。
また、予想外の展開でしたが、既習教材の「ウナギのなぞを追って」を【資料の役割と効果】の検討という新たな観点で読み直すことは、大変有効であると実感しました。
本実践では、多読する中で「要旨を捉える」こともねらったため、5、6年生の教科書教材を学習材群としました。
しかし、「資料を使った説明文を読む」ことだけをねらいとするならば、3、4年生の教科書教材や「ウナギのなぞを追って」のような既習教材を活用するのもよいでしょう。
〔参考・引用文献〕
青山由紀(2023)「国語科学習内容の生成の条件」第144回全国大学国語教育学会シンポジウム
青山由紀(2023)「資料を使った説明文を『読む・書く』単元」『教育研究』No.1459、不昧堂出版
青山由紀(あおやま・ゆき)
筑波大学附属小学校
全国国語授業研究会理事/日本国語教育学会常任理事/光村図書小学校『国語』教科書・『書写』教科書編集委員
文学の授業における、初発の感想を書かせるという活動に替わるものとして、「読後感」を書くという実践を以前掲載した。これを基にした授業づくりについてこれから述べていきたい。 文学作品に出合ったときの新鮮な気持ちを大切にしたいと思う。教師主導で学習課題を設定することもあるだろうが、やはり子どもが自ら読んでいくための問いをもてるようにするためにはどうしたらよいかと考えたとき、読後感から問いをつくっていくということは、その1つの方法であると考える。
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記事を読む本教材「まいごのかぎ」(光村図書・3年)は、登場人物 りいこが次々と遭遇する不思議な出来事が、第三者目線とりいこの視点とを織り交ぜて描写されることで、読み手もまるで巻き込まれていくかのように展開し、ワクワクしながら物語の中に入り込むことができます。 今回は小島美和先生(東京都・杉並区立桃井第五小学校)に、一つひとつの叙述を自身の経験を想起しながら丁寧に押さえ、りいこの気持ちや行動と比較することで、人物像に迫っていく授業づくりを、紹介していただきました。
記事を読む今回は髙橋達哉先生(東京都・東京学芸大学附属世田谷小学校)に、新教材「文様」(光村図書・3年上)について、続く教材「こまを楽しむ」を踏まえた上で分析し、授業づくりのポイントとその具体例を紹介していただきました。 3年生はじめ、説明文に親しむための【れんしゅう】として、本教材にはどのような特性があるのでしょうか。 また、どのようにすれば主体的に読みを深められるのか、「ゆさぶり発問」のアイデアにもご注目ください。
記事を読む柘植遼平先生(千葉・昭和学院小学校)に、新教材「アイスは暑いほどおいしい?―グラフの読み取り」の授業づくりについて、「雪は新しいエネルギーー未来へつなぐエネルギー社会」と合わせて紹介していただきました。 今回の新教材の追加で、グラフや表などの資料が筆者の主張を分かりやすく伝えるための工夫として、捉えやすくなったことに着目し、資料を中心に説明文読解が深まるような単元づくりを行います。
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