どの子も自分の読みを表現するための手立て
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執筆者: 笠原 冬星
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単元名:自分の読みを色にのせて! 教材:「モチモチの木」(東京書籍/3年)
「モチモチの木」の授業づくりを紹介します。
本教材は、3年生で学習する定番教材です。お話の中では豆太の成長が描かれていますが、最初も最後も「夜、一人でせっちんに行けない」ことで、豆太は本当に成長したのか変容が分かりづらいと感じる子どももいるでしょう。
今回は、笠原冬星先生(大阪府・寝屋川市立三井小学校)に、物語の場面をそれぞれ色分けすることで、その違いを表現しながら読み取っていく授業づくりについて、ご提案いただきました。
本単元の教材である「モチモチの木」は、豆太の成長を描いている物語である。
主人公「豆太」はおくびょうで、夜一人でせっちん(トイレ)に行くことができない。豆太のモチモチの木に対する怖さは、夜の闇の怖さで表現されている。
そんな豆太であるが、「じさま」が腹痛を起こした際には、必死で夜の峠道をかけおり、医者様のところまで行くことができる。その帰りに「モチモチの木」が光るところをみることができた。「やさしさがあれば、やらなきゃならねえことは、きっとやるもんだ」と言われるほどの勇気をみせることができた。
しかし、次の日にはまた、「じさまぁ。」といいながら、しょんべんに行くのにじさまを起こすお話である。一見すると、中心人物である「豆太」には変容は見ることができないように思える(図1)。
つまり、物語の最初は一人でせっちんにいけないが、物語の最後でも結局一人でせっちんにいくことはできない。豆太には変容がなかったように思える。特に、読むのが苦手な子どもにとっては、最初も最後もせっちんにいけないので、変容がないように思えてしまうのも納得できる。
だが、果たして本当にそうなのだろうか。今回の実践では、この「豆太の変容」について、学級のどこの子も参加できるような方法を模索していく。
低学年では、「同化して登場人物になりきる」ことを大切にして、物語を読んでいる。中学年では、低学年の同化から一歩踏み込んで、「やや離れて登場人物を見る」ことを大切にしている。3年生の中盤には、物語を俯瞰して読むことにも取り組んでいる頃だろう。その一方、なかなか物語に入りきれず、文章からイメージするのが苦手な子どももいる。
通常、それぞれの子どもが文章からどのようなイメージをもっているかを見取ることは難しい。本単元では「子どもの見取り」に焦点をおき、「焦点化教材(練習用の教材)」を活用した。
まず、単元の最初に2年生「お手紙」の教材で、子どもたちがそれぞれどの程度文章からイメージできているのかを把握する。ここでは、最初と最後の場面を「色」という観点で文章から感じたことを塗ってみる。すると、最初の場面では悲しいので、暗い色を塗っているが、最後の場面では元気な気持ちになって明るい色を塗っている。
このように、場面全体に色を塗ることにより、自身の考えを表現することができる。その後、「モチモチの木」で各場面を読んでいく。
このお話は、3年生の子どもが同化して共感しやすい内容となっている。そして、少し離れたところからみると、場面の明暗が豆太の心情を表している。子どもたちには、そこから各場面をしっかり想像してもらいたい。明暗の「色」をつけるという活動を通して、最初と最後の場面の豆太の変化に自分なりの意見をもつことをねらっていく。
また、「標題」についてもそれぞれ意味があるので、そこの謎についても児童と一緒に考えていく。
最後に、「モチモチの木」を読んでもった考えを、絵にかく活動を通して表現していく。
〔知識及び技能〕
物語には登場人物の様子や行動、気持ちや性格を表す言葉があることに気付く。(1)オ
〔思考力、判断力、表現力等〕
叙述や場面に色を塗る活動を基に想像したことを友だちと交流することで、感じ方の違いや物語のおもしろさに気付く。C(1)カ
〔学びに向かう力、人間性等〕
場面に色をつける活動を通して、自身の思いや考えを伝える。
第一次 |
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第二次 |
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第三次 |
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第一次で「お手紙」の教材を使って場面に色を塗る練習を行っているので、本時ではそれを思い出す。すると、子どもたちは色をみながら、「あれだけ暗い山の中を駆け下りることができたのだから少しは変わっている」や「外見では分からないが、内面では変わっているので、少しだけ色を変えたよ」など、色を皮切りにして、自分の考えを語り出すことができる。
通常、子どもがどのようなイメージをもっているかを把握することは難しい。今回は「モチモチの木」での豆太の変化を「色づけ」する活動を通して、子どもの表象していることを把握していく。
このように、焦点化教材(練習教材)を使うことにより、子どもが自分の考えを表出しやすくなったり、どのようなことを頭の中に描いているかを教師がつかんだりすることができ、授業にも生かしていくことができると考える。
この物語ではそれぞれの場面に標題がついている(東京書籍版)。ちなみにそれぞれの標題は次のようになっている。
「おくびょう豆太」
「やい、木ぃ」
「霜月二十日のばん」
「豆太は見た」
「弱虫でも、やさしけりゃ。」
よく見てみると、豆太の様子について書かれている言葉は場面によって少し違うのである。第一場面では「おくびょう」と書かれているが、最後の場面では「弱虫」と書かれている。「おくびょう」と「弱虫」はどのような意味の違いがあるかを考えると、豆太の変容にせまることができる。
また、「やい、木ぃ」「霜月二十日のばん」「豆太は見た」のそれぞれにも意味があるので、考えさせると、より物語の世界に入っていくことができる。
最後に、「モチモチの木」の単元を通したまとめを「絵」に描かせるとおもしろい。
この時、「豆太が駆け下りてきたときの様子」や「モチモチの木が光っている様子」、「最初と最後の場面の違い」など、それぞれの子どもが一番印象に残ったことを選択させると、より積極的に学習に向かうことができる。
また、「モチモチの木が光っている様子」などは、色を塗ったときの絵を活用してもよいし、画用紙に豆太を貼り付けてもよい。色々な方法で行うことができるので、子どもが自分にあった方法を模索することで、「個別最適」な学習となっていくと考えられる。
「モチモチの木」は一見すると「変容がない」物語のように思える。特に、読むのが苦手な児童ほどそう思いがちである。
そこで、今回のように「場面に色をつける」という活動を行うことにより、読むのが苦手な児童でも自身の読みを持つことができ、その読みを基にして友だちと交流することが可能となる。
また、「標題を読み深める」や「様々な方法で表現してみる」などの活動を行うと、より「モチモチの木」の世界に浸ることができると考える。
笠原 冬星(かさはら・とうせい)
大阪府・寝屋川市立三井小学校
全国国語授業研究会理事/「読皆塾」主宰
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