フレームを活かして個別最適な学びをつくる~自分なりにお話の目のつけどころを考えよう~
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執筆者: 青木 伸生
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単元名:「お手がみ」(教育出版/1年下) 教材:「おはなしをつくろう」 授業者:青木 伸生(筑波大学附属小学校教諭)
青木伸生先生による「お手がみ」(教育出版/1年下)の提案授業を公開いたします。 がまくんとかえるくんシリーズや本学習材「お手がみ」を読み、子どもたち自身でがまくんとかえるくんのお話を作ることが、この単元の学習目標です。本時ではその物語創作に向けて、「お手がみ」のどんなところがおもしろいだろう? どんな組み立てになっているだろう? といったお話のフレーム「目のつけどころ」を、自分なりに考えみんなと交流することで、確かにしていきます。子どもたちがはつらつと、友だちと伝え合ったり先生の問いかけに答えたりする、楽しげな様子にもご注目ください。
1年生の子どもたちは、文学的文章を読む学習を通して、様々な「目のつけどころ」を学んできました。例えば、次のようなものです。
これらの目のつけどころを駆使しながら、「お手がみ」などの物語作品を読み、最終的には自分で「がまくんとかえるくんの登場する物語を創作する」というゴールを目指しました。
がまくんとかえるくんのキャラクターやその言動は、とてもユニークで楽しく、読む人を惹きつけます。子どもたちは、「お手がみ」を一度読んだだけで、この話が気に入り、内容や人物に関して様々に反応しました。そこで、「がまくんとかえるくんの登場する物語を自分たちでつくってみよう」という単元のゴールを投げかけました。そのために、がまくんとかえるくんの登場するいろいろな物語を読んで、お話づくりの参考にすることにしたのです。そこで、単元のねらいを次のように設定しました。
第一次 | 「お手がみ」を読み、自分たちも物語を創作する目当てをもつ(1時間) |
第二次 | シリーズものの読書をして物語について知る(4時間、本時4/4) |
第三次 | がまくんとかえるくんを登場人物にした物語を書く(4時間) |
はじめに全体で、これまでに習ったお話を読むときの目のつけどころを確認していく。目のつけどころは、子どもたちが答えたくなるように問いかけ、引き出す。全体で出てきた目のつけどころを基に、自分で選び考えをつくるようにすることで、個別最適な学びとする。
青木:これまでいろんな、がまくんかえるくんのお話を読んできましたね。
これからの学習で、自分でも、がまくんとかえるくんを登場人物にしたお話をつくります。今、どんなお話を作ろうとしているか、教えてもらってもいいですか?
児童:かえるくんが家のベッドで寝ているときに、がまくんが叫んだので、かえるくんが起きて怒ってしまって、けんかになってしまいました。がまくんは仲直りしたくて、かえるくんにお花をわたそうとして、玄関の前に置いたけど、かえるくんがそれを取ったとき、もうしおれてしまっていたのでかえるくんはますます怒ってしまいました。次に、かえるくんは……(略)。
青木:すごくおもしろいですね! 今発表してくれたお話は、何型かな? せーの。
児童全員:くり返し型!!
青木:今発表してくれたみたいに、みんなにはお話を考えてもらっている最中ですが、今日は「お手がみ」のお話を読んでみて、お話をもっと上手に作れるような何か新しい発見があるか、考えていきましょう。
青木:今までがまくんとかえるくんのお話を読むときに、どんなところに気を付けていましたか。目のつけどころ、みんなはどんなことを知っていますか?
児童:はじめとおわりで何かが変わること!
―先生が子どもたちのそばまで聞いて回る
児童:設定。
児童:はじまりの設定と組み立て。
児童:登場人物。
児童:テーマ!
青木:ありがとうございます。組み立てにはどのようなものがあるか、知っている人はいますか?
児童:くり返し型!
青木:くり返し型もありますね。ほかにもありますか?
児童:事件型!
青木:ほかにもありますか?
児童:あと1つある!
―児童全員が手を挙げる
青木:あと1つは、みんなでどうぞ!
児童全員:ミックス型!
青木:ミックス型って、どんなかたち?
児童:くり返し型と事件型がまざったもの!
青木:ありがとう。今まで勉強してきたことですね。
組み立てのほかに、目のつけどころって何かありますか?
児童:場面。
児童:作者!
児童:(登場人物の)性格!
―児童に聞きながら、板書してゆく
青木:ほかにもありますか?
児童:題名!
児童:かぎかっこを続けて読むところ。
青木:会話文のことですね。他にはまだありますか?
児童:かえるくんとがまくんがどういうひとなのか(中心人物)。
児童:それは性格にも当てはまりそうです!
青木:なるほど。みなさん、いろいろ出してくれてありがとうございます。
中心人物はだれなのか? というのは問題ないですか?
児童:それは登場人物の中に当てはまると思います。
青木:なるほど、登場人物の中に中心人物を入れて、合体させますね。
それでは、今まで話してきた中で、自分だったらどういった目のつけどころを特に選んで読みたいですか?
はじめとおわりで何かが変わるということ、組み立ては何型かというのもありますね。テーマはどうでしょうか?
児童:入れます!
児童:一番大事だと思います!
児童:場面も!
青木:場面は、はじめとおわりで何かが変わると、組み立ての中に含まれると思いますね。
それでは、自分で選びたい目のつけどころを決めてもらおうと思います。
登場人物や中心人物のことに決めた人?
―目のつけどころごとに児童に挙手してもらい、人数を確かめていく
青木:今から、自分で選んだ目のつけどころについて読んでみて、相談し合うために考えをつくる時間を5分取ります。
―その間、先生は机間巡視し、全体で共有したい問いがあれば、その都度全員に投げかける
友だちと共有することで自分の考えも改めて確かにできるようにする。そのため、どうしてそのように考えたのか、どこを根拠に考えたのかを問いかけることで、グループ全員の理解が進むようにする。
青木:それではみなさん、相談タイムを始めたいと思います。
人数が多い場合は、2つのグループに分かれても大丈夫です。
プリントと鉛筆を持って、集まって相談し合いましょう。
―選んでもらった、目のつけどころごとにグループになり集まる
<登場人物について考えるグループ>
青木:中心人物の相談をしていますね?
児童A:かたつむりくんだと思ったな。
児童B:中心人物はがまくんだよ。
青木:中心人物はがまくん?
児童B:だって、最初は手紙をもらえなくてかなしくしてすぐあきらめてたけど、かえるくんのおかげで手紙をもらって喜んでいたし、がまくんが変わったところが心に残るから。
青木:なるほど、がまくん変化しましたよね。Bさん、OK?
児童B:はい!
児童C:それに、がまくんだと思うのは、かえるくんよりがまくんが主語になっていること多いから。
児童C:ああ~、結構多い!
<はじめとおわりで何かが変わるについて考えるグループ⓵>
児童D:はじめはお手がみをもらえなくて悲しかったけど、最後はもらえてうれしくなった。
青木:がまくんとかえるくんのどっちがって書いてある? 証拠の文見つけてごらん。
児童D:かえるくんとがまくんがうれしくなったと思う。
児童E:かえるくんがお手がみを渡してがまくんがうれしかったんだよ。
児童F:ほら「がまくんは、」って書いてあるから……、あっ! ちがうかも。
<はじめとおわりで何かが変わるについて考えるグループ②>
児童G:いい気持ちから、わるい気持ちに変わったと思う。
青木:だれがだと思う?
児童G:がまくん!
児童H:逆だと思う!
青木:逆というのは、わるい気持ちからいい気持ちに、ということですね。
児童H:そう!
青木:それは、がまくんだけかな? 証拠の文だと何て書いてありますか?
グループ内の児童たち:えーと……。
―相談、話し合いの終了時間となり、児童が席に戻る
次時の物語創作に向けて見通しをもてるよう、相談し合った目のつけどころを中心に、物語の構造を整理する。板書では全体の意見がどのように関連しているのか、図で分かりやすく示す。教科書の実際の言葉を証拠に、理由をもって発言できるようにしたい。
青木:それでは、これからみんなで話し合ったことを整理していきましょう。
まずは全員で、登場人物から確かめてみます。
登場人物は何人いますか? 言ってみましょう。せーの。
児童全員:3人!!
青木:それはだれですか?
児童全員:がまくん、かえるくん、かたつむりくん!
青木:そうですね。
組み立てのグループの人、はじめの設定について教えてもらえますか?
児童:はじめの設定は、お手がみをもらうところです。
児童:私は、お手がみを一度ももらったことがないということが、一番最初の設定だと思う。
青木:一度もお手がみをもらったことがない、ということが設定でいいですか?
多くの児童:はい。
青木:お手がみをもらったことがない人物は、がまくんでいいですね?
児童:がまくん!
青木:はじめとおわりで何が変わったかのグループの人たち、どのように変わったのか教えてもらえますか?
児童:最初はお手がみをもらえなかったけど、最後はもらえた。
青木:ほかにはあるでしょうか?
児童:最初は、お手紙をもらえなくて悲しい気分だったけど、最後はもらえてうれしい気分になった。
―全体の意見を板書で整理しながら、意見をまとめていく
青木:今言ってくれたことがわかる証拠の言葉は、どこでしょうか?
児童:はじめは、がまくんは「ふしあわせ」だったけど、最後は「とてもよろこびました。」
青木:そう書いてありますよね。ほかにも証拠の言葉はありますか?
だれか読んでみてくれますか。
児童:「今、一日のうちの かなしい時なんだ。つまり、お手がみを待つ時間なんだ。そうなると、いつもぼく、とてもふしあわせなきもちになるんだよ。」
青木:それががまくんのセリフですね。がまくんの気持ちが書いてある証拠の言葉がありましたね。それは何でしょうか?
児童:「一日のうちの かなしい時」と「とても ふしあわせな気もち」です。
青木:がまくんは、何故かなしいと言っていましたか?
児童:お手がみがもらえないから。
児童:今日もお手紙をもらえないなって待つ時間がかなしいから。
青木:そうですね。それが最後どうなったと書いてありましたか?
児童:お手紙をもらって、「とてもよろこびました。」
―児童から読み上げてもらった証拠の言葉を、がまくんの気持ちの変化の図示とともに板書していく
青木:さっきの相談の時間でも出ていましたが、がまくん以外にもうれしくなった人いますか?
児童:がまくんもかえるくんもうれしくなったと思う。
児童:かえるくんが書いたお手がみを読んでがまくんが喜んでくれたから、かえるくんもうれしい気持ちになった。
青木:今言ってくれたこと、みんなわかりましたか? わかった人、もう一回教えてくれますか?
児童:お手がみを待つときがまくんがかなしんでいて、かえるくんもかなしくなった。
最後は、お手がみをもらえてがまくんによろこんでもらえたから、かえるくんもうれしくなった。
青木:かえるくんもかなしくなって、うれしくなったということですね。
お手がみをもらったのはがまくんなのに、かえるくんもうれしくなった?
それはみんないいですか?
児童:はじめは「ふたりとも、かなしい気分で、げんかんの前にこしを下ろしていました。」と書いてあるからふたりともかなしくて、「ふたりとも、とてもしあわせな気もちで、そこにすわっていました。」と書いてあるから最後はふたりともしあわせな気分になったことがわかる。
児童:教科書の絵を見てみると、かたつむりくんも笑っていて、登場人物3人うれしくなっていると思います。
青木:かたつむりくんも出てきましたね。がまくんとかえるくん、ふたりとも変わっていることがわかりましたか? ということは、中心人物は?
児童:ふたりとも!
青木:ひとりとは限らないということですか?
児童:そうです!
青木:お話の中で、大きく変わる人が中心人物でしたね。今、かたつむりくんも笑ってると言ってくれました。みんなで教科書のかたつむりくんの絵を見てみましょう。
―みんなで教科書を開いて確認し、各々が感想を言う
児童:なんか、ニヤリって感じ!
青木:かたつむりくんは、かえるくんからもらったお手がみを4日かけてやっとてきましたが、「ごめんね」とはならなかった?
児童:かたつむりくんも落ち込んでいたかもしれないけど、がまくんもかえるくんも喜ん でいたから、みんないっしょに笑った。
青木:ふたりにつられたんですね。
児童:4日経って遅くなっちゃったかなと思っていたけど、ふたりとも笑っていて気にしてないんだなってわかったから、いっしょにわらっていた方がいいかなってなった。
青木:なるほど、がまくんとかえるくんが喜んでいたから、とりあえずよかったってなったのですね。
さて、これまでのみんなの話し合いを考えると、はじめとおわりで何が変わったか、だんだん見えてきましたね。
このお話は組み立てで言うと何型ですか?
児童:くり返し型!
青木:みなさん、くり返し型でいいですか?どこがくり返し型でしょうか?
児童:「かえるくんは、まどから……かたつむりくんは、まだ やって来ません。」と書いてあるところ。
児童:どうせ、とか「きょうだって同じ」ってある。
青木:そうですね。かたつむりくんはいつまでも来なくて、くり返してますね。
テーマは考えることができましたか?
児童:あきらめないでいることがテーマだと思った。
児童:ふたつあって、友だち思い、手紙を書いたことだと思う。
青木:このお話って、お手がみを出すことがとても大事ですよね。今日のはじめに、題名が大事と言ってくれた人がいました。テーマを考えるとき、題名がヒントになるということですね。
チームで相談したこととして、性格はどういう考えが出てきましたか?
児童:がまくんはすくに諦めてしまう性格で、かえるくんはやさしくてかしこい、人のためにがんばれる人だと思った。
青木:ありがとうございます。
これからあなたたちがお話を作るときに、このがまくんらしさとかかえるくんらしさが重要になってきますね。
今日発表できなかった場面については、また今度詳しく確かめましょう。
本日の授業はここまでで終わりたいと思います。
子どもたちは、今までに身につけた「目のつけどころ」を駆使して、「お手がみ」という作品を読みました。自分のこだわりたい「目のつけどころ」を基に、その場でグループをつくり、解釈を交流する中で、内容に対する理解が深まったように思います。個々の解釈をできるだけ引き出しながら、板書で可視化しようと考えて授業を進めました。
その場で「目のつけどころ」を選択させ、グループでの話し合い活動も短時間だったために、子どもの読みの意識が本当に自分のものになったかどうか、もっと「問いの醸成」の時間が必要ではなかったか、という反省点も残りました。今後の課題にします。
※本授業は、2024年2月11日に開催した、筑波大学附属小学校 学習公開・初等教育研修会の「提案授業」の内容です。当日に収録・撮影を行いました。
※撮影は2月に行いました。子どもたちのマスク着用については、個人の判断です。
青木 伸生(あおき・のぶお)
筑波大学附属小学校教諭
全国国語授業研究会会長/日本国語教育学会常任理事/教育出版小学校国語教科書編集委員
文学の授業における、初発の感想を書かせるという活動に替わるものとして、「読後感」を書くという実践を以前掲載した。これを基にした授業づくりについてこれから述べていきたい。 文学作品に出合ったときの新鮮な気持ちを大切にしたいと思う。教師主導で学習課題を設定することもあるだろうが、やはり子どもが自ら読んでいくための問いをもてるようにするためにはどうしたらよいかと考えたとき、読後感から問いをつくっていくということは、その1つの方法であると考える。
記事を読む今回は、田中元康先生(高知県・高知大学教職大学院教授/高知大学教育学部附属小学校教諭)に、教材「インターネットは冒険だ」(東京書籍・5年)の授業づくりの工夫について、紹介していただきます。説明文の学習で当たり前のように行われる「要旨をまとめる」とはどういうことなのか。あらためてその意味や方法を確認しながら学ぶことで、汎用的な読みの力が育ちます。
記事を読む本教材「まいごのかぎ」(光村図書・3年)は、登場人物 りいこが次々と遭遇する不思議な出来事が、第三者目線とりいこの視点とを織り交ぜて描写されることで、読み手もまるで巻き込まれていくかのように展開し、ワクワクしながら物語の中に入り込むことができます。 今回は小島美和先生(東京都・杉並区立桃井第五小学校)に、一つひとつの叙述を自身の経験を想起しながら丁寧に押さえ、りいこの気持ちや行動と比較することで、人物像に迫っていく授業づくりを、紹介していただきました。
記事を読む今回は髙橋達哉先生(東京都・東京学芸大学附属世田谷小学校)に、新教材「文様」(光村図書・3年上)について、続く教材「こまを楽しむ」を踏まえた上で分析し、授業づくりのポイントとその具体例を紹介していただきました。 3年生はじめ、説明文に親しむための【れんしゅう】として、本教材にはどのような特性があるのでしょうか。 また、どのようにすれば主体的に読みを深められるのか、「ゆさぶり発問」のアイデアにもご注目ください。
記事を読む柘植遼平先生(千葉・昭和学院小学校)に、新教材「アイスは暑いほどおいしい?―グラフの読み取り」の授業づくりについて、「雪は新しいエネルギーー未来へつなぐエネルギー社会」と合わせて紹介していただきました。 今回の新教材の追加で、グラフや表などの資料が筆者の主張を分かりやすく伝えるための工夫として、捉えやすくなったことに着目し、資料を中心に説明文読解が深まるような単元づくりを行います。
記事を読む今月の5分で分かるシリーズは、藤平剛士先生(神奈川県・相模女子大学小学部)に、授業開きで確認し合いたい、すべての学びの基礎となる4つのスキルについて、実際の授業展開に沿ってご紹介していただきました。
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