「帰り道」-物語の「かかれ方」を捉え、転移する読む力を育てる-
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執筆者: 三浦 剛
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「帰り道」(光村図書・6年)の授業づくりを紹介します。本教材は、同じ出来事を通した二人の心のすれ違いが、それぞれの一人称視点で書かれている物語です。等身大の二人のやりとりに共感しながら、書きぶりのおもしろさを味わうことができます。
今回は三浦剛先生(東京都・町田市立鶴間小学校)に、物語の「かかれ方」に着目することで、他教材に転移させられる読みの力を育む授業づくりについて、ご提案いただきました。
「帰り道」は、6年生の「読むこと」領域における第一教材である。新年度を迎えて最初に出合う教材だからこそ、やる気に満ちあふれている子どもたちの思いに応えられるような授業をしたい。
最も重要視したいのは、物語のおもしろさを味わえる授業づくりをするということである。ただ、そのおもしろさのベクトルが「内容」にだけ向いてしまうと、内実の伴わない授業に陥ってしまう可能性がある。
そこで強調したいのが、形式面、つまり、物語の「かかれ方」に注目するという点である。物語のかかれ方に注目することによって、学びの実感や他教材へと転移する読みの力を育むことができる。「どうして作者はそのような描き方をしたのか」を考え、「その描き方による効果は何なのか」を追求することで、物語のおもしろさを、より深い次元で味わうことができるだろう。
以上のことから、本教材を通して、物語の内容面だけでなく、形式面も視野に入れながら読み味わう授業展開を考えていくことで、物語を読むことのおもしろさを味わえるような授業ができるようしていきたい。
本教材は、帰り道で交錯する律と周也の心模様を、それぞれの視点から描き出すという特徴をもっている。子どもたちは、帰り道が自分にとってどんな時間かを考えたり、友達との関係の中で同じような出来事があったかなどを考えたりしながら読むことで、経験を想起し、その経験と重ね合わせながら読むことができるという特性をもった教材である。
また、登場人物である律と周也は、対照的な性格で描かれているという点も非常に特徴的である。一人称視点で対比的に表現されている2人の性格を把握し、両者を比べたり、自分と重ね合わせたりしながら読むことで、物語のおもしろさを味わえるようにしていきたい。
〔知識及び技能〕
〔思考力、判断力、表現力等〕
〔学び向かう力、人間性等〕
第一次 | これまで読んだ物語との違いを考え、感じたことを交流しよう(第1時) |
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第二次 | 登場人物二人の視点から書かれた物語を比べながら読み、作品を読み解こう(第2~4時) |
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第三次 | ポートフォリオを基に感想文を書いて読み合おう(第5・6時) |
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本教材が、律と周也、それぞれの視点から一人称視点で描かれていることを確認し、物語のおもしろさを考えられるようにするため、初読前に読みの構えをもてるようにし、自身の帰り道での経験を想起してもらう活動を行った。
目の前に提示された作品が、子どもにとって「読まされる教材」となっているか、それとも「読みたいと思う学習材」となっているかは、読むことの学習を行う上で非常に重要な問題である。
まずは「帰り道」という作品が、子どもが読みたいと思える学習材となるように提示することで、主体的に読み解こうとする意識や姿勢を引き出すことが大切である。その上で、重視すべきは、「単元の入り口」である。初読に臨む前に「読みの構え」をつくり、学習を自分に引きつけられるようにすることが重要であると考え、以下のような実践を行った。
本時では、本文を読む前に、「帰り道の時間の過ごし方は?」と問いかけ、帰り道が自分にとってどんな時間になっているかを考える場を設定した。どんなことを考えているか、どんなことを思いながら帰っているかを確認した上で、これから読む物語が、「帰り道」と題して、2人のやりとりが描かれている物語であることを伝え、自分と重ね合わせながら読むことの大切さを伝えた。
範読が終わった後は、これまで読んだ物語と、何がどのように違っていたのかを交流する時間を設定した。
以下の板書写真にもあるように、実際の授業では、「物語のかかれ方の違い」に気付き、1の文章が律の視点、2の文章が周也の視点から描かれたものであることが子どもたちから挙がったため、「語り手」によって物語が進んでいく物語が「三人称視点」であるのに対して、1年生で読んだ『ずうっと、ずっと、大すきだよ』や、5年生で読んだ『カレーライス』『たずねびと』のように、登場人物の目線で物語が進んでいく形式で描かれた物語が「一人称視点」であることを確認した。
さらに、「一人称視点」でストーリーが展開することに、どのような「よさ」があるのかを問うたところ、「物語を自分ごととして引きつけながら読むことができる」「親近感が湧く」といった意見が挙がった。
これらを踏まえ、振り返りとして「今日の授業を通して見えた物語のおもしろさ」を書いた。物語が「一人称視点」で描かれているという形式面から物語のおもしろさを拾い上げていく活動を行うことで、学びの実感をもつことを促し、他教材に転移する読みの力を育むことができた。
1と2の文章の共通点と相違点を踏まえながら、叙述を手がかりに律と周也それぞれの人物像をつかめるようにする。また、それぞれに対する共感度を考えることで、自分と重ね合わせながら読み解けるようにする。
第二次の第3時では、視点の違いに着目しながらそれぞれの人物像を把握した後に、共感度を考える活動を行った。一人称視点で描かれた物語だからこそ、経験した出来事をどのように受け止めているかが本文の叙述に明確に表れる。
本時では、そうしたそれぞれの出来事の捉え方を分析することで、どのような性格の人物なのかを考え、把握した後に、どちらの人物にどれだけ共感するかを考える機会を設けた。
授業冒頭、「あなたは律と周也、どちらに共感しますか?」と問いかけ、人物像を考えるキーワードを引き出した。ある子からは、「私は律に共感しました。律みたいに、なかなか自分の考えを言い出せないからです」という意見が挙がった。律の性格を表す言葉が出てきたことを取り上げ、登場人物の人間性や様子を表す用語が何であるかを問いかけたところ、子どもから「人物像」という言葉が出てきた。
こうしたやりとりを踏まえ、本時のめあてが「視点のちがいに着目して、律と周也の人物像を考えよう」であることを提示した。
次にペアで分担し、一方が律の人物像を考え、もう一方が周也の人物像を考えるように呼びかけ、活動に入った。叙述に根拠を求め、理由づけをしながら、それぞれがどのような性格の持ち主なのかを考え、ノートに自分が捉えた人物像を書くように促した。
年度当初から、説得力のある意見をもつためには「三角ロジック」を意識する必要があることを指導していたため、それを用いながら書くことを強調した(「三角ロジック」とは、説得力のある主張をするために根拠と理由づけが必要であるという論証の考え方に基づくもの。「〇〇と書いてあることから(根拠)△△と考えたため(理由づけ)□□だと考えた(主張)」というように、三つをセットにして考えをもつことを指している)。ノートに自分の考えを書き終わった後、律を考えた人同士、周也を考えた人同士で集まりどんな人物像と考えたのかを交流し、その後に全体交流を行った。
全体交流では、律の言葉から考えられる律の人物像もあれば、周也の視点から予想される律の人物像もあるということ、また、周也の言葉から考えられる周也の人物像もあれば、律の視点から予想される周也の人物像もあるということを確認した。この物語は、相手のことを捉え違えていたり、2人の間ですれ違いが生じていたりするのが読者にしか分からないという所におもしろさがある。一人称視点による効果で、そうしたボタンの掛け違いを楽しみながら読むことができることも確認した。板書は、それらを整理し分かりやすく示せるように、構造的に書くことを心がけた。
人物像を考え、表現する上で、教科書の巻末に用意されている「言葉の宝箱」を参考にしながら考えるように呼びかけた。
こうした活動を踏まえ、最後に、律と周也、どちらにどれだけ共感するかを考え、理由とともに発表する場を設定した。共感度は四件法を用い、4(共感する)3(少し共感する)2(あまり共感できない)1(全く共感できない)で表現することとした。多くの子どもがどちらか一方には強く共感できるが、もう一方にはあまり共感できないという考えを発表していた。
授業の最後には、前時までと同様、振り返りとして、「今日の授業を通して見えた物語のおもしろさ」を書く活動を行った。
本時の学習を通して、「一人称視点」で描かれた物語は、登場人物の性格が表れやすく、人物像を捉えやすい傾向があるということを学んでいる様子が見られた。また、人物像を把握することと合わせて、律と周也どちらにどれだけ共感するかを考えることで、より自分に引きつけながら作品を読み味わうことができると感じた。
律と周也、それぞれの視点で物語が展開していくという独特な描き方で書かれている本教材を読む中で、物語のおもしろさを味わっている様子が見られた。やはり、内容だけを追い、そこに自らの解釈を加えていくことのみに終始するのではなく、「一人称視点」からのアプローチのように、どのような「かかれ方」をしているのかを考え、形式面からその効果を分析する活動を行うことによって、より深い次元で物語のおもしろさをつかむことができると感じた。
三浦 剛(みうら・つよし)
東京都・町田市立鶴間小学校
全国国語授業研究会監事
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