教材の特性と子どもの力をふまえた、系統的な授業デザイン
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執筆者: 藤平 剛士
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単元名:「ありのひみつ」リーフレットをつくろう 教材:「ありの行列」(光村図書・3年)
「ありの行列」の授業づくりを紹介します。本教材は3年生で学習する最後の説明文で、問いに対して、実験・観察・考察・結果という流れで解決していく、尾括型の構成が分かりやすい文章です。今回は、藤平剛士先生(相模女子大学小学部)に、教材の読み取り授業と言語活動とが分断されない、教材の特性と子どもの力を踏まえた言語活動を設定する、系統的な授業デザインについてご提案いただきました。
1年間のまとめを意識する3学期は、子どもたちに付いた「言葉の力」を形に残したい。しかし、子どもにも教師にとっても忙しい3学期は、「読みの力」「書く力」「話す力」「聞く力」をすべて……と欲張ってしまうと、お互いに苦しくなってしまう。
また、学年末に設定されている読みの教材は、学年当初の教材に比べて、語彙も内容も難しいことが多い。それだけに、指導内容を詰め込み、指導目標を高く設定しがちである。
そこで、あらためて教材の特性と単元のねらいを練り直し、次年度も見通した系統的な授業デザインを行いたい(資料1)。
まず、3年生の説明文では、関係を比べて読むことを通して、「はじめ・なか・おわり」の全体構造と各段落の役割を捉え、筆者の伝えたいことを読み取る力を育むことを目指している。特に、話題と事例の書かれ方から、段落同士の関係を整理して読む力は、4年生以上の主張の読み取りにつながる読解力として、この時期に付けたい力である。教材の特性についてもこの点を踏まえて整理したい。
次に、3年生の言語活動では、発展学習として、学習した文章の書き方をまねて作文を書くことに取り組ませることが多い。しかし、教材をなぞった作文は、子どもにとって主体的でも意欲的でもない。3年生の子どもたちの特徴は、「知りたがり・やりたがり・教えたがり」である。この子どもの力(特徴)と教材の特性をふまえた言語活動を組み込んだ、授業デザインを目指したい。
また、学年末となると、各教科でまとめの学習が行われがちである。そこで、子どもの実態をふまえて、わくわくするような言語活動を設定することを大事にしたい。
《1年生》
正しく読む…問いの文と答えの文を捉えて読む。比べながら読む。
⇒「くちばし」「うみのかくれんぼ」「じどう車くらべ」「どうぶつの赤ちゃん」
《2年生》
順序を捉えて読む…まとまり(場面)や、順序(時間、仕方、大切さ)を考えながら読む。
⇒「たんぽぽのちえ」「どうぶつ園のじゅうい」「馬のおもちゃの作り方」「おにごっこ」
《3年生》
《4年生》
《5年生》
《6年生》
資料1 説明文「ねらいと教材」(光村図書国語指導書参照)
本教材は、3年生最後の説明文教材であり、「ありの行列はどうしてできるのか」という「問い」の解決を、実験・観察・考察・結果という流れで解決していく、典型的な「尾活型」の説明文である。また、段落のまとまりが分かりやすいことも特徴である。
そこで、軸となる2つの発問から、この教材の特徴である「問い」と「答え」、「実験」「観察」と「研究」、「順序を表す言葉」と「文末表現」の3つの関係を捉えながら、筆者の伝えたいことを読み取らせていきたい。
さらに、題材は子どもたちにとって身近な「あり」である。そして、ありの行列は多くの子どもが見たことがあるだけに、「そう問われれば……なぜだろう」と探究心をくすぐる内容である。休み時間に校庭のすみでありを見つめている子どもや、「先生、ありを教室で飼ってもいいですか?」と相談にくる子どもも少なくないだろう。そんな子どもたちと、「ありのひみつ」リーフレットをつくる言語活動をセットにした単元デザインを行いたい。
〔知識及び技能〕
〔思考力、判断力、表現力等〕
〔学びに向かう力、人間性等〕
第一次 学習のゴール「ありのひみつ」リーフレットづくりを確認する (第1・2時+休み時間なども活用) |
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第二次 三部構成(はじめ・なか・おわり)を読む(第3時) |
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第三次 事例の順序に着目しながら、三部構成と関連付けて読む(第4~6時) |
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第四次 「ありのひみつ」リーフレットを作成する(第7~8時) |
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「筆者がもっとも大事にしている段落はどこか」と発問し、読み取りを通して解決していく中で、説明文の「なか」で述べられている事例の順序や、「文頭」や「文末表現」の書き方の特徴を学ぶ。
「問い」と「答え」が分かったところで、「なか」にあたる2~8段落は、何を説明するための段落なのか、また、その段落から分かったことは何かを読み取ることで、事例の役割について考える。
「『なか』2〜8段落で、筆者が最も大事にしている段落はどれか?」
すると、文頭の言葉や内容の理解から、5段落・6段落・8段落ではないかという思考のズレが生じる。そこで、各段落の冒頭の一文から「文頭」と「文末表現」を表で整理する。
板書に示した表からも、段落それぞれの役割は、2〜5段落がウィルソンの実験・観察、6・7段落が研究だと分かる。そして、5段落の文末「考えました」からは、ウィルソンが観察をもとに予想を立てたことが読み取れる。つまり、5段落が、予想を検証する6・7段落をつなぐ役割をしていることが見えてくる。
この活動からも分かる通り、本教材は段落のまとまりが分かりやすい説明文である。本教材の説明文の書き方の学習を生かして、次時から、「ありのひみつ」リーフレットづくりの発展学習へつなげていく。
また、本文の読みのまとめとして、NHK for School「アリの行列のできるわけ」を視聴する。
新しい学習指導要領の解説では、国語科のみならず、各教科等においても言語活動の充実がポイントとなっている。気を付けたいことは、教材の読み取り授業と言語活動とが分断されないようにすることである。
そこで、本単元ではまず、NHK for School「考えるカラス〜科学の考え方〜」第7回「アリは線をいやがる?」を視聴することで、「あり」のふしぎに着目し、子ども自らが実験を行う。そして、「ありの行列」での学びを活かしながら、実験過程を「ありのひみつ」リーフレットとして作成する。
初めに学級全体で読み取りをすべて行った後に、「それでは、リーフレットを作りましょう」というのとは違う。子どもの側からすれば主体的に実験を行いながら、その実験記録をリーフレットに残しているのだが、実は、それが文章を読み取ったことを活かしていることになっている。そんな言語活動を目指したい。つまり、「リーフレットづくりをするために、読み取っていく」ということを大切にしたいのである。
〔引用・参考文献〕
藤平 剛士(ふじひら・たけし)
相模女子大学小学部 全国国語授業研究会理事/日本私立小学校連合会国語部会全国委員長/新考える国語研究会
文学の授業における、初発の感想を書かせるという活動に替わるものとして、「読後感」を書くという実践を以前掲載した。これを基にした授業づくりについてこれから述べていきたい。 文学作品に出合ったときの新鮮な気持ちを大切にしたいと思う。教師主導で学習課題を設定することもあるだろうが、やはり子どもが自ら読んでいくための問いをもてるようにするためにはどうしたらよいかと考えたとき、読後感から問いをつくっていくということは、その1つの方法であると考える。
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