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近年、学校での働き方改革が広く叫ばれています。新年度は、自分の仕事を見直して、新しい意識や方法で取り組むのに絶好の時期です。そこで東洋館出版社では、新年度からの働き方をスマートにするための秘訣を、4人の先生方からうかがったお話をご紹介したいと思います。

第1回は、今回『教師の働き方を変える時短』を刊行した、福井県坂井市春江東小学校教諭の江澤隆輔先生。中学校勤務時代には英語教諭として独自に「フォニックス」の指導の取り組みを始め、大きな成果を上げてきました。2017年からは小学校に異動し、小学校における外国語教育の推進に努めています。

教師として働きながら、3人の子どもの父親として子育てに力を注ぐだけでなく、これまで教育実践をまとめた著書を3冊刊行するなど、超多忙な中で情報発信を続けている江澤先生。その働き方の実際と、教師としての思いについて伺いました。

(聞き手:東洋館出版社 編集部)

子育て・授業研究・執筆をすべてこなす1日

——まずは、江澤先生の1日の過ごし方を教えて下さい。

朝は5時半に起きて、子どもたちの保育園の連絡帳を書いたり、着替えの用意をしたりした後、2キロほどランニングをします。6時半頃に子どもたちが起きてくるので、朝ご飯を一緒に食べるなどして、家を出るのは7時半頃です。

勤務校には7時45分頃出勤します。8時からは朝の会が始まり、8時半からは授業。1日を過ごして、子どもたちが下校するのが15時45分頃。その後は職員室で仕事をして、16時半~17時には退勤します。

——平均から比べると、かなり早くお帰りになっていますね。退勤後はどうされていますか?

できるだけ子どもたちと過ごします。一緒に遊んで、夕飯を食べて、お風呂に入れて、本の読み聞かせをし、9時までには寝かしつけます。その後は、本を読んだり原稿を書いたり、夫婦でドラマを見たりして……だいたい、11時ごろには寝てしまいます。もっとも、子どもたちを寝かしつけながら、いつのまにか自分も寝てしまうこともしばしば(笑)。

——土日はいかがですか?

土日も家族と過ごしています。なにか行事でもない限り、学校に行くことはありませんね。

「働き方」を変えた私生活・授業観の変化

——江澤先生はこれまで英語教育の実践で大きな成果を上げ、3冊の本を刊行するなど、広く発信をされています。限られた時間でそのような成果を上げているのは驚きです。

実は、教員になってしばらくは、今のような働きぶりではありませんでした。新人だったということもありますが、毎日夜遅くまでだらだらと働くタイプだったのです。仕事も効率的でなく、書類の締め切りを過ぎてよく注意されていました(笑)

——そこから変わったのには、なにか理由が……?

大きく2つあります。1つは結婚して、子どもができたという私生活上の変化です。家でもっと家族と過ごしたい、という思いが強くなっていきました。

もう1つは、授業研究を重視するようになってきたことです。当時勤務していた中学校で、英語科として協力して独自の取り組みを行い、子どもたちの学力も伸びました。後にベネッセがその実践を取材に来るなど、ありがたいことに注目頂きましたが、この時期から授業研究が楽しくてしかたなくなってきました。

家族との時間も欲しいし、学校でも授業にもっと時間を使いたい。であれば、それ以外の仕事を精選して働くことを考えますよね。時間意識を大事にし、時短のテクニックを周囲の先生に教わったり、自分でも考えて仕事をしたりするようになっていきました。当時は部活動にも力を注いでいましたが、優先すべき順位を考えて、部活動に使う時間も減らしました。

わが子の成長から着想した、「フォニックス」の実践

——ご著書では、教師が学校外で経験することの重要性を強調しています。

私が英語教育で特に成果を上げてきたのが「フォニックス」の実践です。これは、アルファベットの組み合わせと英語の発音の関係で、フォニックスが理解できると、ほとんどの英単語の発音が理解できるようになります。

フォニックスに取り組み始めたのは、実は子育てがきっかけでした。わが子が自分の名前、ものの呼び方などから、言葉を覚えていくのを目の前で見ていくと、それがフォニックスの考えそのものだと気づいたのです。つまり、言葉の響きと50音との対応がわかれば、日本語のどんな言葉も読めるようになるのです。言語の専門家として、この過程に強く興味をもって、フォニックスを授業で取り入れられないか、研究を始めました。

——子育ての経験が、ご自分の授業実践を広げる力になったということですね。

もし、昔のように長時間働くままで、子育てに目を向けないままでいたら、フォニックスに取り組むことはなかったですし、授業の面白さに目覚めて腕を上げたり、実践を本にまとめたりすることもなかったでしょう。
ほかにも、例えば学校で何かつらいことがあっても、校外で話せる人がいたり、考えをリセットできる場があったりすれば、自分自身を立て直しやすい。朝早く学校に来て、帰ったら寝るだけ、という状況になってしまっている先生もいらっしゃると思いますが、学校以外にも足場があり、自分に余裕があれば、ずっと働きやすくなると思いますね。

周囲の先生と、働き方の「哲学」を共有する

——そのように学校外で経験を広げるためにも、時間が必要ですね。そのために時短の方法を日々の仕事に導入したり、定時後にスピーディーに退勤するには、周囲の先生方との協力や理解が必要です。時には無理解や反発があるかもしれませんが……。

本書『教師の働き方を変える時短』を刊行した直後、地元の「福井新聞」が記事にして下さったんです。それを読んで「江澤先生のいう時短って、楽をしたいからでしょ」と言ってくる人がいらっしゃいました。

でも、そうではありません。時短はもっと大事なこと、つまり、子どもたちと向き合ったり、教師の資質・能力を高めるために提案しているのです。でも、表面的な部分のみ注目されてしまう。
だから、私は自分の考えをよく説明し、理解してもらうようにしています。

——「自分の考え」といいますと……?

例えば、本書に掲載した中に、テストの採点をするときに「×」だけをつけて、「○」をつけない、という時短のアイディアがあります。この方が早く採点できますし、間違った場所も明確になりますので、子どもの学びのためにも有効です。

でも、一見して「手抜きだ」「テストには「○」をつけるものだ」と感じる先生もいるでしょう。だから私は周囲の先生には、たんにテクニカルなことだけではなく、本質的な理由に基づいて時短をしていることを伝えています。つまり、「どのような力を子どもに身につけさせたいのか」「教師がどのような仕事を充実させることで、子どもの学びにつながるのか」という、私の働き方の哲学とセットでお話をし、時短によるメリットを説明します。そうすれば先生方もわかってくれますし、一緒に協力してくれます。

「自信を持った教師」になって、働き方を変えていく

——とはいえ、「教師が自分でじっくり手をかけてこそ」「長時間働くのがいい先生の条件だ」という考えが残っている学校もあるように思います。そうした雰囲気ゆえに、時短をしようとしたり、定時後すぐに帰ったりするのが憚られる場合もあるようです。

私自身は経験がありませんが、友人や他の先生との交流で、そういった雰囲気の学校の話を聞くことはあります。

「気にせず行動しましょう」とアドバイスしたいところですが、実際、自分のクラスでトラブルが多かったりすると、「定時を過ぎたから帰ります」とは振る舞いにくいとは思います。経験の浅い若い先生も、なかなか言い出しにくいでしょうね。

私がおすすめしたいのは、「これだけは負けない」という何かを持っておくということです。教科のスペシャリストとまでいかなくとも、「英語の発音が抜群だ」「文字指導が得意」でもいいし、表計算ソフトの使い方にとても長けている、でもいいと思います。あるいは、自分の学級に対する思いは誰にも負けない、教室掲示がとてもきれい、でもいいでしょう。
そういう「何か」があれば、教師としての自分に自信が持てるようになります。すると、自分の判断で行動したり、声をあげやすくなるようになるのではないでしょうか。

——「自分に自信を持つ」ということは、時短や早く帰ることに限らず、教師生活を充実させていくことにもつながりそうです。

自分らしく働き方を変えていくためには、職員室の「空気」に対して声をあげたり行動で示したりしていくことも時に必要です。そのために、教師としての自信を持っておきたいとは思いますね。 現在の教員の年齢構成比はいびつで、これから若い世代の教員がどんどん入ってきます。職員室の文化を変えるには、今が絶好のタイミングだと思いますよ。

精選・効率化の意識をもって働くことで、よりよい学びを子どもたちに提供できる学校にしていくことが、時短だけでなく学校のこれからを変えるカギになると思っています。そのためには、私たち30代の中堅世代がまず声をあげないといけませんし、若い先生達がそれに続いてくれるといいな、と思っています。


江澤先生の考え方や実践方法をわかりやすい文章でまとめた1冊

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