「クラスが落ち着かない!」に惑わされない個の見取り

執筆者: 郡司竜平

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みなさん、こんにちは。日本最北の公立大学で特別支援教育を担当している郡司竜平です。
長いと思われている1年間の学級経営ですが、はやいものでもう折り返し地点を過ぎました。

さっそくですが、今回のテーマにあります「惑わされない」とはどのようなことでしょうか。「あることを見ない」ことでも「起こっていることを無視する」ことでもありません。学級担任として子どもたちと同じ熱量で日々の学級生活を楽しみつつ、片や極めて冷静に学級集団を適切な枠組みで観察し、分析することだと私は考えています。そして、その上で「集団の中の『個』」に起こっている事象を見取ることです。集団を含んだ環境との相互作用として起こっている個の行動と捉えることだと理解しています。

私のもとにもこの時期に、通常の学級の先生たちや幼稚園、保育所の先生たちから、目の前のお子さんの対応についてのご相談が寄せられる数がぐっと増えます。多くは春先に寄せられる内容と様相がかなり違っています。春先は、「個」が持つ特性について、担任の先生ご自身だけではなかなか掴むのが難しい場合に、「個」の見取り方についてのご相談がほとんどでした。しかし、今の時期はその特性を踏まえ、特性に配慮した上でもなお起こっている「個」に起因する(と担任が考えている)課題についての解決法を求められます。「個」の行動は「集団」との相互作用によって起こることがほとんどです。ですから、集団がいまどのような様相を示しているのかを把握することは非常に重要です。

この時期になると、学級はまるで生き物のようにそれぞれが違った色や形、動きをしています。それはこの半年間で担任が学級の子どもたちと一日一日を大切に積み重ね、培ってきた証の一つと言えるのではないでしょうか。反面、担任と子どもたちの意思疎通がなかなかうまくいかなかったり、子どもたち同士のコミュニケーションにズレが生まれたり、所属するグループ内外で変化が起こっていたりして、いわゆる「クラスが落ち着かない」状況になっている学級もあるかもしれません。『イラストで見る全行事・全活動の学級経営のすべて 小学校2年』で渡辺道治先生は、学級が仮に「落ち着かない状況」にあるとしたら、子どもたちの「らしさが発揮されているけれど、噛み合っていないだけの状況」と捉え、子どもたち同士の間や、学校が進めようとする教育活動と噛み合うようアプローチをしていくのがよいと示しています。
では、どのように噛み合うようにしていけばよいのでしょうか。

武藤・河村(2018)がいわゆる学級が落ち着かないと言われる6月と11月に調査をし、学級類型と子どもたちの友人グループの状態との関連性について検討し、考察した内容が参考になるかと思います(小中学校を対象としていますが、今回は小学校だけを取り上げます)。

先行研究として河村・田上(1997)が「学級生活満足度尺度(学校生活における適応感を測定する尺度)」を用いた調査結果を、学校生活満足群、非承認群、侵害行為認知群、学校生活不満足群の4群に分類しています。この4群の出現率で学級集団の状態を以下のように類型し、これを基に武藤・河村(2008)が「親和型学級」が、「かたさ型学級」「ゆるみ型学級」より学習の定着率が高いことを明らかにしています。

親和型学級学級生活満足群に多くの児童生徒が出現する
一定のルールとリレーションが確立している

かたさ型学級学校生活満足群と非承認群に多くの児童生徒が出現する
リレーションの確立が不十分

ゆるみ型学級学校生活満足群と侵害行為認知群に多くの児童生徒が出現する
ルールの確立が不十分

荒れ始め型学級学校生活満足群と学校生活不満足群に多くの児童生徒が出現する

拡散型学級学校生活満足群、非承認群、侵害行為認知群、学校生活不満足群に同程度出現する

崩壊型学級学校生活不満足群に多くの児童生徒が出現する

調査では、「拡散型」「崩壊型」が出現せず、残りの4つが出現したとされています。このような視点を持って学級集団がいまどのような状態にあるのか、また6月から状態がどう推移しているのかを把握します。

また、子どもたちがそれぞれ所属しているグループを調査結果から分析し、タイプ分けしています(武蔵・河村(2015))。

アンビバレント型グループ内で嫌なことがあっても拒否不安が高く一人になることを恐れる

肯定優位型被侵害や孤立感や不安感が最も低い良好な関係性

否定優位型グループ内に相互侵害があり、関係性が良好ではない

消極型所属していてもメンバーとの関わりが薄い

研究では、先述した学級類型とグループタイプが相互に関連していることを明らかにしています。紙幅の都合上、詳述は避けますが、学級担任はこれらの内容を参考にしながら、この時期の学級の状況を冷静に捉え直した上で、個に焦点を合わせていく必要があるのかと考えます。
加えて、その「集団」という影響力の大きい環境には担任が含まれることも意識しておく必要があります。ですから、担任の先生たちは学級で起こっていることをどこか俯瞰した立ち位置から見るだけではなく、ときにご自身を含めた環境自体が、個の行動に影響を及ぼしていることを自覚する必要があります。場合によっては、子どもたちが引き起こす行動上の問題は、環境としての担任が直接の原因であることもあります。

イラストで見る全行事・全活動の学級経営のすべて 小学校2年』では、11月のコラムに「感覚」(5覚+2覚(前庭感覚、固有受容覚)をテーマに「立つ・歩く・座るを見直してみる」ことを提案しました。本文での文脈はあくまでも「個」のみにフォーカスを当てています。集団との相互作用によって生起される行動があるという認識を加え、個を見取り直すという表現がよいかもしれませんが、改めて個の行動を捉え直すのです。
 授業中に「立ち歩く」行動を示す子どもがいた場合、どのような見取りができるでしょうか。「個」だけにフォーカスすると、興味の移り変わりが早く、衝動性が強いことなどが考えられます。しかし、11月では、それだけではなく、学級の状態や所属するグループの様相を把握した上で、所属するグループとの作用で行動が起こっていないかと見取り直すことです。たとえば、「親和型学級」の「肯定優位型」グループに所属している子どもであれば、他者とのリレーションが確立していますので、「立ち歩く」前に他者が好意的に別なことに興味を導く介入をし、結果として「立ち歩く」行動自体が減少するかもしれません。「かたさ型学級」の「否定優位型」グループに所属している場合、他者とのリレーションが不十分でグループ内の関係性が良好ではないので、個に起因する原因だけではなく、他者の言動が引き金となって「立ち歩く」行動が生起されることも起こるかもしれません。同じ「立ち歩く」行動を学級の類型と集団のグループタイプを視点に見取り直すことで「個」の見え方も変わってくるのではないでしょうか。
 先生方がこれまでも丁寧に「個」の見取りをされていることは重々理解していますが、クラスが落ち着かない状況では、どうしても個にだけ原因を求めがちになります。ここを今一度冷静に行うことで、渡辺先生が言う「噛み合わせる」ポイントが見えてくるのではないでしょうか。

今回は武蔵・河村(2018)をベースに話を展開させていただきました。集団を捉えるときに別な視点も多くあることは承知していますし、他の視点で学級を捉えていただくことに異論はありません。一つ視点を定め、目の前の現象を整理した上で、個にアプローチする必要性を感じていただければ幸いです。
さて、次回は高橋優先生による「学級じまいのスタートアップ」です。学級じまいをスタートアップするとは一体どのようなことを指すのでしょうか。1年間のゴールへ向けて具体的な展開をわかりやすく伝えていただけると期待しています。優さん、よろしくお願いします。

〔引用参考文献・URL〕

武蔵 由佳・河村 茂雄(2018)「小中学校における学級集団の状態像と友人グループとの関連の検討―学級類型の変容と友人グループタイプの変容から」学級経営心理学研究,第7巻,9-19

武蔵 由佳・河村 茂雄(2015)「小・中学生のグループ状態認知尺度の作成:グループに所属する理由および被侵害との関連の検討」カウンセリング研究,48,133-146

黒川雅幸・吉田俊和(2009)「仲間の存在と個人の集団透過性が学習班活動に及ぼす影響」実験社会心理学研究 Vol.49,No.1,45-57

河村茂雄・田上不二夫(1997)「いじめ被害・学級不適応児童発見尺度の作成」カウンセリング研究,30,112-120

渡辺 道治編著(2022)「イラストで見る 全活動・全行事の学級経営のすべて 小学校2年」東洋館出版社,132-133