秋の夜長に 本質を考えモヤモヤしよう 誰かと対話したくなる5冊

執筆者: 森万喜子

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みなさんこんにちは。秋の深まりを感じる頃となりました。朝夕の気温よりも日暮れの速さにびっくりします。そんな季節、早く家路につき、ゆっくり夕食をとって、長い夜の時間を自分のために使って欲しいと願います。

 

今回ご紹介する本は、急がずに時間をかけ、日にちをかけて少しずつじっくり読んで欲しい。

読んですぐに明日から何かが変わる…というよりは、自分なりの方法で、どんなふうにとらえるか、少し「時間をかけて考えたくなる」、または「誰かと対話したくなる」、題して、『本質を考えてモヤモヤしよう』そんな5冊を選んでみました。

よかったら、秋の夜長、おいしいお茶などをていねいに淹れて、楽しんでみてください。本を読んで話したくなったら、どうぞお声がけくださいね。

教員は、言葉の使い手でなくてはならないです。その「言葉」とは、どこかの省庁のポンチ絵のように、「ん?」と、スマートフォンで意味を調べないとわからない横文字を使って流暢に説明する言葉でありません。目の前にいる児童生徒や保護者や地域の人、同僚などに、誤解なく、適切に伝わる言葉を使いこなす人であることです。

それにしても、絵が入っていない、文字がぎっしり詰まったパワーポイントなどの説明資料を行政の方々がポンチ絵というのはなぜなのでしょうね。それはさておき、「先生の言葉って、わかりやすくて、すっと入ってくる」と言われるように、「短くて簡潔、だけど納得」と言われる言葉を使う、つまり、他者意識を持って相手に伝わる言葉で話すには、なかなかの修練が必要。

 

この書籍、タイトルは「大学生のための…」となっていますが、

第Ⅰ章の論理的思考を学ぼう! 

第Ⅱ章 基礎を大事に! 

第Ⅲ章 小論文を書こう!  

第Ⅳ章 資料編 となっていて、

特に第Ⅱ章は、鉛筆の持ち方、ひらがな、かたかな、句読点の打ち方、箇条書きの書き方や原稿用紙の使い方までが網羅されていて驚き、でも納得するのです。

 

教員をやっていて、文章を書かなくてはならない、児童生徒に文章の添削をしなくてはならない、各種文書作成、レポートや研究紀要など、文章を書く頻度は高い。

「私は国語科ではないので文章が苦手です…」なんて言っていられない。「Chat GTPに頼んじゃえ…」と済ますこともできそうなのですが、正しい言葉の使い方がわからないと、AIの間違い(AIって、意外と自信満々に正しくないことを書いてくることがあるのです)にも気づけないから。 

 

大学生じゃなくても、この一冊、通読することをおすすめします。ミドルリーダーや管理職の先生は、若い先生が書いた通知表所見や、学級通信を読んで指導されることも多いと思いますから、おすすめです。この本は、文章読本ではないけれど、言葉を使って仕事をする私達の頭を整理してくれる働きをします。

読み終わったら教室においておくことをおすすめします。文章を書くことに興味がある小学校高学年、中学生、高校生が手に取り、パラパラページを繰って読むことができます。どのページから読んでもいいつくりの本なので、読み進むうちに、いつの間にか全ページ読みたくなる。そんな一冊です。

秋から冬にかけては、多くの学校で校内研修や公開研究会が開かれることでしょう。私事ですが、私はこの春校長を退職して、今は初任の先生たちの巡回指導をしています。校内研修や公開研究会では初任の先生も公開授業を行うので、学校の研究計画や研修計画、指導の重点なども読んで、若い先生の授業プランの相談に乗ります。研究主題や仮説で多いのは「対話的な学び」「協働的な学び」そして「主体的な学び」「深い学び」などのワードです。

 

私が関わっている若い先生たちについて感心するのは、決して「対話的だからグループで話し合いさせればいいのですよね」とか「班活動で問題解決型学習にすればいいですね」などとイージーな方法論を選ばないこと。

私が研究計画を見て「子供が授業で活発に発言しなく消極的な傾向…」という表現を見つけた時、「子供たちは授業がさっぱりわからないから発言しないのかな? ほかにどんな要因があると思う?」とか、「なるほど。今これが障壁になっているな、と考えたことがらはどうしたらその壁を取っ払って、子供は学びやすくなると思う?」と問うことで、「発言できないのは、子供のせいじゃないのでは?」という考えに至ることもあります。

 

この書籍は 第1章 子供の実態から「学ぶ」 第2章 授業の本質から「学ぶ」 第3章 研究を通して学びを「深める」の3つの章から成り立っていますが、どの章を読んでも、子供の本質、授業の本質、そして教師が学ぶということの本質を突かれていて、経験の多寡にかかわらず、子供観、授業観、教師の在り方をアンラーンする一冊となるでしょう。研究会の授業者、研究主任や管理職の先生が、自校の研究会直前にこの本を読んだら「授業案を一から組み立て直したい!」と思ってしまうかもしれないから、お早目に読むことをおすすめします。
この本の「おわりに」にも記されていますが、この本は授業や学校での授業研究に携わる先生たちを温かく応援してくれる本です。研究授業の、研究の本質って何? と柔らかく問いかけてくれます。

 さて、「対話的な学び」とともに、こちらもよく使われる「探究」という言葉。「探究的な学び」「総合的な探究」。

学校でも、「探究的な学びをどうするか」が議論されているのではないでしょうか。

私は、へそ曲がりなので、「全〇時間と、時間を決めて、テーマのしばりもあり、〇月〇日に発表会をするからそれまでにまとめろって、それって探究?」と思ってしまうのです。

学校で時間を区切って取り組むのは「探究ごっこ」なんじゃないか。もちろん、自分で「なぜだろう?」「知りたい!」と思うことに対して、調査するツールや方法を学び、クリティカルに資料を読み、論理的に考えて自分なりの結論を他人に示す。この一連のプロセスはものすごく大事。そして、基本を身につけておけば大人になってからも再現性が高い学びになる。

 

けれども、学校現場では、「知りたい」、「調べたいこと」があり、ツールもあるのに自由に使えない。つまり、一人一台端末が整備されても、自由に使えない、自宅に持ち帰り不可の学校もある、とか、学校図書館に鍵がかかっていて、自由に本を手に取れないなどの学校もまだあるのも事実。

 

この書籍で取り上げられている「夢中」という言葉。私は「夢中になって」「没頭して」「時間を忘れて」等これが「探究」の状態に近いと考えています。探究と個別最適は近い位置にあって、教師が与えたテーマに全員が一斉に「夢中」になることは、難しいと考えます。でも、著者が「子どものほうが大人より深く考えている」「子どもたちに教わりながら一緒に授業をつくった方が面白い」「試行錯誤を繰り返しながら夢中になれることにこそ学びの本質がある」という授業の考え方で、つまり子どもたちをリスペクトしている姿勢がこの本を貫いています。そして、「夢中」が「自分勝手で無秩序な学級」に陥らない秘訣なども記されています。この学級にいると、楽しいだろうな、と感じられる。そう、本来学びって楽しいものなんです。辛いけど我慢してやらなくてはならないタスクではない。そんな本質に気づかせてくれる一冊です。

私は30年以上ずっと中学校に勤務していたので、毎年目の前に存在する13~15歳の人たちとずっと関わっていました。しかし、自分の子育てをする中で、新生児から乳児幼児と成長していく人間の姿に間近に触れ、新たな発見がたくさんありました。

今でこそ「小中連携、幼保小連携」「連携から一貫へ」という言葉で、異校種間の教育ももっと相互理解して、「子どもたちにとってのギャップをなくして教育していこう」という取組が一般的になりましたが、当時、中学校の教員が就学前の子どもたちの発達や行動について学ぶ機会が少なかったのが現実です。生まれてから12、3年経って目の前にいる中学生の彼らがどのような発達プロセスや人間関係を経験してきたのか、これをおさらいすることはとても意義があることだと思います。

 

この本では、幼児教育・保育の現場で、幼児が他の子どもと関わり、人間関係を構築していくなかで、同じ動きをする、場やものの共有、同じことばを使うなど、「おんなじ」を切り口に、現場における多様な事例を紹介しながら、幼児期の仲間関係づくりの機能(ポジティブ、ネガティブ両方の関係性についても)について紹介されています。もちろん、このような関係性は、幼児教育・保育の場だけに限らず、小学校でも継続して見られることであり、中学生においても、人間関係を構築するために同じ行動、持ち物、言葉などを使って帰属意識を確認する行動などはよく見られます。

 

乱暴な言い方かもしれないけど、教員は学校種ごとに、発達段階で切り取られた数年間と向き合い、教育しています。けれども、必要なのはひとりひとりの人間としての発達のプロセスを理解し、(その発達もひとりひとり異なります)その時間の流れの中にとどまることなく成長発達を続ける人と向き合っていく必要があるのだな、と再確認する一冊でした。

ボリュームのある本です。横書きで約300ページの学術書。気軽に手に取って寝ころびながら読むタイプの書籍では、ない…と感じます。

ところが、読み始めると面白いのです。

編著者が記している「はじめに」
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教職に就こうとする学生には、「望ましい社会のあり方とはどのようなものか」「どのような社会を私たちはつくっていくべきなのか」を考えるといった、いわば「社会をデザインする」機会は多く与えられていないようだ。(中略)しかし、社会を作る仕事でもある教職に就こうとする人に、社会と教育の間に横たわる矛盾や課題を直視し、問題解決に向かおうとする姿勢が涵養されていなければ、既存の社会と教育は、問題をかかえたまま、ただ再生産され続けていくことにはならないだろうか。
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社会との関わりを考えずして、教育を学び、考え、語ることはできません。全13章からなるこの書籍は、制度としての学校、カリキュラム、教育改革と学力問題、いじめ、高等教育、ジェンダーやグローバリゼーション等と、教育に関わる人が必ず考え、整理しておくべきイシューで構成されています。各々の人の経験にもとづいて語られることの多い教育を、学問というフィルターを通して、専門職ならば整理しておくことが必要です。特に著者が記しているように、「社会変革的な学び」に向けて考えることが今、重要だと感じます。

おわりに

 

私は美術教員だったので、絵を描いたり、ものをつくったり、ギャラリーに行ったり、とにかく好きなものに囲まれているのが大好きでした。でも、好きな美術に関われると思って教員になったものの、朝から晩まで学校にいて、休日は疲れて家事をやって終了…のような生活が続きました。

しかし、ある時気づいたのです。子どもたちにとって、「人生楽しそうにしている大人を身近で見ていたいし、話したい。」くたびれてイライラしている大人の姿に自分の将来を重ね合わせるなんて、嫌だよね。

本来、学びは楽しくて心躍るもの。学校の先生って、子どもが好きな人ではなくて、「学ぶことが好きな人」なんじゃないかと思います。あなたの好きな学び、好きな世界を大事に携えて、笑顔でこどもたちの前に立たれる明日であるように。心から祈っています。

森万喜子

森 万喜子(もり・まきこ)

 

【所属】

北海道公立学校初任段階教諭指導者


【経歴】

1962年 北海道生まれ 

1985年 北海道教育大学で美術・油彩画専攻 卒業後、千葉県千葉市、北海道小樽市の中学校で教諭

2016年より小樽市公立中学校校長

校長就任後、兵庫教育大学院 教育実践高度化専攻教育政策リーダーコースに入学、修了。

2023年3月定年退職 現在は若手指導を行うとともに教育雑誌・新聞等で執筆、全国各地で講演活動を続ける。

主なテーマ:学校経営、学校改善、コミュニティ・スクール、学校を核とした地域づくり、人材育成、 組織開発

2023年 Forbes JAPAN イノベーティブエデュケーション30(こどものウェルビーイングを実現する変革者30)に選定される

「こどもが主語の学校」をめざし、学校と社会をつなげる学校づくりを実践。

書籍:共著 学校と社会をつなぐ(2021年学事出版)、校長の挑戦(2022年 教育開発研究所)

単著「こどもが主語の学校」へようこそ (2023年 教育開発研究所より出版予定)