保護者が熱中する授業参観づくり

執筆者: 渡辺 道治

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こんにちは。渡辺道治です。奈良県、北海道の小学校での勤務を経て、現在は株式会社立の瀬戸SOLAN小学校で1年生を担任しています。

今回は授業参加で保護者が熱中する授業づくりの詳細をご紹介します。尚、本編は自著『BBQ型学級経営』の文章を加筆・修正する形で作成しました。よろしければそちらもご参照ください。

保護者が熱中する授業参観を実現する上で、私は次の2点を大切にしています。


①成長を明確に見せられるポイントをつくる
②授業を提供型ではなく参加型にする


それでは一つずつ見ていきます。

①成長を明確に見せられるポイントをつくる

「成長を見せる」という視点は、おそらく多くの先生方が意識しているところだと思いますが、これはシンプルなようで中々難しいものです。たとえば、「挙手発表」が活発になされるように参観授業を組み立てるケースがあります。全国各地の参観授業で、今も多く見られる風景でしょう。


ここには、「手を挙げて発表する」という行為を通して、その子の意欲面での変化や、行動力における成長を見せたいという思いが内在しています。

しかし、授業者の目論見がある程度成功して、いつも以上に活発に手が挙がっていたとしても、「クラス全員」とはならないケースがほとんどのはずです。

普段ほとんど発表をしない子の場合、たくさんのギャラリーのいる参観授業で挙手発表をすることは想像を絶するほどの勇気が必要になるでしょう。

ですから、本当に「クラス全員の成長を保護者の方に見てもらいたい」と思った場合は、別のやり方でその成長を見てもらうことが必要です。


「オムニバス授業」

そこでおススメしているのが、「オムニバス授業」です。

オムニバスとは、「いくつかの独立したストーリーを並べて、全体で一つの作品にしたもの」という意味です。いくつかの教科やユニットを組み合わせて行う授業のことです。

ある年の私の参観授業の内容を示します。


国語「名詩名文の暗唱」
算数「ドット図の難問」
社会「日本の産業構造」
図工「絵画の鑑賞」
道徳「星野富弘さんの生き方」


これは、5時間分の授業ではなく1時間分の授業内容です。一つのユニットは短いもので2~3分、長いものでも15分以内です。ここで大切なのはユニットの個数ではなく、「組み合わせる」という視点です。


一つの教科や内容に絞らない分、多彩な学習活動が可能になります。その分、子どもたちの活動の幅が広がり、成長や活躍を見せられるチャンスが増えるということです。さらに、授業を受けている子どもたちも後ろで見ている保護者の方々にとっても、「楽しい」という最大のメリットが生まれます。

先の参観授業を行ったのは、新年度が始まってからわずか1週間後でしたが、子どもたちは非常に前向きに学習に取り組み、保護者の皆さんもその変化や成長に大いに驚かれ、授業の最後には涙される方々もおられました。


オムニバス授業のポイントは、2つあります。


第一に、「大テーマを設ける」ことです。

一時間の授業の中でいくつかのユニットや教科を組み合わせるわけですから、それらを貫く大テーマがあると授業の受け手が「安心」します。

大テーマは、たとえば次のようなものです。


・「勉強のコツ」シリーズ
・「目には見えないものの勉強」シリーズ
・「大人が間違えて子どもが正解する」シリーズ


要は、団子でいうところの「串」の部分を示すということです。
赤とか白とか緑とかいろんな色の団子があるけど、「それは全部つながっているのでご安心ください」ということを伝えるわけです。
先のオムニバス授業の場合は、「勉強のコツシリーズ」ということで、授業の初めに次のように伝えました。


今日は、「勉強のコツ」を勉強します。
野球のスイングにコツがあるように、ピアノの練習の仕方にコツがあるように、勉強にはすべて「コツ」があります。
コツをつかむと、成長するスピードがぐんぐん速くなるだけでなく、勉強に「楽しさ」が生まれます。
だから、今日の授業を受けると、そのコツがたくさんわかりますよ。


このように伝えることで、どれだけたくさんの教科を組み合わせても、見ている側や受けている側に安心感がもたらされます。


第二に、「易から難の組み立て」にすることです。
先ほどの5つのユニットは、どれも全員ができるものすごく簡単なレベルからスタートするようにしてあります。

その年の参観授業後に発行した学級通信から、抜粋します。


昨日は授業参観並びに懇談会、PTA総会へのご参加、誠にありがとうございました。
「勉強のコツ」シリーズとして、今回は国語と社会と算数と図工と道徳を扱いました。
授業の概要をお伝えします。最初は、現在目下練習中の暗唱から。
月の異名、十二支、 平家物語などなど。
素晴らしい音読が教室に響きました。
声の出方、読みのスピード、どちらも劇的な成長がこの一週間の間に既に起こっています。

この授業では、最初に暗唱をしています。

クラスがスタートしてから3,4回の国語授業を経てこの参観授業を迎えたわけですが、それまでの間に毎日数分ずつ暗唱の練習に取り組んできたということです。

この「声を出す」という学習活動はシンプルですが、成長や変化をもたらしやすいパーツでもあります。

わずか1回の指導でも、音読指導を確かに行えば声の出し方はガラリと変わります。

そして、それを「覚える」という課題に取り組めば、時間の経過と共に詩文を諳んじる子が続々と出てきます。


そして、ここが大切なのですが、これを一人ひとりではなく「全員で声を出す」形式で学習活動に取り組んでいるところがポイントです。先に紹介した通り、「挙手発表」は子どもによっては非常にハードルの高いものです。それを全員にクリアさせるのは年度当初の参観では中々できません。先の「易から難」の組み立てでいえば、「全員発表」というのはかなり難度の高い学習活動だということです。


しかし、「全員で声を出す」ということになると、途端にハードルは下がります。衆目は集まりませんし、少々の失敗をしても周りの声にかき消されてわかりません。この「安心感」が担保されていることが大切なのです。


尚、全員で声を出すパーツは、暗唱以外にもたくさんあります。通常の一斉音読という形でもできますし、フラッシュカードや百玉そろばんなどの教具を使うパターンもあります。

漢字の空書き(指書き)などもいいでしょう。


要は、「声を出す」というシンプルな学習活動を、「全員で行う」という安心安全の形式をとることで、「誰にでもクリアできる易しさ」を実現するのが大切だということです。

安全が確保されている上に、やればやるほど上手くなったり覚えられたりするのですから、子どもたちは燃えます。


そうやって、クラス開きから1週間後の参観授業で暗唱を扱ったということです。

保護者の方々は、今まで聞いたこともないような張りのある声と、楽しそうに名詩名文を諳んじる姿に大層驚かれていました。

このように、「成長をハッキリと感じるポイント」を授業につくるのです。しかも、「全員」で行っているのですから、漏れる子はいません。だからこそ、どの保護者の方々もその成長を共に喜べます。


「声を出す」というシンプルな活動だけでなく、私はその後の算数も社会も図工も道徳も、スタートは全員が正解できるくらいの易しい問いから学習を始めました。2つから3つ下の学年に向けた問題を出すイメージです。

オムニバス形式で「多彩な学習活動」を設定し、さらに「易から難の組み立て」で全員参加を保証する。こうすることで、子どもたちの成長や変化を保護者の方々もはっきりと見取ることが可能になっていきます。

②授業を提供型ではなく参加型にする

見せるだけの授業を私は「提供型」と呼んでいます。

一方で、授業に参加の余白をつくり、保護者の方に協力してもらいながら進める授業を「参加型」と呼んでいます。私は、ほとんどの参観授業を参加型で行います。


授業に参加してもらうことで、普段の子どもたちだけで行っている授業では生み出せなかったダイナミックさをもたらすことができますし、何より参加型で行う授業参観は楽しいのです。そこで、次のようにします。


たとえば、先のオムニバス型の授業でいうならば、私は算数のユニットで次の問題を出題しました。これも実際の学級通信から抜粋で紹介します。

授業参観第二部は、算数です。
以下の図をスマートボードに映しました。

点を直線で結んで正方形を作ります。全部でいくつの正方形ができますか。


いわゆるドット図の問題です。
空間認識を鍛えるお勉強です。
どの子も、まず「4つ」の正方形が浮かんだようでした。
すべての点をつなぐと、小さな正方形ができます。
そして、さらに思考すると5つ目が浮かび上がります。
外側のドットをつないだ、大きな正方形です。
ここまで解答がでたところで、 「おしい! 99点!」 と声をかけました。
「まだある、という人?」 と尋ねると、3人の手が挙がります。
Nさん、Kくん、Iくんです。 代表で、Iくんに答えてもらいました。
スマートボード専用ペンを使い、Iくんが答えを書き込んでいきます。
書いている途中、「あぁ~」という声が聞こえてきました。 正解は、斜めに傾いている正方形です。
ルールが飲み込めたところで、本番に挑みました。
これが、本丸の問題です。

点を直線で結んで正方形をつくります。全部でいくつの正方形ができますか。

「えー!」と言いながらも、子どもたちは俄然意欲を燃やして問題に向かいました。
次から次へと答えを書き、ノートを持ってきます。
私は、そのノートに笑顔で次々と×を書いていきました。
子どもたちはそれにもめげず、2回3回と答えをもってきます。
第二部もおよそ 15 分間でしたが、少なくとも私は50回以上の×をつけました。
ついに、時間内で正解者は現れませんでした。
「先生もうちょっと!」「あと少し!」
と食い下がる子たちもいましたが、 あえてここは第二部を幕としました。(6年生が終わるまでの宿題としました。 解けたら先生の所にもってきましょう。ノートを。)
算数の勉強のコツ。それは、何度も何度も×をもらうことです。 ×をもらうたび、答えに一歩近づきます。×をもらうたび、自分が成長する チャンスが分かります。何度も×をもらって、一年間勉強していきましょう。

このように誰でも解けるところから始まり、誰も解けないようなところまで難度を高めることを一連の流れとして授業しました。

そして、最後の16個のドット問題で子どもたちが頭を悩ませている時に、次のように言うのです。


「今日は、特別ゲストの方々がたくさん来られていますから、特別にヒントをもらいにいってもいいですよ」


この一言で子どもたちは水を得た魚のように、大喜びで力を借りに行きます。


「ヒントを下さい!」

「(お母さん)教えて教えて!」


となるのです。

もちろん、お家の方が来ていない子もいるので、「誰のお父さんやお母さんに質問に行ってもいいこと」としてあります。


そして、ノートを持って行った先で、子どもたちはギャラリーのお父さんやお母さんと一緒に問題の答えを考えるのです。それは、見ていてとても楽しい光景です。そして、それでも尚不正解が続くところがまた面白いのです。何より、子どもたちから「教えてください!」「ヒントをください!」「お願いします!」と頼られている保護者の方々はとても嬉しそうです。保護者の方の中には、その日家に帰ってからずっと子どもたちと一緒に考えて下さる方も出てきます。さらには、自分の子どもだけでなく、他のお子さんとも交流が生まれることで、より一層クラスへの愛着が高まり、積極的にクラス運営に参画してくれる方々も出てきます。

保護者の方々は、参観授業の後、毎年のように次の言葉を私に贈ってくださいます。

「もう一度小学生に戻って、このクラスで授業を受けたいと思いました。」

これは、授業を参加型にしたからこそ生まれた感想だと言えます。


この2つが、保護者が熱中する参観授業を作る上でのポイントです。


①成長を明確に見せられるポイントを作る
②授業を提供型ではなく参加型にする


今年度は開かれた参加型の学級を実現してみてはいかがでしょうか?


「このようにすればうまくいきやすい」という取り組みのコツや、「このようにするとまず間違いなく失敗する」という典型的な失敗例は、確実に存在します。

私は、これらのコツや典型的な失敗例を総称して「学級経営の勘所」と呼んでいます。「イラストで見る 全活動・全行事の学級経営のすべて 小学校2年」では、一年間使える実践事例だけではなく、理論編にて学級経営を充実させるための考え方も掲載しています。そちらも是非お読みください。

学級経営に欠かせない一年間の行事と活動を、見開きでわかりやすく解説した新シリーズ! 豪華編者陣によるクラスが一つになるアイデアやコツが、惜しむことなくつぎ込まれています。初めての学年担任の方も、そうでない方でも使える学級経営本の決定版です。

次回は、4月15日の配信になります。担当は山崎克洋先生です。テーマは、「子どもの笑顔が花開く運動会をプロデュース!」です。

参考文献・URL

渡辺道治,2022年,『BBQ型学級経営』東洋館出版社