「海の命」の授業アイディア 〜FUNからINTERESTの授業づくり〜
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執筆者: 溝越 勇太
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単元名:登場人物の関係を捉え、人物の生き方について話し合おう 教材:「海の命」(光村図書/6年)
「海の命」の授業づくりを紹介します。本教材は、小学校6年間の最後の物語文であり、語り手が太一の視点に沿って語っていること、比喩や色彩語、擬音語などが豊富に使われる情景描写が多いことも特徴であります。
今回は、溝越勇太先生(日野市立日野第七小学校)に、「初発の感想を書けない」子どもへの指導の工夫をはじめ、子どもたち自身が国語の世界の楽しさを味わえる、そんな授業づくりについてご提案いただきました。
「うちのクラスに初発の感想がなかなか書けない子がいて……」
「初発の感想が2、3行しか書けていない子が多くて……」
こんな悩みを聞くことがある。確かに、書くことに苦手意識がある子はどのクラスにもいるし、「初発の感想を書きましょう」と言われても、すぐに手が止まってしまう子も少なくない。
では、なぜ、初発の感想を書くことができないのか。それは、きっと「なんのために書くのか」「何を書けばいいのか」「どのように書けばいいのか」が分かっていないからではないだろうか。なんのために(目的)、何を(内容)、どのように(方法)書けばよいかを子どもが分かるように指導する必要がある。
まず、初発の感想はそもそも何のために書くのか。新しい物語文を読んだら、とりあえず感想を書いて、意味調べ……と、ただの作業になっていないだろうか。初発の感想は自分の「読みの深まり」を実感するのにとても役立つ。
「初めて読んだときには気付かなかった解釈ができるようになった」と子ども自身が自覚でき、読みの疑問をクラスで解決していけば「自分たちで学んだ」という達成感も味わうこともできる。初発の感想を単元の途中や終わりで活用し、子どもがそれを書く意味を実感できるようになることを意識している。
次に、初発の感想には、何を書けばよいのか。ただ「読んで感じたことを書きましょう」では、何を書いていいのか分からず困ってしまう子が出てきてしまう。そこで、私はよく、「好きな言葉」「好きな場面」「好きな人物」など誰もが答えやすい「好き」を尋ねるようにしている。
また、「『なんで?』と思ったこと」「みんなで話し合ってみたいこと」などの疑問や、「○○なお話」と読後感を聞くこともある。書く時の観点を子どもたちが少しずつ増やしていけるよう、意識している。
さらに、初発の感想はどのように書けばよいのか。書く内容が決まっても、どのように書き始めればよいのかで困ってしまう子は少なくない。そこで、書く時の型の大枠(はじめ・中・終わり)を示したり、書き出しの例を書く前に提示したりするようにしている。
また、書く前にたくさん「話す」活動をして、書き方のイメージがもてるようにすることを意識している。
本教材「海の命」は、小学校6年間の最後の物語文である。クラスの友達と自分の読みを交流し、読みが深まる楽しさを味わえる単元にしたい。
「海の命」は、少年太一が、父や与吉じいさ、海との関わりの中で、漁師として、そして人間として大きく成長していく物語である。太一の成長を通して、読み手は生きることや自然との関わり方、命について深く考えることができる。
本作品は、語り手が太一の視点に沿って語っている。だが、太一の心情については直接表現されていないところも多い。読み手は叙述を基に、どのような心情の変化があったのかを想像しなければならない。また、海やクエに関する情景描写は大変美しい。情景描写に使われている比喩や色彩語、擬音語、擬人化された表現、海に関する象徴的な表現などに着目することで、太一が体験している海の世界をより深く味わうことができるだろう。
〔知識及び技能〕
〔思考力、判断力、表現力等〕
〔学び向かう力、人間性等〕
第 一次 |
「海の命」を読み、初発の感想を書く(第1~2時) |
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第 二次 |
「海の命」の内容を読み取る(第3~6時) |
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第 三次 |
「海の命」の読みの疑問を解決する(第7~10時) |
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一番印象に残った場面について話し合うことを通して、友達と読後感を楽しく交流し、初発の感想をノートに書くことができる。
初発の感想を書くためには、なんのために(目的)、何を(内容)、どのように(方法)を子どもたちが分かることが大切である。また、その活動が子どもたちにとって「楽しい」と思えるものでなければならない。
「楽しさ」にはFUN(楽しさそのもの)とINTEREST(興味)がある。映画を見終わったあとのおしゃべりのような楽しさ(FUN)から、国語の世界の楽しさ(INTEREST)に、いつの間にか変わっている、そんな授業を目指したい。
「さて、これはなんでしょう?」
クエの一部分だけが見えるようにした写真を提示し、クイズをする。いきなり「教科書○ページを開きましょう」と言われても、子どもたちはその作品を「読みたい」とは思っていない場合があるからである。写真の一部分だけを見せると、子どもたちは楽しくクイズに取り組むことができる。できれば、ここで国語が苦手な子や配慮が必要な子を活躍させたい。
クエのクイズをした後、「これから読む『海の命』っていう作品にはこの魚が出てくるよ。どんなお話だと思う?」と題名からストーリーを自由に予想させる。読みの構えができてから、教師が丁寧に範読する。
範読が終わったら「チェンジトーク」(黒板に書かれた3つのお題で、ペアでおしゃべりをする活動)を行う。「①好きな人物→②印象に残った場面→③疑問」の順でおしゃべりをする。
「あれ、挿絵はどんな順番だったっけ?」
チェンジトークが終わった後、1場面から5場面(6場面はなし)の教科書の挿絵をばらばらに黒板に貼り、「どんな順番か」について話し合う。教科書を見ながらペアで相談してもよいとしておくと、クイズのような感覚で楽しく活動できる。挿絵にア・イ・ウ・エ・オ・カと記号をつけておくと、話し合いがしやすくなる。
挿絵の並べ替えをすると、お話のあらすじが楽しく捉えられる。1~6場面の挿絵を黒板に貼ることで、「一番印象に残った場面は?」の話し合いの際に子どもたちの発言(印象に残った理由)を書き足して整理することができる。授業のはじめに並べ替えというクイズ(遊び)の要素を入れることで、全員参加のハードルを下げるようにする。
「一番印象に残った場面は? どうして?」
一番印象に残った場面の挿絵の下(黒板)に、ネームカードを貼るように伝える。ネームカードを貼ることで、選んだ子どもの数が多い場面が分かったり、同じ作品を読んでも自分とは違う場面を選んだ友達がいることに気付いたりすることができる。
選んだ子が一番多い場面から順に聞いていき、子どもたちの発言を板書に残していく。
「ノートに初発の感想を書きましょう。黒板の言葉を使ってもいいですよ」
黒板には、各場面の挿絵とその場面が印象に残った理由(子どもの発言)が書いてある。その黒板の言葉を使ってもよいとすることで、何を書いたらいいか分からない子が困らないようにする。また、「海の命は○○なお話だと思う。その理由は~」「一番印象に残った場面は○場面だ。なぜなら~」と、文章の型を示し参考にしてよいとすれば、どのように書いてよいか分からない子のヒントになる。
書く前にペアで感想を話してから書くと、友達の発言も参考にすることができる。「チェンジトーク」で話した「①好きな人物→②印象に残った場面→③疑問」を入れてもよいとすると、書く量も増えるだろう。
第2時間目では、子どもたちの疑問(みんなで話し合ってみたい話題)を出し合い、それを解決していくという流れで単元を進めていく。
初発の感想は、なんのために(目的)、何を(内容)、どのように(方法)書くのか、子どもが分かるように指導することが大切である。FUN→INTERESTとだんだん国語の世界の楽しさを味わえる授業づくりを目指していきたい。
〔引用・参考文献〕
田村学(2018)『深い学び』東洋館出版社
奈須正裕(2017)『「資質・能力」と学びのメカニズム』東洋館出版社
桂聖(2011)『国語授業のユニバーサルデザイン』東洋館出版社
桂聖(2003)『フリートークで読みを深める文学の授業』学事出版
筑波大学附属小学校国語研究部、全国国語授業研究会 編(2018)『定番教材で考える「深い学び」をうむ国語授業』東洋館出版社
筑波大学附属小学校国語研究部、全国国語授業研究会 編(2021)『小学校国語「深い学び」をうむ授業改善プラン 文学』東洋館出版社
溝越勇太(2018)『全員が話したくなる聞きたくなる トークトレーニング60』東洋館出版社
溝越勇太(みぞごし・ゆうた)
東京都・日野市立日野第七小学校
全国国語授業研究会理事/日本授業UD学会理事
文学の授業における、初発の感想を書かせるという活動に替わるものとして、「読後感」を書くという実践を以前掲載した。これを基にした授業づくりについてこれから述べていきたい。 文学作品に出合ったときの新鮮な気持ちを大切にしたいと思う。教師主導で学習課題を設定することもあるだろうが、やはり子どもが自ら読んでいくための問いをもてるようにするためにはどうしたらよいかと考えたとき、読後感から問いをつくっていくということは、その1つの方法であると考える。
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