第18回『算数授業研究』GGゼミナール「子どもが夢中になって考える教材のしかけ」

第18回『算数授業研究』GGゼミナール「子どもが夢中になって考える教材のしかけ」 - 東洋館出版社

授業者

盛山隆雄
筑波大学附属小学校教諭。
横浜国立大学大学院教育学研究科数学教育専攻修了。学習院初等科教諭を経て、現職。全国算数授業研究会常任理事、隔月刊誌『算数授業研究』編集委員、教科書「小学算数」(教育出版)編集委員、志の算数教育研究会(志算研)代表。

青山尚司
筑波大学附属小学校教諭。
日本数学教育学会編集部常任理事、全国算数授業研究会常任理事、隔月刊誌『算数授業研究』編集委員、教科書「みんなと学ぶ小学校算数」(学校図書)編集委員。

子どもたちの主体的な姿を引き出して行くためには、教材の工夫が欠かせない。第18回の『算数授業研究』GGゼミナールは「子どもが夢中になって考える教材のしかけ」をテーマに盛山隆雄先生と青山尚司先生が授業を展開していく上でのヒントを提供いいただいた。
授業での実際の子ども達とのやりとりを参考にしながら、より良い教材教育のあり方を追求し、教材のしかけや作り方についてを解き明かしたゼミ内容の一部をまとめていく。

青山先生が考える「教材のしかけ」

前半は青山尚司先生が教材のしかけの提案。
4年生の「変わり方」の授業と、5年生の「面積」の授業を例に、どのように教材を工夫できるか解説する。

4年生「変わり方」の授業例

「変わり方」の教材例として、教科書では「まわりの長さが16 cmの長方形や正方形をいろいろ書いて、縦の長さと横の長さの関係を調べてみましょう」といった問題がある。
ただ、この教材では、子ども達が「やらされている」だけだと青山先生は主張する。
子ども達自身が「やってみたい」と思える教材の工夫が重要なのである。

青山先生は、ひもを使って三角形の周りの長さを調べる教材の工夫を提案した。
三角形の周りの長さと1辺の長さを固定して、残りの2辺の長さの関係を考える教材。
ひもという具体物を用いたこの提示の仕方なら、教科書の例にはなかった、子どもたちの「やってみたい」という思いを引き出せるのである。

この教材を用いた実際の授業の動画を紹介した。
授業では、「2辺の長さの合計が残りの1辺の長さより長い」という、三角形の性質に辿り着くまでかなり遠回りになったと語る。
もう少しシンプルに「変わり方」に焦点を当てる、分かりやすい問題に変えることが必要だったと、授業を振り返った。

子どもの思い込みを上手く活用する

子どもは決まり事、法則を知るとどんなときでもすべてに当てはまると思い込んでしまう。
表の数値上では法則が成り立っていても、実際に図形を作ってみると形が成り立たないケースがある。

青山先生はそのケースを赤いひもと黄色いひもを引っ張って三角形を作る手法で子どもたちに説明してみせた。

発見した法則が当てはまらない場合があることを子ども達に考えてもらうことも大切である。
教科書の問題は正方形だが、題材を三角形に変え、ひもで実際に図形を作ることで、2辺の和が16になるという決まりを見出し、それが必ず成り立つと考えさせる。

法則が当てはまらないと知ることは大切だが、最初から教えるのではなく、子どもの思い込みを利用してより深く考えさせることが重要。
教材のしかけと子どもの思い込みの活用によって、子どもが学ぶ本質や成り立つ決まりに条件があること(三角形の成立条件)に結びつけることが可能である。

5年生の「面積」の授業例

複数の正方形が階段状に並べられた2つの図形を見比べて面積が同じか問う授業を例に話を進める。
1つは4段で正方形は10個、1つは正方形の大きさが少し小さく5段に並べられ個数は15個、それぞれの辺の長さは同じであると提示されている状態で子ども達に図形の面積が同じか聞いていく。

実際の授業の映像で子ども達の意見を確認すると、子ども達の間で「同じ」「少し違う」など意見が分かれた。
ここで意見が分かれることが重要だと青山先生は振り返る。

図形を印刷したプリントで重ねて確認したり、階段状ではなく正方形に変形して考えたり、様々な方法で子ども達が面積を比べようと試行錯誤していた。
同じ図形をもう1つ作り2つ並べて、2種類それぞれの図形を長方形にしてみると、5段の方が小さく見えることが分かる。
長方形にしたそれぞれの図形を見比べ、底辺は同じだか高さが異なることが提示されたことで、4段の図形の方が大きいと証明される。

ここで、参加者の先生からのチャットで「図形を数値化しないのはなぜか?」との質問があった。
青山先生は、「数値で計算すると子ども達がそこから抜け出せなくなる」と回答した。
子ども達の図形を増やす、変形させるなどの試行錯誤のアイデアが失われると、授業としての面白さが欠けてしまうと青山先生は主張する。

また、使用した図形は、図形として見比べると4段の方が面積は大きくなるが、1辺を数値化すると5段の面積が大きくなるという細かいしかけが施されていたという。
面積を求める授業ではあるが、教材にしかけを設けることで「比較」や「割合」など先を見据えた授業を青山先生は行っていると盛山先生は語った。

5年生の「平均」の授業例

「均等(平等)に分ける」をキーワードとして、じゃがいも12個を4人で分ける問題を例示した。
12個のじゃがいもを4人で分けた場合、12÷4=3で均等に分けると、1人分は3個になる。
しかし、じゃがいもの大きさがそれぞれ異なるため、均等な個数で分けても大きさによって不平等ではないか?と子どもたちから疑問が出始める。

じゃがいもの重さを明確に数値(グラム)で提示することで、平均が取れるのではないか?
ではどうやって平均を取るのか?

子ども達は、まず重さの和を求め、全部で2000 gあることを確認。
4人で割ると1人分は500 gになることを導き出し、それぞれのじゃがいもを500 gになるように分けようとした。

しかし、それだと1人3個ずつにならないのでは?という疑問が出てくる。
この「何を均等であり平等とするのか?」という話し合いを子ども達に行ってもらい、試行錯誤を繰り返しながら均等や平等を学ばせていく。

均等に分けることができない数値設定を行う

青山先生は意図的に均等に分けることができない数値設定を行い、子ども達に問題を出した。
個数と重さの両方を均等に分けることができない数値設定で、子ども達が「できそう!」と「できない!」を繰り返すことを促した。
このような繰り返しを行い、スモールステップで解決していくことが子ども達の学びでは重要であるとのことだった。

子どもの気持ちに寄り添った解決が重要

均等に分けることができない数値設定のしかけによって子どもが学ぶ本質を見出し、「平等」に分けるためにどこに平均を適用すべきかの判断を子ども達に行ってもらう。
算数の用語では「均等」や「平均」という言葉であるが、青山先生は授業であえて「平等」の言葉を使った。

「平等」は子どもの気持ちに寄り添った解決に繋がるキーワードであり、さらに身近な物を題材にすることで真剣に考えることに繋がる。
このように子どもの気持ちを刺激してあげることが学びの場として必要である。

「教える」から「学び」へ、子どもが自ら考え、追求していくしかけを教材に追加していくことが求められている。
間違いや失敗をしないように押さえつけるのではなく、子どもが自然に出した考えを踏まえて、それをさらに授業作りに展開できることが重要だと語った。

盛山先生が考える「教材のしかけ」

後半は、盛山隆雄先生に講師を交代して、さらに教材のしかけの紹介が行われた。
3年生の「□(四角)を使った式」や4年生で行う「角」の授業、6年生の「比」の実際の授業を振り返りながら教材のしかけについて話していく。

3年生「□を使った式」の授業例

「□を使った式」で、カゴに入ったみかんの重さが提示されているような教科書にある問題では、通常は全体の重さからカゴの重さから引いて、みかんの重さを求める。
しかし、こういった問題で子ども達から高確率で出る疑問が「みかん全体の重さを出すのか、みかん1個分の重さを出すのか」だと言う。
教科書には書いていないが、この教材は当然のようにみかん全体の重さを求めるように作られている。

子どものこの疑問を踏まえた上で、盛山先生は実際の授業では教材をアレンジし、みかんをいちごに変え、7個と明確な個数を提示した。

子ども達に全体の重さと1個の重さ、どちらを求める方が簡単か問うた。その上で全体を求めた後に1個の重さを求めることができると順序を提示して、それぞれの求め方を導いた。
この工夫では、教科書の提示で子どもたちが混乱する要素を逆手にとり、発展的な課題も提示することができる。

4年生「角」の模擬授業

切れ込みを入れた円を2つ組み合わせて回転角を作っていく教材。実際の教具を使用しながら参加している先生に模擬授業を行った。
模擬授業では先生が答えを求めるだけではなく、子どもがどのような答えを出すのか参加している先生たちに考えてもらう。

三角形や四角形にある角と同じ角を回転する円で作ってみようという授業。
固定された角を回転角に置き換えることで、角の開きに着目してもらうことが狙いだという。

三角形の角の合計はいつも180度であるが、数値ではなく回転角に置き換え、図形を並べながら毎回180度になることを示すことで子ども達の驚きを引き出す。
四角形も同じように角を切り取り並べることで、楽しみながら角の規則性を学ぶことができる。
子どもは図形をまだ形でしか認識できておらず、自身の手元で作業を行うことで角の概念を学ばせることが大切だとした。

青山先生は、盛山先生のこの問題の提示を「正方形や正三角形ではなく、あえて角度が揃っていないものを使用して、子ども達に予測しにくい状況を作った」と評価した。
予測しづらい状況の上で、最初に三角形で180度を意識させ、四角形ではどうなるのか子ども達に考えさせることも上手いやり方だと語った。

6年生「比」の授業例

6年生の「比」の授業で盛山先生は、実際にクラスの旗を作るという問題を子ども達に与えた。
「旗を黄金比の5:8の長方形にするためには?」「横の長さを200 cmとするならば、縦の長さは何cmにすればいいのか?」という問題である。

盛山先生は比の学習で一番大切だと思っているのは「線分図」だと言う。
線分図がなければ子ども達に比の考え方を伝えるのは難しいため、授業で説明をスムーズにするのに必需品だと語る。

旗を作る際、あえて答えとして出る縦の長さよりも足りない布を用意した。
そこから子ども達が自ら黄金比を活用し、横の長さを変えることで足りない布でも黄金比の旗を作れるという答えを導いた。

質疑応答

ゼミ参加者の先生方からの質問をチャットで募集した。
今回のゼミを受けて疑問に思ったことや、自身のクラスでの課題が疑問として寄せられた。

「どうしたら子どもの思い込みに気づくことができますか?」

盛山先生は、過去の全国学力テストには蓄積されたデータがあり、その中によくある間違いが豊富に掲載されているため、これが子どもの思い込みの参考になるという。
また、ベテランの先生は経験から子どもがつまずきやすい部分や間違えやすい部分を把握しているため、そこから学ぶことで子どもの思い込みに気づきやすくなると解決策を提示した。

一方で、問題につまずく子どもの素直さを大事にしたい気持ちも語った。
思い込みから発生する間違いは問題への理解をより深めてくれるため、教材作りにも役立つ。
そういった間違いをする子どもの感性を活かし、大事にできるクラスの環境作りができたら良いとも語った。

「力づくや、感覚で証明する子には?」

力ずくや見えたままの感覚、思い込みで無理矢理証明すると必ずどこかでつまずきが出てくる。
明確に数値化し求め方を提示することで子ども達の見方が変わり、自然と感覚的な捉え方ではなくなっていく。

力ずくや感覚で証明した際のつまずきをなんとかしていく中で、さらに問題への理解を深めることができるため、そういった感性の子や考えの多様性を大切にしていくと良いだろうとのことだった。

「授業の時間配分はどうすればよいですか?」

導入で、子ども達がしっかり授業を理解ができれば、その後の授業展開はスムーズに行く。
子ども達に考えさせた上で理解させることを盛山先生は、ポイントとして挙げた。

これを怠ると学年が上がってもまた子ども達が同じ間違いを繰り返して、その分理解が遅れ、授業の時間がかかってしまう。

まずは1つの問題をしっかり理解させることが重要であるとした。

おわりに

最後に、今回の教材についての講座を「近年では指導法が強く言われているが、教材にも目を向けて欲しい」と盛山先生はまとめた。

今後も算数の本質をしっかり子ども達に学ばせるための授業をゼミに参加している先生と共に作っていきたいと語り、今回のゼミは閉会した。

参加者の声

青山尚司先生の「教材のしかけ」の講座について

  • 一つの教材に、複数の算数の内容を盛り込んでいくことの良さを感じました。既習事項を無意識に活用することができる教材も作ることができることを改めて知りました。
  • 面積の導入と「比べる」の系統を関連させているところがすばらしいと思いました。また,変わり方の学習では,表やきまりを用いて解決しただけでは終わらない,その後の展開があるしかけが,子どもたちの思考を深めることにつながるなと思いました。ありがとうございました。

盛山隆雄先生の「教材のしかけ」の講座について

  • 教材が面白かったです。他校でのご実践も踏まえて、わかりやすく授業のポイントを学ぶことができました。特に6年の「比」に関する授業のポイントがよかったです。子どもの思考が板書からよく伝わってきました。
  • 比の授業の仕掛けは、さすがだと思いました。自然と計算がしたくなります。いちごの問題のオチには笑ってしまいました。

セミナーに参加してどうでしたか?

  • 子どものつまずきや子どもの論理など、子どもを抜きにした教材はありえないのではないかという感想をもちました。教材の「材」としての特質も大切にしながら、中心に「子ども」を置いて考える必要があると感じました。大変学びのある有意義な時間でした。ありがとうございました。
  • 子どものつまずきを大切にするという姿勢があたたかいし、学んでいくことに必要不可欠だなとあらためて思いました。日々の授業に追われ忘れかけていました。参加してよかったです。

今後のイベント開催予定