叙述から主題に迫る読みの入門に ~「おおきなかぶ」各教科書1年より~
|
|
物語の学習では主題をとらえることが大切ですが、高学年になったからと言って急に物語の主題に関心をもつことはできません。
低学年のうちから「作者が何を考えているのか」といったことに少しずつ関心をもたせることが大切だと考えています。
今回取り上げる教材「おおきなかぶ」は、1年生の教科書全社に、また長い間掲載されてきたいわゆる定番教材です。先行実践も多く、提案し尽くされてきたともいえるでしょう。
そのため今回は、一般的ではありませんが、「訳文を比べる」という活動から、低学年から育てたい力をいかに育てていくのかの提案をしたいと思います。
【今回の「問い」】
説明の仕方を変えると、何かがちがう!どうして!?
【習得を目指す力】
「お話を書く人には伝えたいことがある」ということに関心をもつことができる。
授業においては、子どもたち自身が【問い】をもち、自発的に解決しようとすることが大切だと言われます。
そのためにも、授業づくりにおいては、教師が【課題】【活動指示】【ズレ】【問い】【技】の関係を理解し組み立てていくことが必要です。
※「【問い】の解決による汎用的な力の習得」の詳細については本連載の第2回を参照
それでは、「おおきなかぶ」の、実際の授業を見ていきましょう。
「おおきなかぶ」には、次のような特徴があります。
技 →物語の叙述を、主題をとらえる手掛かりとすることができる。
現在、小学校の国語の教科書は5社から発行されていますが、そのすべてに「おおきなかぶ」が掲載されています。
ただし、どの教科書も同じ文章というわけではありません。
後述の通り、訳文が2種類あるからです。
技 →作者のこだわりや、作品の主題をとらえることができる。
この作品においては、かぶをひく登場人物やその様子がくり返しによって表現されています。
「くり返し」には、表記のくり返し、意味のくり返し、構成のくり返しなどがありますが、いずれの場合でも、「おもしろさ」が感じられるだけでなく、そこに作者の「こだわり」があります。
作者のこだわりは、作品の主題に結びついています。
今回は特徴1として挙げた「翻訳により、表現が異なる部分がある」に着目し、子どもたちに「作者の意図やこだわり」の存在に気づかせます。
【問い】
説明の仕方を変えると、何かがちがう! どうして!?
子どもたちに、2種類の訳を示した上で、次のような【課題】を示しました。
【課題】
同じことを説明していますが、説明の仕方がちがいます。
どう感じますか?
前述の通り、「おおきなかぶ」には2種類の訳があります。
かぶがぬける、クライマックス場面を比べてみましょう。
(あ)光村図書、学校図書
かぶをおじいさんがひっぱって、おじいさんをおばあさんがひっぱって、おばあさんをまごがひっぱって、まごをいぬがひっぱって、いぬをねこがひっぱって、ねこをねずみがひっぱって、「うんとこしょ、どっこいしょ。」とうとう、かぶはぬけました。
(い)教育出版、三省堂、東京書籍
ねずみがねこをひっぱって、ねこがいぬをひっぱって、いぬがまごをひっぱって、まごがおばあさんをひっぱって、おばあさんがおじいさんをひっぱって、おじいさんがかぶをひっぱって、「うんとこしょ、どっこいしょ。」やっと、かぶはぬけました。
「説明の仕方のちがいから、どんなことを感じますか?」という課題から、次のような【ズレ】が生じます。
【ズレ】
ここから、次のような【問い】が生まれます。
【問い】
説明の仕方を変えると、何となくちがう! どうして!?
(あ)の説明と、(い)の説明のそれぞれを、図に表してみます。
叙述の順にしたがって、図を、左から右に見ていきます。
すると、(あ)では、ねずみの小ささが目立ちます。(い)では、かぶの大きさが目立ちます。
これが、子どもたちが感じた「何となくちがう」の正体なのです。
ここで「おおきなかぶ」は、もともとはロシアの民話で、それを日本語に訳したものであることや、(あ)と(い)は、訳した人がちがうことを説明します。
その上で、(あ)を訳した人と、(い)を訳した人は、それぞれどうしてこのように訳したのかを考えてみます。
すると、次のことがわかります。
《(あ)を訳した人》
《(い)を訳した人》
このように、訳者の考えが叙述のちがいにあらわれていることをおさえます。
「おおきなかぶ」では「訳者の考え」でしたが、他の多くの物語では「作者の考え」であることを説明した上で、次のことを子どもたちに気づかせます。
お話を書く人は、伝えたいことがあり、それを伝えるために説明の仕方を工夫している。
1年生向けなので前述のような表現になりましたが、子どもたちに伝えたいのは、
ということです。
まだ1年生ですので漠然としたとらえで構いませんが、「作者の考え」に関心をもつようにすることが大切です。
「作者の考え」という視点をもっているかどうかが、今後の物語の学習に大きく関わってきます。
なお、今回は1年生の授業として取り上げましたが、高学年であえてとりあげ、叙述と主題との関係をとらえる授業にするということも考えられるのではないでしょうか。
*
次回は説明文「こまを楽しむ」を取り上げます。
次回もまた、一緒に学びましょう。