【第1回】どう読む?どう生かす?PISA2022レポート 〜結果がよかったから日本の教育はこのままでよい?〜

執筆者: 岡田昂樹

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2023年12月5日、PISA(OECD生徒の学習到達度調査)2022の分析結果が公開されました。日本が世界トップ水準の学力を維持していることが評価された一方で、現場レベルでは「授業をしている手応えと違って実感できない」という声も聞かれました。そこで、分析結果を「現場の目線で読んでみよう」と考え、本連載を企画し、4回にわたりお送りします。第1回は岡田昂樹先生(初任2年目の先生です!)に概要の説明と、率直な感想を語っていただきます。

群馬県の公立小学校で勤務をしています、岡田昂樹(おかだこうき)と申します。初任2年目です。

1月5日にオンラインで行われたPISA2022についての会で、発表した内容を基に本原稿は書かれています。本原稿では、PISA調査の概要や、PISA2022の結果の概要を主に取り上げています。

そもそもPISAとは、OECDが進めている国際的な学習到達度に関する調査のことで、「Programme for International Student Assessment」の頭文字をとったものです。PISA2022のレポートにも、「義務教育修了段階の15歳の生徒が持っている知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかを測ることを目的とした調査」とあります。(※1)


PISA調査は3年に一度行われ(2021年は行われず、2022年に延期されました)、調べる資質については、「読解力・数学的リテラシー・科学的リテラシー」の3分野で、各回で1分野が中心分野となります。今回のPISA2022では、数学的リテラシーが中心分野でした。 
また、PISA調査は、問題を解くだけでなく、質問調査もあります。さらに、2015年からCBTとよばれる、コンピュータを活用したテストに移行しました。

ここでは、PISA2022のポイントP.2の内容を基に整理しています。


・順位について
中心分野の「数学的リテラシー」は、OECD加盟国内だと前回1位→今回1位。全参加国・地域中では前回6位→今回5位です。「読解力」は、OECD加盟国内では11位→2位で、全参加国・地域中では15位→3位。「科学的リテラシー」は、OECD加盟国内では2位→1位で、全参加国・地域中では5位→2位です。また、3分野に共通して、前回2018年調査からOECD加盟国内の平均得点は低下した一方で、日本は平均得点が上昇しました。順位を見ると、日本は好成績だったといえるでしょう。


・結果の要因について
OECDから「新型コロナウイルス感染症のため、休校した期間が他国に比べて短かったこと」が影響した可能性があると指摘されています。このほか、


  • 学校現場において、現行の学習指導要領を踏まえた授業改善が進んだこと
  • 学校におけるICT環境の整備が進み、生徒が学校でのICT機器の使用に慣れたこと

なども、影響していると考えられています。(※1)


また、詳細には触れませんが、「読解力・科学的リテラシー」において低得点層の割合が有意に減少し、「数学的リテラシー・科学的リテラシー」において高得点層の割合が有意に増加したこともわかっています。(※1)

・ESCSとは

保護者の学歴や家庭の所有物に関する生徒質問調査の回答から、指標を作成したものです。この値が大きいほど、社会経済文化的水準が高いとみなされています。(※2)生徒質問調査には、例えば「あなたの家には本が何冊ありますか」のような蔵書数に関する問いや、「保護者やそれに相当する人が卒業したことのある学校はどれですか」のような問いなどがあります。


・ESCSと平均得点について

「ESCSの水準が高いほど、習熟度レベルが高い生徒の割合が多く、ESCSの水準が低いほど、習熟度レベルが低い生徒の割合が多い傾向が見られることは、OECD平均と同様の傾向」(※1)があることが調査でわかっています。しかし、日本は、数学的リテラシーについて以下の結果が得られました。


  • 数学的リテラシーの平均得点が高い国の中では、ESCS水準別に見た数学的リテラシーの得点差が小さいこと。
  • かつ、ESCSが生徒の得点に影響を及ぼす度合いが低い国のひとつであること。(※1)

つまり、生徒の社会経済文化的背景が、数学の得点の結果に対して与える影響が少ないということがわかります。先ほど結果の要因について引用した「学校現場において、現行の学習指導要領を踏まえた授業改善が進んだこと」が、まさしく成果を発揮したといえるでしょう。

・「レジリエントな」国とは

まず、辞書で「resilient」を引いてみました。すると、「弾力的な・回復力のある」などの意味がありました(〈引用〉英辞郎 on the WEB)。OECDは、「数学の成績」「教育におけるウェルビーイング」「教育の公平性」の3つに対して、前回2018年から今回の変化に着目して、「レジリエントな」国・地域を分析しています。つまり、2018年→2022年で、新型コロナウイルス感染症の影響を受けてから、どの程度回復したか・現状維持ができているのかなどを判断しているものと思われます。「レジリエントな」国・地域の3つの側面は以下の通りです。


【数学の成績】
2018年→2022年で、数学的リテラシーの平均得点が安定または向上。かつ、今回OECD平均以上であること。


【教育におけるウェルビーイング】
2018年→2022年で、「生徒の学校への所属感」指標が安定または向上。かつ、今回OECD平均以上であること。


【教育の公平性(以下の3条件を満たすこと)】 
(i)2022のESCSにおける数学得点のばらつき(分散)の説明率が、OECD平均に対して、有意に低いか有意差がないこと。 
(ii)2022の数学的リテラシーの平均得点がOECDの平均以上であること。 
(iii)2018年→2022年で、ESCSの低い生徒と高い生徒いずれも数学的リテラシーの平均得点が安定または向上していること。


なお、PISA2022に参加した81の国、地域のうち、「レジリエントな」国に選ばれたのは、日本、韓国、リトアニア、台湾のみです。(※1)


私がこの結果を読んで感じたことは、大きく2つです。

1つ目は、「教育におけるウェルビーイングが向上していることはとても素敵だな」ということです。生徒が学校に所属感を感じている割合が、OECD平均では悪化したのに対し日本は最も向上しており、これは各学校や教室での様々な取組が実を結んでいるのではないかと思いました。

2つ目は、「新型コロナウイルス感染症の影響を受けている中、働いていた先輩方がすごすぎる」ということです。2020年春の一斉休校のとき、当時私は大学3年生でした。大学も休校になり、オンライン授業が始まるということで難しさを非常に感じていました。当然小学校や中学校なども同じ状況で、それでも手探りで様々な解決策を考えて修正して、を繰り返して「学びを止めなかった」先輩方を改めて尊敬します。

しかし、「PISA2022の結果がよかったから日本の教育はこのままでよい」という風にはあまり思えません。本原稿では触れませんでしたが、「日本は、自律学習をする自信があまりない」などの質問調査の結果から見えてくる課題、近年ニュースになっている教員の病休者の数や子どもの不登校数の増加、自殺数の増加など、今回のPISA2022調査では見えにくい側面にも、スポットライトをあてて、改善策を講じていく必要があるのだろうなと感じました。

 

(※1)PISA2022についての詳細はこちらから引用しています。

(※2)PISA2018についての詳細はこちらから引用しています。

次回は、樋口万太郎先生が、PISA2022の「調査問題」を深掘りします。

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