【第2回】どう読む?どう生かす?PISA2022レポート 〜調査問題からみえてくるあいかわらずの課題〜
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2023年12月5日、PISA(OECD生徒の学習到達度調査)2022の分析結果が公開されました。日本が世界トップ水準の学力を維持していることが評価された一方で、現場レベルでは「授業をしている手応えと違って実感できない」という声も聞かれました。
そこで、分析結果を「現場の目線で読んでみよう」と考え、本連載を企画し、4回にわたりお送りします。第2回は樋口万太郎先生にPISA2022の「調査問題」を深掘りしていただきます。
大阪府の私立小学校で勤務をしています、樋口万太郎と申します。
2月2日に新刊「教壇に立つ30代のあなたに伝えたいこと」が発売されます。もしよろしければ、ご覧ください。
さて、私は今年教職19年目になります。PISAショックといわれた頃は1、2年目にあたり、「PISA」がついた本を買い漁っていたことをよく覚えています。本原稿は1月5日に実施された「PISA2022について」のオンラインセミナーにて発表した内容を再現しています。
こういった調査では、どうしても結果にばかりに目が行きがちです。テレビのニュース、webニュースでもだいたい結果ばかりの内容です。私のvoicyでも結果についての話をしたり、Xでポストをしたりしていました。
そんな私が言っても、説得力がないかもしれませんが、実は、私にとって一番興味があるのは結果よりも、どのような問題が出題されたのかということです。今回の調査では、数学リテラシーの調査問題例が公開されました。算数を研究している私にとっては興味津々です。
私はPISAに限らず、全国学力・学習状況調査でも、夏休みや冬休みといった長期間の休みのときに以下の3つのことを必ず行うようにしています。
① 実際に問題を解く
② 正答率を予想する
③ 実際の正答率と予想した正答率を比べる
みなさんは調査問題を解いていますか。調査問題を実際に解いている方に出会うことはそれほど多くはありません。
私がなぜ、このようなことを行うかといえば、問題の意図、自分が算数授業を通して育てたいこととズレが起こっていないのかを確認したいという思いがあるからです。
熟考されている意図のある出題です。その正答率を予想し、実際の正答率と比較するのは、児童の実態の認識のズレをなくしていきたいという思いがあるからです。
私は小学5年生の担任をしています。この調査問題の結果が目の前の子どもたちに直接つながっているわけではありません。しかし、傾向を把握しておくことで、未来の子どもたちを想像しながら、目の前の子どもたちにどのようなことをしておけばよいのかを考えることができます。
そのため、1月5日の講座では、参加者のみなさんに問題(三角形の模様全3問)を使い、上の3つのことを体験してもらいました。この記事を読まれている方もその流れを体験できるようにこの後の記事を書いています。
1問目(※1)です。まずは問題を解いてみてください。
解答は37.5%になります。
この問題は私が担任をしている5年生の子どもたちでも十分に考えることができる問題です。
それでは、正答率はどれくらいでしょうか。考えてみてください。
1月5日の講座ではチャットで聞きましたが、20%、40%という声があり、50%をきる回答が多くありました。
さて、みなさんは何%と考えましたか?
実はこの問題の正答率は77.4%です。
比較的できている問題と言えます。しかし、みなさんの予想はどうだったでしょうか。
正答率が20%と予想していた方は、実態と50%もの開きがあるのです。これでは子どもを過小評価してしまう恐れがあります。「できる問題」を「できない問題」として授業を進めていくと、多くの子が退屈に思ってしまいます。
さて、2問目(※1)です。問題を解いてみてください。
解答は40%になります。
先程の問題より難易度があがっていると思いませんか?
それでは、正答率はどれくらいでしょうか。考えてみてください。
1月5日の講座のチャットでは、今度は40%、60%、70%などと50%以上の回答が目立つようになりました。おそらくは1問目の正答率をみて、「1問目の正答率が70%を超えていたから2問目もきっと…」といったように認識を変えたことでしょう。
この問題の正答率は72%だったのです。この問題も比較的できている問題と言えます。
それでは3問目(※1)です。今度は記述になります。是非、めんどくさがらずに記述をしてください。
さて、書けたでしょうか。
記述の問題であるため、採点基準(※1)が設けられています。
みなさんは完全正答、部分正答のどちらだったでしょうか。
こういった採点基準は、実は全国・学力状況調査にもあります。知っていますでしょうか。
令和5年度 全国学力・学習状況調査 解説資料 小学校 算数(2ページ目)には、
* 児童生徒一人一人の解答状況を把握するために
というところに、
「◎」...解答として求める条件を全て満たしている正答
「○」...問題の趣旨に即し必要な条件を満たしている正答
(令和5年度 全国学力・学習状況調査 解説資料 小学校 算数)
ということが書かれています。
◎が完全正答、○が部分正答と考えることができます。
青だけのこと、赤だけのことを書いていたり、1行目といった限定的なことだけを書いていたりする、不完全な説明が部分正答になります。
チャットに書かれた記述はすべて完全正答でした。みなさんはやはり学校の先生です。
部分正答になるような記述はありませんでした(少し侮っていました。すみません)。
さて、正答率はどれくらいでしょうか。考えてみてください。
この正答率を考えたときは、多くの方が20〜40%と書かれていました。
「記述に苦手がある」「記述は苦手」といった他の問題では見られなかった理由も書かれていました。正答率は33.9%でした。我々の認識とズレていないのです。
このPISAの調査を受けた子たちの学力・学習状況調査の記述問題の正答率を見ていてもやはり課題が残る結果と言えました。
やはり記述には、あいかわらず課題があると言えます。これからも記述ができるような指導を考えていくことが求められているのです。
ICT端末がやってきて、子どもたちの表現する量が増えたと実感しています。「とりあえず書いてみて、消してみる」。そんなことを繰り返すことが手軽になったおかげか、表現することへの苦手意識がなくなってきているようにも感じます。
さらに、canvaで作成することで表現の種類も増えたり、padletや協働編集機能を使うことでお互いの表現を知る機会も増えたりしています。その表現物を他者評価したり、自己評価したりしていくことも以前よりも容易になってきています。
「量」は増えたかもしれませんが、表現する「質」はどうでしょうか。他者評価をしたり、自己評価をしたりしたからオッケーではありません。しっかりと書かれている内容を検討する必要があります。これまで同様に先生が内容について指導していく必要もあります。そうしないと、内容が「薄い」だけの表現物になってしまいます。
そのために、たとえば、
といった最低限の文型を与えた上で、表現する活動を設けたりします。最低限の文型を与えることで、子どもたちも安心するかもしれません(絶対にこの型で書きなさいと縛りすぎると、子どもたちは窮屈さを感じるかもしれません)。
文型があるため、他者評価をするときに自分との表現物と比較しやすくなります。
また、子どもたちが記述するときには「基準」をしっかりともっておく必要もあります。量が多くないといけないという呪縛が、どうしても子どもにも先生にもあるように見えます(私も20代の頃はそうでした)。そういった量ではなく、しっかりと完全解答が書けているのであれば、量はそれほど大事でないないということも、指導者として意識しておく必要があります。なぜなら算数・数学における一番洗練された表現は「式」表現なのですから。
(※1)PISA2022についてはこちらから引用しています。
次回は、葛原 祥太先生に、PISAの結果を受けて見過ごせない2つのポイントと、その課題を解決するための「けテぶれ」を提案していただきます。
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