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新しい算数研究2024年12月号

ISBN: 4910015471244

新算数教育研究会/編

セール価格 1,100(税込)
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この度,「DX への対応, 授業スタイルの転換を軸に捉え直す〜不易と流行を踏まえた授業づくりの新たな視点の確認」をテーマとした12月号を無事刊行することができました.ご寄稿いただいた先生方,読者の皆様,編集部の皆様,すべての皆様に厚く御礼申し上げます.
 私が教員になったのはここ15年ほどですが,この15年の間にも情報技術,それに伴う教育環境の変容の大きさを感じずにはいられません.ガラケーがスマホにかわり, 学校のコンピュータ室から教室の1人1台端末にかわり, どこもかしこもWi-Fi が飛び交い…etc.コンピュータ準備室の倉庫から毎授業プロジェクタとスクリーン,PC を持ち出し,すべて有線接続をして…,とやっていた時代が懐かしく思えます.昨今では学校種を問わず,どこの授業を観察させていただいても,子どもが自然に端末を用いながら学習に取り組んでいる様子を目にするようになりました.
 しかしながら, 釈迦に説法ではございますが, 情報機器はあくまで教育の“手段” であって,我々算数教育の目的は,子どもたちが数学的な見方・考え方を働かせながら,数学の本質に迫る,数学的に考える資質・能力を育むことにあります.ややもすると,「ノートアプリで共有すること」「個別最適なAI ドリル学習」のようないわゆる方法論が表に立つことがありますが,それらによって果たして子どもの数学的に考える資質・能力が育まれているのか,スポイルしているものはないかについては,改めて検討する必要があるでしょう.
 そこでせっかくなので,本誌の先生方の議論を踏まえ2つの点を問いとして残させていただきたいと思います.
 1つ目は,情報技術の変革によって,子どもの数学的な資質・能力に関し,今までできなかったことがどのように実現されうるか,といった問いです.かつてグラフ電卓等は,グラフについての深い理解がなくてもある関数の関係を可視化できるようになり,その考察の幅を広げることができるようになりました.他にも図形を動的に捉えることは,止まった図形からは見当もできない図形の性質を,試行錯誤により発見することができるようになりました.
 では,昨今の技術として,生成AI のようなものはどうでしょうか.文部科学省「リーディングDX スクール」事業では,GIGA 端末の標準仕様に含まれている汎用的なソフトウェアとクラウド環境を十全に活用した効果的な教育実践を公開しています.その中には生成AI を活用した事例も公表されており,今後本格的に入り込んでくる可能性は十分にあります.
 こういった「新しい情報技術の扱い」を考えるときに,学習観がプロダクトベースであると,「技術が子どものやるべきことを奪ってしまう」といった解釈になり,検討の余地がなくなってしまいます.まずは学習観をプロセスベース,資質・能力ベースで考え,そのとき情報技術にどのようなことが可能なのか,そこに算数・数学的にどのようなことが深まりうるか,生成AI に限らず今後検討していきたいところです.
 2つ目は,上記を踏まえると,育むべき資質・能力そのものはどのように変容しうるか,もしくは不易であるものは何か,といった問いも検討する必要があるでしょう.情報技術の変革は,社会そのものの変容であることも我々は同時に捉えなくてはなりません.社会がかわれば当然求められる,いやウェイトを置くべき,というべきでしょうか,資質・能力も変わりうるはずです.例えば地図アプリの登場によって,私の方向音痴は助長されましたが,目的地に時間通りにつけるようになり,むしろどの方法で,どのように行くべきかといったことを検討することに力点を置けるようになりました.これはこれで「スマホ無くなったらどうするの?!」という話ではありますが,能力としての必要性のウェイトは明らかに変わっているはずです.では算数・数学にとって,そういった「変容する力・しない力」はどのようなものになるのでしょうか.
 様々な問いが生まれると,それは私たちが考え議論するための原動力となっていきます.議論こそが算数・数学教育を進展させる重要な契機です.本誌をきっかけに,また活発な議論がなされることを祈念し,結びの言葉とさせていただきます.