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「学習の自由」と社会教育 - 東洋館出版社
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「学習の自由」と社会教育

ISBN: 9784491042992

日本社会教育学会/編

セール価格 3,190(税込)
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商品説明

本年報「『学習の自由』と社会教育」は,2014年6 月のさいたま市三橋公民館でおこったいわゆる「九条俳句不掲載事件」を直接的な契機としつつ,第63回研究大会総会(2016年9 月,弘前大学)でプロジェクト研究として採択されて以降,第66回研究大会(2019年9 月,早稲田大学)までの3 年間にわたる研究を軸にまとめられたものである。詳しい研究活動経過については「あとがき」を参照していただきたいが,ここでは,本年報を捉える視点を三点提示して「はじめに」にかえることにしたい。


第一の視点は,「『学習の自由』と社会教育」研究を学会における研究史に位置付けてみるという視点である。日本社会教育学会が1954年10月に設立されて今年で66年を迎える。その第1 回研究大会(早稲田大学)でのシンポジウムのテーマは「社会教育における政治的中立」であった(『日本社会教育学会60周年記念資料集』東洋館出版社,2013年より)。そこには,戦前社会教育への深い反省にたって出発したはずの戦後社会教育の現実をめぐる学会の問題意識が反映されているように思われる。憲法・教育基本法をうけて1949年に制定された社会教育法は「社会教育の自由の獲得のために」(寺中作雄『社会教育法解説』序より,1949年)生まれたとされるが,アメリカの世界戦略を背景にした占領政策の転換のもとで進行する政治的社会的状況下において,1953年の青年学級振興法の制定,そして1959年のいわゆる社会教育法「大改正」のなかで「社会教育の自由」は大きな歴史的試練に見舞われる。社会教育に対する上からの統制を危惧して学会に設置された特別委員会による報告(1958年10月)は各界に大きな影響を与えたとされるが,その「法改正」問題を背景に編集された年報第4 集『社会教育行政の理論』(1959年)の巻頭論文は,五十嵐顕による「社会教育と国家―教育認識の問題として」であった。五十嵐は「社会教育において国家権力は「おとな」の現実的な社会関係の意識に働きかけるのであり,これが社会教育における国家政策の中心的な関心になっている」と喝破している。この文脈において常に「社会教育の自由」と「学習の自由」が問われ続けたのが戦後社会教育の現実であり,社会教育法「改正」の歴史でもあった。年報第5 集『社会教育と教育権』(1960年)において「教育権」がはじめて登場する。憲法上の「教育を受ける権利」をふまえた社会教育における権利論的アプローチが歴史の現実的進行のもとで自覚化されてきたのだとも言えよう。これまでの60年を超える膨大な学会における研究蓄積のなかで,「学習の自由」と「学習権」に関わる法制研究や権利論研究は,たとえば学会年報に加えて,特別年報『現代社会教育の創造―社会教育研究の30年の成果と課題』(1988年),学会創立50周年記念として編集された『講座 現代社会教育の理論Ⅰ 現代社会教育改革と社会教育』『同Ⅱ 現代的人権と社会教育の価値』,『同Ⅲ 成人の学習と生涯学習の組織化』(2004年),そして『現代公民館の創造―公民館50年の歩みと展望』(2009年)などにおいて蓄積されてきた。そして「九条俳句訴訟」において最高裁の原告・被告双方の上告棄却によって確定した「不掲載は違法」とした東京高裁判決(2018年5 月18日)が,憲法上の権利として「大人の学習権」を認めるという戦後社会教育史の画期となったこの時に本年報が編集されたことの意義をあらためて確認したい。

第二は,2000年代以降,とりわけ2006年の教育基本法「全部改正」以降の社会教育政策が国家政策あるいは国家戦略に従属する形で展開され,そのもとで「学習の自由」「学習権」をめぐる新たな課題が生まれてきているという視点である。本プロジェクト研究が展開されている時期においても,「社会教育主事講習等規程」改正(2018年2 月28日公布,2020年4 月1 日施行)による「科目」の廃止・新設,講習における習得単位数の減少,「社会教育士」規定が新設され,また,文部科学省組織再編による生涯学習政策局・社会教育課の廃止と総合教育政策局・地域学習推進課の新設(2018年10月),公立社会教育施設の首長部局移管を可能にした第9 次地方分権一括法(2019年6 月7 日公布)等,戦後社会教育法制と社会教育行政を大きく転換させる政策が矢継ぎ早に展開された。特に「第9 次地方分権一括法」では,「文化・観光振興や地域コミュニティの持続的発展等に資する」(2019年3 月8 日の「第九次地方分権一括法案」に関する「閣議決定」より)という理由で地方教育行政法・社会教育法・図書館法・博物館法が「改正」され,首長部局移管が可能となった。戦後,公選制教育委員会制度を定めた旧教育委員会法第1 条は「この法律は,教育が不当な支配に服することなく,国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきであるという自覚のもとに公正な民意により,地方の実情に即した教育行政を行うために,教育委員会を設け,教育本来の目的を達成することを目的とする」とした。私たちはあらためて戦後どのような理念をもって教育委員会制度が発足したのかについて思いを寄せる必要があるのではないか,と考える。

そして第三は,本年報の編集内容上の特徴についてである。当初,広く会員に呼びかけた時の構成は,第Ⅰ部:「学習の自由」と社会教育―その原理的探究,第Ⅱ部:社会教育施設と「学習の自由」,第Ⅲ部:九条俳句訴訟と学習権,そして第Ⅳ部:「学習の自由」と社会教育をめぐる多様なアプローチ,であったが,公募状況から第Ⅳ部をカットして各論文の構成上の工夫をして三部構成とした。特に,第Ⅰ部においては憲法学の立場からの依頼論文を位置付け,第Ⅱ部では美術館関係者に,また,第Ⅲ部では「九条俳句訴訟弁護団」にご執筆いただいた。「九条俳句訴訟」をきっかけに,公民館だけでなく図書館,博物館,美術館関係者との研究交流が生まれ,憲法学も含め,学際的な研究が始まったことも本プロジェクト研究の特徴であり成果であったといえよう。

さて,新型コロナウイルスによるパンデミックについても触れておきたい。日本で最初の感染者が2020年1 月に出て以降,編集委員会も後半2 回はオンライン会議を余儀なくされるなど,特別な困難を抱えての編集作業となった。グローバル化,地球環境の破壊,そして新自由主義政策のもと,世界中であぶり出された貧困・格差をはじめとする諸矛盾に社会教育学会がどのように向き合い,またどのように地域での住民の学びの自由と権利を保障し,創造していくのか。ポストコロナの時代を見通しつつ新たな研究課題が私たちに突き付けられていることを痛感している。

-----------------------------本書「まえがき」より