授業者
1年「3つの数の計算」
- 大野 桂
- 筑波大学附属小学校教諭。
私立高等学校,東京都公立中学校,東京学芸大学附属世田谷小学校の教諭を経て,2010年より現職。共愛学園前橋国際大学非常勤講師。また,全国各地の小学校にて模範授業・講演活動を行う。
教科書「小学算数」編集委員(教育出版),『算数授業研究』編集委員(東洋館出版社),全国算数授業研究会常任理事,日本数学教育学会出版部常任幹事。
著書に,『子どもに委ねる算数授業 ――子どもの学力差に応じるビルドアップ型授業の新展望』(東洋館出版社),『すべての子どもの学力に応じる算数一斉授業のつくり方』(東洋館出版社)など多数。
6年「円の面積」
- 森本 隆史
- 筑波大学附属小学校教諭。
山口県公立小学校教諭,山口大学教育学部附属山口小学校教諭を経て,筑波大学附属小学校教諭。
全国算数授業研究会 常任理事,日本数学教育学会実践教育推進部小学校部会 常任幹事,教科書『みんなと学ぶ小学校算数』(学校図書)編集委員,隔月刊誌『算数授業研究』 編集委員。
近著に、『算数授業を子どもと創る』(東洋館出版社)。
先行知識のある子だけで進まない、個を生かす授業とは
授業の提案
授業者の森本先生は、円の面積の導入で円を変形して考える際の課題として、次の3つを挙げました。
- 分割する考えが子どもから出ないこと
- 分割する作業に時間がかかること
- 平行四辺形などに分割した際に元の図形との対応関係が見出しにくいこと
この3つの課題を解決するために、第1時で直角二等辺三角形や、正十二角形の半分の形と長方形の面積の割合を考え、第2時で半円について考える授業を提案しました。
協議会での論点
協議会では以下の2点などを論点として、熱い意見が交わされました。
論点1.「半円の面積を求めよう」が子どもの問いになっているのか?
青山:そもそも 「半円の面積を求めよう」 が、子どもの問いになっていたか?
田中博:先生の予定していることと、子どものしたいことにズレがあるから子どもの心に火がついていない。課題意識をもたせる問いで議論を引き出したい。
前半の流れで、先行知識のある子に負けてしまっている。教師主導の導入になっていたが“子どもが考えたくなる”チャンスは一つあった。
論点2.先行知識のある子の発言だけで進まない、個を生かす授業のあり方とはどうあるべきか?
田中博:曲線で囲まれた図形を子どもの力で面積を求めることを授業のねらいとしたかった。公式につなげる展開だと、先行知識のある子が知っている答えに収束してしまう。
夏坂:「曲線があるから求められない」という意見を掘り下げることもできた。“ヒモをとぐろ状に巻いて半分に切る”など、半円で提示したからこそ自然に表出した考え方もあった。
円の面積の公式に収束していく展開では、先行知識のある子が活躍して授業が終わってしまうため、正十二角形と半円の面積の差の求め方など塾で習わないようなことをめあてとした展開が提案されました。
「半径×半径×3.14」と先行知識がある子が公式を言って終わらないような、個々の発想が生きる授業について深く考えさせられる提案授業となりました。
低学年の「数と計算」で本当に大切にしたいこと
授業の提案
授業者の大野先生は、3口の加減の計算での課題として、次の2つを挙げました。
- 「13-7」を「13-3-4」と変形するような、減々法の展開と、子どもの必要感の乖離
- 「13-9」を「13-10+1」とするような、工夫する計算と、子どもの必要感の乖離
この2つの課題を解決するために、大野先生は、もともと3口の計算となる場面設定の以下の教材を提案しました。
「13個のお団子があります。たかし君は ○ 個、はなこさんは □ 個食べました。おだんごはいくつ残っていますか?」
協議会での論点
協議会では以下の2点などを論点として熱い意見が交わされました。
論点1.数ブロックの提示が早いことが子どもの思考を制限しているのではないか?
山本:「おだんごが 13個 あります」と問題を提示した際に、すぐに数ブロックを提示してしまったので、子どもの思考が制限されてしまった。
大野:子どもに13個並べてもらう展開も検討したが、何も手がかりがないと引く数を考えていくのが難しいと思った。
山本:「13-1- □ 」の □ に入れる数を子どもに説明させる場面で、数ブロックを提示すれば、多様な考えを引き出しつつ、ある方法の説明に焦点化していけたのではないか。
論点2.発表する子の価値付けと揺さぶりの使い分けをどうするか?
田中博:「減らす話なのに、〇〇くんはなんて言ったかな」と言われて、〇〇くんは自信がなくなってしまった、「なのに」と言われると不安になる。
大野:周りの子にもいい話だと気づかせたかったので、揺さぶるつもりで「なのに」と言った。
田中博:1年生の授業では、「今の話はいい話だったよ」と自信をもたせて発言を求めると子どもが安心できるのではないか。
小学校1年生の発達段階も踏まえ、子どもが自然に3口の計算に向き合い、工夫していく授業について議論がなされました。特に、具体物の提示のタイミングや、子どもの発言を聞く場面のかかわり方など、1年生の思考の特徴を考慮した授業の展開について、授業の具体をもとに深く掘り下げて行くことができました。
イベント開催後、参加いただいた方々からの感想
Q. このセミナーに参加する前にどのような課題意識がありましたか?
- 普段の算数の授業の中に、理解度、習熟度が様々な子どもたちがいる。その中で、どのような本時の目標に到達するための手だてがあるのか、検討するときの考え方を知りたかった。
- 校内の中で、授業研究をする校務分掌があるのですが、その中で進め方に迷い、このセミナーに参加することを決めました。
Q.何が決め手となってこのセミナーに参加しましたか?
- 公開授業が2本あること、OBの先生方も協議会に参加されること。
- 筑波の先生方の授業やお話をたくさん聞けるということ。また、セミナーの内容も自分の課題にあっていると思ったから
Q. ビデオ公開授業&協議会 6年「円の面積」 授業者:森本先生 に参加してどうでしたか?
- 提案性ある、授業であった。円の面積を求めるのに、半円を捉えたり、パーセントで捉えたりするところが面白いと思った。
- つい、教科書をなぞり、公式を使うこと(計算の練習をすること)になりがちであったが、子どもが主体的に学べる手だての提案としてよかった。高学年は先行知識のある子の扱いに悩ましいことがあるが、その子たちもひっくるめて、考える楽しさを味わうしかけを作る、という発想がなかったこと、まだまだ自分の授業の甘さを痛感した。
Q. ビデオ公開授業+協議会 1年「3つの数の計算」 授業者:大野先生 に参加してどうでしたか?
- 大野先生のしかけがいろいろあってとても面白い授業でした。即、授業の反省をする点も見習いたいとおもいます。協議会も数値や図のタイミングなどとても深い内容で大変学びになりました。授業についてもっと頑張ろうと思います。ありがとうございました。
- 私も昨年度1年生を担任して、本当に算数の素地を養わなければならないと痛感した1年でした。子どもの数学的な見方・考え方がすごく表れていて、それを子ども同士で価値付けさせるというのがとても参考になりました。山本先生の鋭い視点もとても勉強になりました。