授業者
1年「3つの数の計算」
- 大野 桂
- 筑波大学附属小学校 教諭。私立高等学校,東京都公立中学校など経て,2010年より現職。教科書「小学算数」編集委員(教育出版)。
4年「式と計算」
- 田中英海
- 筑波大学附属小学校教諭。東京都立小学校,東京学芸大学附属小金井小学校を経て,2021年より現職。
このイベントでわかること
- 子どもの思考から組み立てる授業がわかる!
- 単元の既習のつなげ方がわかる!
- 教材の本質の深め方がわかる!
目次
個の思考と教材を本質が両立する授業とは
1年「3つの数の計算」の提案
大野桂先生が提案する「3つの数の計算」の現在地から見えてきた課題をクリアするための授業提案とは
小学校1年生の教科書では、「3つの数の計算」の単元は、たし算の導入と、繰り上がりのあるたし算の間に位置づけられています。このため、基本的なたし算の延長として扱われています。
授業者の大野先生は、このアプローチでは、①単純なたし算以上の考え方を求められないこと、②繰り上がりを学ぶための素地として十分に機能していないことの2つの問題点があると指摘しています。
これらの問題を解決するために、3口の問題提示の授業を、繰り上がりを学ぶための素地として提案しました。
本時の教材
おだんごを ぜんぶで いくつ たべたかが
かんたんに もとめられる しきは どれかな?
8 + 2 + 7 8 + 5 + 7
7 + 3 + 9 7 + 4 + 9
8 + 3 + 7 9 + 3 + 4
7 + 3 + 1 7 + 4 + 9
7 + 1 + 9 5 + 4 + 8
この教材は、簡単に計算できる式を探す中で、8+5+7=8+2+3+7というように「数を分ける」アイデアを引き出し、10のまとまり作ることで、計算のしやすさに気づいていくという提案でした。
低学年の子どもたちが入り込めているか?
実際の授業で「8+5+7」の問題を提示したところ、クラスの約半数が5を2と3に分ければよいことに気づきました。2つの数の計算で、10を作るよさを学んでいたので、この時点で行き詰まっている子どもはごくわずかでした。
困っている子ども達と丁寧に向き合いながら、大野先生は個を大切にする授業を進めていきました。そうした中で1つ目の論点が出てきました。
夏坂:丁寧に触れる必要がある内容だが、あまりやり過ぎると子どもたちが飽きてくるのではないか。
大野:授業前は20分で終わると思っていた。10を作るよさを価値づけたいと思い丁寧に扱ったが、このクラスではここまで時間をかける必要はなかったかもしれない。
夏坂:説明させたり、理由を言わせたりといった活動を続け過ぎるのは、1年生には辛いかもしれない。代案としては、2人で3枚カードを同時にめくって、先に3数の和を答えた勝ち、というゲームで式とつなげていくなど。低学年では、算数と別の動機づけがあるとよかった。
大野:算数のよさを子どもが説明できるように、という思いが強くなると、高学年のような授業になってしまうことがあると思った。
繰り上がりへの布石として本当に適切か?
授業の最後に、大野先生は「9+3+4」という式を提示しました。この提示について、繰り上がりを学ぶ素地という観点から、新たな教材の提案がありました。
盛山:終末では、封筒で隠して以下のように提示すれば、より自然に繰り上がりの話題につながったのでは。
・代案
8+7▓▓▓▓▓▓(封筒で隠している)
右側を封筒で隠して提示すると、 3つ目の数で、2や3があると良いという意見が出てくる。
8+7 (封筒を取る、右は空白)
封筒を外すと、3つ目の数は書かれていない。 この式を見ると、7を2と5に分ける、8を3と5に分けるといった、繰り上がりの計算方法が出てくるのではないか。
大野:代案の展開は良いと思った。これまでは、10個入りの卵パックを提示した授業なども行ったが、3つの数の計算を、繰り上がりにいかに接続していくか、という挑戦として提案してみて、協議会でも、新たな気付きがあった。
授業提案では、3つの数の計算の場面を式に表すだけという教科書にある活動ではなく、繰り上がりの導入としての意味に焦点を当てる機会となりました。また、低学年児童の動機づけや、個を大切にすることの重要性について協議することで視野を広げることができました。
4年「式と計算」の提案
「式と計算」の教科書のアプローチにおける問題点を解決するための新たな授業提案とは
教科書では、「式と計算」の単元は、”500円玉で240円のビスケットと110円のチョコレート買う”というような買い物場面の問題や、アレイ図を使った問題が提示されています。
授業者の田中先生は、教科書のこのアプローチでは、①買い物場面では別の物を1つのまとまりとみる見方が育たないこと、②アレイ図では場面を式にする力が育たないことの2つの問題点があると指摘しています。
これらの問題を解決するために、未知の数を含んだ日常場面での授業を提案しました。
本時の教材
いくつか使って道をふさぎます。
ぴったりふさぐには、何cmのバーとコーンを
使えばよいでしょう?
(問題提示の過程で、120~200 cmのバーであることを提示した。)
この教材の提案は、コーンの長さ・数、バーの重なりに着目して、数量の関係を図や式に表したり、図や式から数のまとまりを読み取ったりする力を育てることでした。
問題の設定が複雑過ぎたのではないか?
実際の授業では、スライドで写真や図を提示して問題場面と条件を確認し、バーが2本のときの長さをクラス全体で考えていきました。
問題の前提条件の確認に時間をかけていたので、問題設定と時間配分が話題となりました。
夏坂:わからないことが多すぎる。この問題を解くためには約束しておくことがたくさんある。重ねることだけを考えるならば、紙テープをくっつける問題で良いのではないか。
盛山:問題提示に時間がかかっている。狙いに近づく意図があれば良いが、なかなか本題にいかなくなる可能性がある。
田中:日常事象を算数数学の舞台に乗せる過程なので、ここを短縮してしまうと、場面の意味が子どもに伝わらないと思った。
図と式の結びつけが適切に行えていたか?
また、中盤で指名された子どもが考えを発表したときの田中先生の関わりを受けて、今回の授業のねらいである、場面を式に表すことが協議会で話題となりました。
盛山:発表している子が「400-○=▢」という式を板書したとき、田中先生が式の意味を説明してしまっていた。この言葉を算数の式に置き換えている場面こそ、式の意味を子どもに説明させたい。
森本:田中先生が解釈して、「これは伝わっている?」と問いかけていた。式の解釈は、発表を聞いている子どもたちに任せることで、式の解釈を深めることが出来た。
夏坂:「なぜ○に10をいれるの?」、「どこを引いた10なの?」といった発問で、式と図の関係の説明を引き出したい。
田中:面白い題材だという思いが先行していたかもしれない。授業後のノートを見ると多様な図と式の対応があった。図と式の関連付けにもっと時間を割く必要性を感じた。
授業協議会の最後には、授業後半で誤答を発表した子のことが話題になりました。間違えた子の考えが変容し、最後にもう一度指名して活躍をする機会をつくるってあげたい。クラスのみんなとの関わりの中で、丁寧に個に寄り添っていくことについても、考えを深めることができました。
参加者の感想
Q.何が決め手となってこのセミナーに参加しましたか?
- 授業公開と協議会があること。
- いつも参観する度に学びがあるから。
- 附属小学校の方々の魅力、熱意、算数感に触れること。
Q. ビデオ公開授業&協議会 1年「3つの数の計算」の提案はどうでしたか?
- 繰り上がりの授業前に、どうやって8+5+7のやり方を子ども達が考えるのかと思っていましたが、既習事項のみで、5という数字に着目して10のまとまりを作ることを楽しみながら、考えている姿から学ぶものが多かったです。
- 子どもたちがこれまで学んだことも使いながら、式を作ったり説明したり、思考したり表現したりすることに生き生きしている姿に感動しました。人の式がどういう考え方か、また、友だちが考えいてることをかわりに説明してみるなど、算数で学級づくりをされているのだなと思いました。授業で勝負、こうありたいと思いました。
協議会で率直に批判し合う姿や鋭い指摘、楽しそうにアイデアを出し合う姿など先生方の切磋琢磨される姿に、1日を通して、たくさん刺激をいただきました。明日からの授業、私もがんばろうという気持ちが湧いてきました。ありがとうございました。
Q. ビデオ公開授業&協議会 4年「円の面積」の提案はどうでしたか?
- コーンバー、しかも伸縮自在のスライド式というおもしろい教材でした。協議会で上がっていたように長さや条件は、こちらから指定して思考させるところと出てきた考えを共有するところにもっと時間をかけて子どもたちがどのような反応をするのかもっとみたかったです。素敵な授業をありがとうございました。
- みんなで今までの学びを関連づけてできることからスタートする、このことによって、児童が主体となって、学びを習得していくのだと実感しました。