目次
私の「現場目線」からみた重要ポイント
重要ポイントその1:生徒指導提要 第3章の各節のキーワード
この章は、7つの節から成っており、それぞれの節のキーワードは次の通りです。
第1節 チーム学校
第2節 生徒指導体制
第3節 教育相談体制
第4節 生徒指導と教育相談が一体となったチーム支援
第5節 危機管理体制
第6節 法制度等の運用体制
第7節 学校・家庭・関係機関等との連携・協働
この章を一言で表すと、「『効果的な』生徒指導のための体制づくり」です。
VUCAの時代とも言われる現代。生徒指導上の問題も多様化しており、担任一人の力、学校内部だけの力では対応が難しいケースも増えています。下の4コマ漫画(作/ヤッシーさん)のオチのような、「思いつき」「場当たり的」な発想では、太刀打ちできません。
漫画制作:ヤッシー(@84yame1000)
第1章で登場した「2軸3類4層構造」と関連させながら、「どのレベル(軸・類・層)の課題に対して、どんなチームで、どんな取組を行うか」を考えていくのが、読み取りのポイントです。
重要ポイントその2:効果的な生徒指導のための体制づくり
この章の重要ポイントとして私が挙げたいのは次の2点です。
①個の在り方として:「自分自身の視座に気付くこと」の重要性
②チームとして:リアクティブ/プロアクティブの2軸の循環
1つ目のポイントは、「自分自身の視座に気付くことの重要性」です。
生徒指導提要では、次のように書かれています。
避けなければならないのは、問題の本質を理解しようとする姿勢を失い、問題の原因を児童生徒本人や家庭のみにあると決めつけて、教職員と児童生徒は相互に影響し合うという認識を欠いてしまうことです。そうなると、信頼関係を基盤に児童生徒や保護者に働きかけることが難しくなってしまいます。そうならないように、児童生徒の行動をみるときの自分自身の視座(視点や認識の仕組み)に気付くことが、教職員一人一人に求められます。
(生徒指導提要 P.78より引用、太字は筆者)
まずは、この認識が大切です。「間違った前提で熱心な指導を行うこと」は、時に大きな悲劇を生みます。「私の見立てがいつも正しいとは限らない」そう考えるからこそ、同僚や関係機関、地域家庭等、多様な人たちと協働する意味が生まれます。「チーム学校」を機能させるための、1丁目1番地がここと言ってもよいでしょう。
2つ目のポイントは、「リアクティブ/プロアクティブの2軸の循環」です。
図1 チーム支援のプロセス
(「生徒指導提要」P89~96を参考に筆者作成)
上は、第4節「生徒指導と教育相談が一体となったチーム支援」第2項「チーム支援の実際例」を表にまとめたものです。見ていただくとわかるように、アセスメントする内容も、チーム内で共有することも、作成する計画も、全く異なります。
このような両者のちがいを押さえたうえで支援を行っていくことが重要です。
また、リアクティブな対応とプロアクティブな対応とのつながりを意識することも大切です。5節「危機管理体制」では、リスクマネジメントとクライシスマネジメントについて述べられています。クライシスマネジメントの最終プロセスには「再発防止への取組」が位置づけられており、このように書かれています。
事件・事故、災害の教訓を生かし、安全管理の見直しと徹底、安全教育の強化、危機管理体制の見直しと一層の整備を進めます。これは、次の危機事案に備えて、教訓を生かしたリスクマネジメントへ循環した対応が行われることを意味しています。
(生徒指導提要 P.78より引用、太字は筆者)
これは、「リアクティブな対応から、プロアクティブな対応への循環」と言い換えることもできると思います。課題を解決するのみで終わるのではなく、それを発達支持的生徒指導や課題未然防止教育に還元することで、指導の改善につなげていけます。思いつきや場当たり的な取組から脱却し、計画的かつ組織的な取組を行うためには、この循環を生み出すことが不可欠です。
「私の現場」で生かすとしたら
「チーム学校」による生徒指導体制を実現するために
上で述べたポイントを意識しながら「チーム学校」による生徒指導体制を実現するために、私は「研修」の重要性を強調します。
「事例検討会」など、対話を生かした形の研修デザイン
「子どもの話」を、どのくらい教職員間でできていますか。「忙しくてなかなかできない」という職員室も多いのではないでしょうか。時間がとれないのであれば、研修で保障してしまいましょう。
事例検討会では、子どもの姿について報告したり、質問したりすることを通して、互いの「児童観」「指導観」を知ることができます。自分にはなかった見方や気付きを得て、互いの視座を高めることにつながります。
ここで大切なのは、「個の気付き」を促すことのみに終始しないということです。学校の生徒指導の基本方針に立ち返り、全体計画等の改善(必要に応じて修正)につなげていくことが大切です。それにより、方針や基準に対する教職員の理解が深まり、指導の一貫性をもたせることができます。
スーパービジョンを受ける機会を設ける
スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラー、スクールロイヤーなどの専門スタッフ、生徒指導担当指導主事などに研修に参加してもらい助言を受けるなど、外部との連携も大切です。個別の事例への対処方法について助言を受けるだけに留まらず、現状に対し、どのような発達支持的生徒指導・課題未然防止教育が必要かを一緒に考えてもらいましょう。学校内のみではなかなか気付くことのできない部分に光を当てることもできますし、研修で直接関わることで、外部との連携も進みます。保護者アンケートや学校運営協議会での熟議など、家庭や地域からの声も、貴重なデータとして扱っていくべきでしょう。
記録の蓄積・共有できるシステムをつくる
研修にはたくさんのよさがありますが、開催回数や時間は限られています。徒に先生方の負担を増大させるようなことがあってはいけませんから、全ての事例を研修で扱うことはできません。校務支援システム等を使い、生徒指導に関する情報を記録、共有していくといった取組も大切です。問題事例だけでなく「いいところ見つけ」などのポジティブ情報も記録、共有していけるようにします。一定期間毎に分析を行うことで、指導の成果の振り返りや、計画の修正などに活かすこともできます。
生徒指導提要第3章を読み終えて
「いくら解決しても、次の問題が起こる」
そんな徒労感に苛まれている先生方は多いのではないでしょうか。
厳しい言い方に聞こえてしまうかもしれませんが「いくら解決しても、次の問題が起こる」というのは、こう読み替えることができるのではないでしょうか。
・リアクティブな対応は成功した
・しかし、プロアクティブな対応を考えず、問題が起こりやすい状態を放置した
問題に対処するということは、大きなエネルギーを必要とします。また、多忙を極める現在の学校事情では、なかなか対話をする機会をつくれないのが現状だと思います。
しかし、それでは「次の問題が起こり続ける」ことは目に見えています。
目の前の問題を解決しつつ、その問題の背景にある「学校全体の状況」を対話を通して読み解き、プロアクティブな対応へと循環させていく。それを行うことはとてもハイコストかもしれません。時間も手間もかかります。しかし、そのような営みは、学校の空気を少しずつではありますが、確実に変えていきます。ぜひ、未来への「投資」と捉えて、「チーム学校」による生徒指導を進めてみませんか。
グラレコ:山本晃佑(@koussssssst3)
次回(2/22公開)は、中島征一郎さんの第4章「いじめ」についてお伝えします。