第6回 生徒指導提要を現場の目線で読む

第6回 生徒指導提要を現場の目線で読む - 東洋館出版社

漫画制作:ヤッシー(@84yame1000

第6章について

私たちは「少年非行」と聞くと、「ハッと」して身構えてしまいます。もしかしたら、その行為をした少年を嫌ったり非難したりしてしまうかもしれません。
しかし、保護者や私たち教員はその子に寄り添う視点ももちたいものです。

この章は

6.1 少年法・児童福祉法等
6.2 少年非行への視点
6.3 少年非行への対応の基本
6.4 関係機関との連携体制
6.5 喫煙・飲酒・薬物乱用

から成っています。

「知らないこと」は怖いものです。
昨日まで笑顔で話していたあの子が、急に非行に走ったり、モンスターになったりするのではありません。「少年非行」について知識のない私たちがそう見てしまうのです。

6章を読むことで、私にとって「少年非行」が闇雲に怖がる対象ではなく、向き合うべき問題となりました。

私の「現場目線」からみた重要ポイント

第6章を読む上で重要な2つのポイント

小学校という場所の特色の一つは、教員が大きな環境要因になりえるということです。それは長い時間を共に過ごすことや、児童の発達段階において教員が大人としてのモデルとなるからです。
したがって、

「教員が日常から子どもたちをどう見るか・どう接するか」がとても大切

「児童が薬物に依存しない環境をもてるよう支援をする」必要が私たちにはある

と考えます。

私は、以上の2つのポイントをもってこの章を読むことが、とても重要だと考えました。

日常から「環境」や「きっかけ」に目を向けて児童と接し、土台づくりを

「少年非行の背景は多様です。よく理解しようとせずに指導や罰を与えると逆効果になることもあります。「6・2少年非行への視点」では「その非行の背景を『発達的観点』や『家族関係的観点』などから理解する必要があります。」と記されています(「生徒指導提要」p.156)。

とは言え、自分を律して生きている人ほど、非行について嫌悪感を覚えたり反射的に怒りを感じたりすることが多いのではないでしょうか。私は初任者の頃にその傾向が強かったように思います。児童の背景を想像する寛容さがなく、視野が狭かったと今では反省しています。

そこで教室での児童との関わりを見直し、改善を目指してきました。後に児童発達支援の会社で働く知人から応用行動分析学(ABA)の考え方を教えてもらい、教員がどう児童を見るとよいか、とてもすっきりと理解することができました。

応用行動分析学(ABA)によると、【先行事象(環境・きっかけ)→行動→結果】という順序で物事が起こると捉えます。

先日、SNSアプリを用いた若者らの「目立ちたい」がための迷惑・炎上動画のニュースを見ました。それを見たときに「この人たちは何をしているんだ。理解できない」と切り捨てるのか、そこに「SNSアプリ」という「環境」や、若者の「何者かになりたい」という思いが「きっかけ」になったことを想像するのか。私がSNSに迷惑・炎上動画をアップロードするようなことをしなかったのは、道徳心が優れていたからではなく、単にそうできる環境がなかったからかもしれません。

日常から「環境」や「きっかけ」に目を向けて児童と接することが少年非行の予防になり、非行が起こってしまったときもケアができる土台になります。

また、薬物乱用に関しては、子どもたちは「飲酒」をすることから次第に薬物へと繋がっていくことが多いようです。そのことをさして飲酒のことを「ゲートウェイドラッグ」とも呼ぶそうです。生徒指導提要第6章には「薬物等への依存は、人に依存できないことによって引き起こされるとも言われます。」と書かれています(「生徒指導提要」p.170)。人とのつながりや関わりが薬物への依存を止める手立てとなるのです。日常からクラスで人と関わったり繋がったりするよさを児童が感じられることが大切なのだと改めて感じました。

図1 「留意点と少年法について」
 (「生徒指導提要」pp.156~158をもとに作成)
山本晃佑(@koussssssst3

「私の現場」で生かすとしたら

私の職場で生かすとしたら

・「研修で職員の少年非行への理解を深めること」
・「校務分掌で管理職を含む対策チームをつくること」

の2つが有効だと考えます。

正直に言うと、私は「少年非行」という章を読む前は、その言葉の響きに怖さを感じていました。しかし、本章を読み「少年非行」についての様々な知識を得るにつれ、感じた恐怖はどんどん小さくなりました。

正しく知ることは、怖さを減らしてくれます。そして怖さが減ると、具体的な対応を考える余裕が出てきます。私の職場でも本章の内容を共有し、正しい知識を得ることで具体的な対応を考える土壌をつくれると考えます。

もちろん、被害を受けた児童がいる場合は、その児童へのケアが最優先に行われるべきです。本校においては、職員のその部分の意識は高いと考え、どう非行少年への視点をもつかについて研修をすることが有効だと考えています。

具体的な研修の内容としては

① 生徒指導提要第6章を基に、少年非行について知る

・不良行為少年 と 非行少年 (虞犯少年 触法少年 犯罪少年) のちがいを知る。
または要保護少年について知る。
・本校付近の警察や少年保護センター、児童相談所などの担当者について知る。
・6.2少年非行への視点を重点的に読む。

② 「6.3少年非行への対応の基本」を基に、司法面接の技術を活用した聞き取りのポイントを確認する

〇多人数で何回も聴取するのではなく、聴取担当者を一人に限定し極力少ない回数で(可能な限り1回)周到な準備の下聞き取りを行う。
〇聞き取りの対象が複数であるときには、全員を同席させるのは適切ではない。
〇児童の心配する気持ちを理解し、児童本人にとって望ましい形となるよう職員同士が話し合うことを伝える。
〇ただし、「他の人には絶対に話さない」等、守ることのできない事や結果的に嘘になりえることを約束することは避ける。
〇オープンクエスチョンの大切さとその手順を知る。

というものが考えられます。

私たちが担任をする学級は、いずれ社会へと繋がる地続きの場所です。そこで困難を抱えた児童に対して教員が適切に関わることで、少しでも将来その児童が犯罪行為へ向かう可能性を減らせるのではないかと考えます。

もちろん、その際には家庭との協力も大切になります。家庭と協力をするときには、担任一人が抱え込まないこともとても重要です。校内に校務分掌で管理職を含めたチーム体制をつくることや、関係機関に顔を知っている相談相手をもつことが大切です。児童を支援する担任がすぐに相談できる人の顔が複数浮かぶことで、余裕をもった支援ができるのではないでしょうか。

生徒指導提要第6章を読み終えて

少年非行の数は年々減っているそうです。警視庁HP「令和3年中における少年の補導および保護の概状」にある「昭和24年以降における刑法犯少年の検挙人員および人口比の推移*1」では、

検挙人員は、平成16年以降18年連続で減少しており、令和3年中は1万4,818人と、前年より2,648人(15.2%)減少しています。人口比は2.2と、前年より0.4ポイント低下し、いずれも戦後最少を更新した

とあります。データを見ると、少年の生活は少しずつ全体としては安全なものになってきています。しかしその反面、一部の非行少年が目立ち、より特別な目で見られるようになってきたとも言えます。
だからこそ、教員や保護者など寄り添う大人の存在が大切です。
そして、少年非行に寄り添うためには正しい知識を得ることで、安易に非難したり闇雲に怖がったりせずに支援することができます。

また、少年による非行は万引き(窃盗)が一番多いそうです。
友だちのものや学校のものを盗んでしまうということが教室内でも起こりえます。
もし、皆さんの職場でそのようなことが起こったときに教員としてどう関わるのか。
戸惑ったときには、生徒指導提要の第6章を読むことをお勧めして私の感想としたいと思います。

【註】
*1 警察庁生活安全局人身安全・少年課,2022年,「令和3年中における 少年の補導及び保護の概況」,p.2

まさやん@グラレコ喫茶のマスター(@succhang55

次回3/3(金)公開では、やまもとひろこ先生の第7章「児童虐待」についてお伝えします。