第9回 生徒指導提要を現場の目線で読む

第9回 生徒指導提要を現場の目線で読む - 東洋館出版社

漫画制作:ヤッシー(@84yame1000

第9章について

第9章「中途退学」では、大まかに以下の5点が述べられています。

・そもそも中途退学とは何か
・中途退学へと至る要因
・中途退学を未然に防ぐために大切なこと
・中途退学に至る予兆の早期発見
・中途退学に至った生徒への対応

この章のポイントは、「中途退学は小学校・中学校も無関係ではない」ということです。ヤッシーさんの4コマ漫画に登場する生徒のように「中途退学は高校の話ですね」という捉え方をするのではなく、小学校・中学校から続く問題であると考えていく必要があります。小中学校も無関係ではないことを示す根拠として、生徒指導提要では、小学校・中学校での学校生活への不適応の経験(長期欠席や不登校など含む)が、高校段階における中途退学につながるケースが多いと述べられています。

私の「現場目線」からみた重要ポイント

小学校教員の私が考える中途退学を未然に防ぐための重要ポイント

中途退学の理由は様々です。中途退学の中には、前向きな進路変更という側面をもつものもあります。私が未然に防ぎたいと考える中途退学は、学校への不適応や懲戒によるもの、消極的な意味での自主的な中途退学です。実際に中途退学をしてしまった生徒の支援をすることは困難です。したがって、「目の前の子どもたちに私ができることは何か」という視点で本章を読み進めていくことが大切なのだと考えます。中途退学を未然に防ぐために、小学校教員の私が考える重要ポイントは以下の2つです。

①児童生徒の自己効力感を高める教科指導をすること
役割を果たす機会の宝庫である学校を、児童生徒のキャリア形成促進の場にすること

それぞれ、以下で詳しく説明します。

①児童生徒の自己効力感を高める教科指導をすること

生徒指導提要では、以下のように書かれています。

教育活動の多くを占める教科学習は、学校適応の鍵を握っています。学習の遅れがちな生徒に対しては、一人一人に即した適切な指導をするため、学習内容の習熟の程度を的確に把握すること、学習の遅れがちな原因がどこにあるのか、その傾向はどの教科・科目において著しいのかなど実態を十分に把握した上で、各教科等の選択やその内容の取扱いなどに必要な配慮を加え、個々の生徒の実態に即した指導内容とするなど、指導方法を工夫することが大切です。その際、児童生徒相互で教え合い、学び合う協働的な学びを取り入れることで、生徒同士の信頼関係を構築し、やればできるという自己効力感を持つことができるように働きかけることも大切です。

(「生徒指導提要」p.216より引用 太字は筆者)

私は、上記の文章を読んだときに頭に浮かんだ言葉があります。それは「個別最適な学びと協働的な学び」です。所属校の校内研究のテーマにもなっており、私にとって身近な言葉です。「中途退学の未然防止のために、小学校教員ができることはなんだろう?」と考えるとすごく難しく感じます。しかし、実社会で生きて働く力を育むために「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を進めていくことが大切なんだと考えてみると、私の立場でできることもたくさんあるのではないかと思えてきます。

②役割を果たす機会の宝庫である学校を、児童生徒のキャリア形成促進の場にすること

授業中の挙手や発言、お笑い係・クイズ係などの係活動、クラブ・委員会など、学校には子どもたちが活躍できる場面がたくさんあります。子どもたちにとって学校は、1日の大半を過ごす社会そのものです。学級・学校をよりよいものにするために、自分にできることを考えて行動すること。そして、その行動から何を学ぶことができたか振り返ることが、児童生徒のキャリア形成の促進につながります。

提要では、以下のように考慮することが示されています。

日常の学校生活における役割取得において、本人の特性や興味・関心とのミスマッチについて留意されない場合も見られます。例えば、「細かいことが苦手な」 児童生徒が細かな配慮が求められる役割を担う場合、うまくいかず達成感を持てず、さらに、できなかったことを指摘され追い詰められることもあり、不適応の要因になることがあります。役割を依頼する場合には、生徒の特性や興味・関心などを十分に考慮することが必要です。

(「生徒指導提要」p.217より引用 太字は筆者)

「〇〇さんにもっと成長してほしい…!」このような思いばかりが先行してしまい、本人の気持ちに寄り添えないことのないように注意したいです。

(「生徒指導提要」pp.216-217をもとに筆者作成)

「私の現場」で生かすとしたら

専科教員だからこそ「目の前の子どもたちに私ができること」

中途退学の未然防止のために、重要なポイントを2点述べました。担任の先生のように、子どもたちと深く関わることが難しい立場の私ですが、専科教員だからこそできることもあります。それは、多くの子どもと音楽の授業を通して関わることです。所属校では3年生から6年生の音楽を担当しており、年度を跨いで継続的に子どもたちと関わることができています。そのような専科教員としての強みを生かし「目の前の子どもたちに私ができることは何か」考えてみました。感染症対策のために難しい活動も多いのですが、所属校にて少しずつ実践を前に進めていきたいと思います。

児童の自己効力感を高め、役割を果たす機会を作りだす

【提案➀ 児童生徒の自己効力感を高めるリコーダーの授業】

「お家でお父さんやお母さんがリコーダーを吹いていたところを見たことがある人はいますか?」

これは、私が子どもたちに尋ねたことがある言葉です。子どもたちは「見たことない!!」と笑っていました。リコーダーは魅力あふれる楽器です。安価で購入ができ、持ち運びが簡単。トランペットなどの管楽器に比べれば比較的小さな音なのでお家でも楽しめます。さらに、YouTubeで「リコーダー」と検索すれば、様々な曲の練習動画が出てきます。このように魅力溢れる楽器ですが、大人になってもリコーダーを楽しむ人は少ないと思います。「大人になってやらないリコーダーを練習する必要あるの?」

実際に声に出していなくても、このように思っている子どもはいるのではないでしょうか。

自己効力感を高めるリコーダー授業を提案するために、リコーダーという楽器を広い視点で捉えなおしてみます。リコーダーは、「コツコツと練習すれば昨日の自分よりも上手になる『やればできる!』を子どもたちが実感できる教具である」という捉え方です。「Aという曲を全員が同じように演奏できるようにする」のではなく、一人ひとりの興味・関心や技能レベルに応じて学習を進めることができないか模索していきたいです。一人一台タブレットの導入により、子どもたちが手軽にリコーダーの練習動画にアクセスすることができます。あとは、一人ひとりが自由に気持ちよく練習できる環境をどうやってつくるかという課題さえ解決できれば、上記のような授業を行うことが可能だと考えています。本記事を読んでくださった先生方と課題について考えていければ幸いです。

【提案② 児童の役割を果たす機会をつくりだす休み時間ミニコンサート】

本校では、子どもたちが、休み時間にピアノやドラムの練習をする姿が日常的に見られます。私は、子どもたちが楽しそうに楽器の練習をする姿を見ると嬉しい気持ちになります。感染症対策を行いながら実施するのは難しいとは思いますが、音楽室で休み時間にミニコンサートを行うなどして、子どもたちが活躍する機会をつくることができないか模索していきたいです。

生徒指導提要第9章を読み終えて

「全ては繋がっている」

これは、ヤッシー(@84yame1000)さんが本章をテーマに描いてくださった4コマ漫画のタイトルを引用したものです。私は音楽専科教員として多くの子供たちと授業で関わっています。「45分間の授業が上手くいくかどうか」を考えることは大切です。しかし、子どもの実社会で生きて働く力を育成するためにはどんな授業が必要なのかという広い視野をもつことがとても重要なのだと思います。年度を跨いで継続的に子どもたちと関わることのできる専科の強みを最大限に生かすことができるよう授業改善に努めていきたいです。

webリレー連載という貴重な機会をくださった、藤原友和先生、東洋館出版社様、ありがとうございました。そして、最後まで本記事を読んでくださった皆さん本当にありがとうございます。私は「担任・専科の立場を超えて学び合いたい」という思いからSNSなどの発信を続けています。リレー連載という形で多くの先生方と学び合うことができたことが本当に嬉しいです。

まさやん@グラレコ喫茶のマスター(@succhang55

次回3/15(水)公開では、松本さおり先生の第10章「不登校」についてお伝えします。お楽しみに。