第8回 生徒指導提要を現場の目線で読む

第8回 生徒指導提要を現場の目線で読む - 東洋館出版社

漫画制作:ヤッシー(@84yame1000

第8章について

第8章のテーマは「自殺」。実に多くの要因が複雑に絡み合っている、学校をこえた現代社会における大きな課題の一つです。
私自身も身近に感じる出来事として経験しています。何よりもプロアクティブな働きかけと地域や外部施設との連携が必要なのが、このテーマであると思っています。

私の「現場目線」からみた重要ポイント

皆さんは今まで、「自殺」に関わる相談を受けたり、一瞬でも自分の身近な問題として考えたりしたことがありますか。
たとえ専門家だとしても一人で抱えるには重く、困難な問題である一方で、意外と身近で日常のなかに様々なリスク要因が潜んでいるのがこの問題です。
令和3年度の小中高校生の自殺者数は368人。小中学生だけでは100人を超えています。この数字を読者の皆様はどう捉えるでしょうか。
(文部科学省2022年「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」p.6参照)

わたしが現場目線で見たとき、このテーマの重要なポイントを端的に表すと以下の通りです。

① 繋がる + ② みる・育てる・動く

以下、具体的に解説します。

繋がる

「いきなり“繋がる”!?」と思われたかもしれませんが、未然防止に向けた取り組みと、子どもたちの小さな変化に気づくためには、一人で解決しようとしないことが何よりも大切です。誰と誰が繋がるのかについて、未然防止の観点でも即応的な指導の観点でも、

A 校内の先生方同士が「繋がる」
B 子どもたちや家庭と学校が「繋がる」
C 医療、福祉施設などと当事者、家庭、学校が「繋がる」

ことが挙げられています。
特にCの外部機関との繋がりは、先生方の心的負担の軽減にも、専門的な見解や全国の先行事例を知る上でもとても重要です。
(医療機関、福祉機関との連携・協働やICTを利活用した体制については「生徒指導提要」p.207を参照)

みる・育てる・動く

今回のテーマに限らず、すべての教育活動の基本となるのが、教師自身が「目的意識をもつ」「子どもをみる目を養う」ことだと思います。
生徒指導の目的は、子どもたちが社会の中で自分らしく生きることができる存在へと、自発的・主体的に成長や発達する過程を支えること。そのためには、目には見えない子どもたちの心の部分までみようとする目を養うことが必要不可欠です。
みる観点としては以下が考えられます。

〇 普段の子どもの姿を「みる」
〇 変化や心の動きを「みる」
〇 家庭や友達関係を含めた人との関わり方を「みる」

いずれにしても、点ではなく線でみることが大切です。継続してみることで、深刻な事態が起こる前の予兆といわれる行動に気づくことができます。
「何か、いつもとちがう」ことに気づくことが、未然防止にはとても大切なのです。
(予兆の詳細は「生徒指導提要」p.199を参照)

自殺に追い詰められる心理は人により様々です。負のスパイラルに陥ってしまうと自分ではよりよい判断ができなくなることもあります。よって、当事者を見守ったり相談に乗ったりするだけではなく、周囲の子どもたちも含めて以下の力を「育てる」ことが重要になります。

〇 自分や他者の心の危機に気づく力を「育てる」
〇 相談する力を「育てる」

(「生徒指導提要」p.196を参考に筆者作成)

土台となるのは安心・安全な学校環境です。さらに、①「繋がる」のAを生かしながら、道徳や特別活動、保健体育などの授業を通して、生命尊重や健康保持に関わる学び、人間関係の構築を学ぶ場を定期的にもつことも大切です。
今回の生徒指導提要ではより即時的な対応に繋がる指導として「核となる授業」も提唱しています(上図)。他者や様々な機関と「繋がる」ことの価値を子どもたちにも伝え、社会への接続を意識した内容になっているといえるでしょう。
(自殺の未然防止教育の展開については「生徒指導提要」p.197を参照)
未然防止に力を注いでも、深刻な事態が起こることはあります。自殺の危機に気づいたときの対応TALK(声に出して伝える、尋ねる、傾聴する、安全を確保する。詳細については「生徒指導提要」p.201を参照)も意識し、当事者に寄り添いながら組織的に動き、連鎖を防ぐ行動を取ることが大切です。(具体的な対応については「生徒指導提要」p.204を参照)

〇 「動く」ときも「繋がり」を意識して

「私の現場」で生かすとしたら

細やかで柔軟な対応、個に応じた指導が必要なのは大前提ですが、過去の自分の経験から、最も大切なのは「持続可能であること」と「当事者や周りの子どもたちの心を育てること」だと感じています。
この問題は数ヶ月での一時的な関わりで解決するほど軽くありません。1年、2年、もしかしたらもっと長いスパンで続くかもしれないことを想定し、担任が替わっても異動しても継続できる組織的な指導体制が不可欠です。
当然担任が一人で抱えるべきではありませんし、当事者の子どもや保護者に複数の教員や外部機関が関わりながら、互いに疲弊しない関わりを継続的に行うことが大切だと思います。

また、心のケアを続けるだけでは解決しないことも多いため、当事者の子どもだけではなく、周りの子どもたちの心も育てながら、共に支え合って生きていくことの意味や価値を伝えることも意識して行いたいことです。自らの弱さを受け容れて他者と支え合う、共に手を取り合い生きていこうとする姿勢は、学校生活に限らずこれからの社会で必要な資質です。一人でも多くの人たちが心の危機を回避できる、そんな社会に繋がる教育を、職場の先生方と共に目指していきたいと思います。
そのためにも私自身が、子どものみならず、職場の先生方の強みや心の危機を見抜く目を養うことが必要だと感じています。

おわりに

第8章で特に響いたのは、“専門性は「自分のできないことが何かを知っていること」”という言葉でした(「生徒指導提要」p.202を参照)。
人には必ず強みと弱み、できることとできないことがあります。
一人の万能な人が解決しようとするのではなく、様々な見方や力をもった方々の英知を集結することが、今起こっている問題の解決だけではなく長期的な課題解決に向けた取り組みに繋がると確信しています。
今目の前にいる子どもたちは必ず大人になり、私たちとともに社会をつくる一員となります。子どもを育てることは未来をつくること。人としての弱さに蓋をするのではなく、自らの強みを見出し弱さを受け容れて、行き詰まったときに声を上げられる、上がった声に反応できる。そんな人や社会をつくっていきたいという強い思いを胸に、今日も私は子どもたちと、先生方と共に歩み続けます。

まさやん@グラレコ喫茶のマスター(@succhang55

次回3/10(金)公開では、肥後漱一郎先生が第9章「中途退学」についてお伝えします。