第11回 生徒指導提要を現場の目線で読む

第11回 生徒指導提要を現場の目線で読む - 東洋館出版社

漫画制作:ヤッシー(@84yame1000

私の「現場目線」からみた重要ポイント

4つのトラブルに対応できるシステム構築を!

「生徒指導提要」では、インターネットトラブルについて概ね以下の4つのカテゴリーにまとめられています。

11.2.1 指導・啓発における留意事項

(1) ネットの匿名性・・・ネットいじめ、ネット炎上
(2) ネットの拡散性・・・デジタルタトゥー、リベンジポルノ
(3) ネットいじめ・・・無料通話アプリやSNS、直接的ではない→グループ外し、ガラケー時代よりも深刻→24時間逃げ場がない
(4) ネットの長時間利用・・・SNSや動画視聴の長時間化

(「生徒指導提要」pp.246-247より引用)

学校では、これら4つのトラブルに対応できるシステムを構築していく必要があります。このトラブルに対応するために、まず校務分掌にしっかり位置づけることが大切です。

この際、ついつい生徒指導担当がこの担当を担う流れになりがちですが、これを生徒指導担当一人で担うのは負担が多すぎると考えます。やはり、情報教育担当がキーパーソンとして、学校全体の動きをつくっていきたいところです。

たとえば、次のような形で分担ができると思います。

図1 インターネット対策組織分担例
(「生徒指導提要」pp.247-248をもとに筆者作成)

決して情報教育担当だけに皺寄せがいかないように、複数の人が関わる組織づくりが大切です。イメージとして、新しい仕事を増やすというのは現実的な仕組みではありません。今までやってきたことの一部に加えていきたいです。

たとえばアンケートなら、学校生活アンケートなどのこれまでやってきたものの項目に付け足すだけですみます。児童生徒間の話し合いなら、道徳授業の年間カリキュラムに位置づけたり、情報教育の年間カリキュラムに加えたりすれば作成可能です。

児相談・通報しやすい窓口の設置を!

次にやるべきは、相談窓口の設置です。これについても「生徒指導提要」に次のように示されています。

② インターネット問題の相談・通報窓口

児童生徒がトラブルに巻き込まれた場合、しかるべき大人に早急に相談すること が必要です。インターネットトラブルは、教職員や保護者からは見えにくいので、 児童生徒が自主的に相談・通報できる窓口の設置が不可欠です。また、学級・ホー ムルーム担任や養護教諭等が相談を受けた場合、個人の判断で対応せず、組織的に対応することが求められます。

(「生徒指導提要」p.248より引用)

新しいインターネット専用の相談窓口をどこかに設置するというより、たとえば、どこかの1週間をいじめ等の相談週間として位置づけると効果的です。

そして、担任だけでなく、過去の担任や養護教諭など、自分が相談したい相手を選択できるようにして、相談できる相手を子どもが複数もっている状態をつくってあげたいです。

「私の現場」で生かすとしたら

どのようにしてデジタルシチズンシップ教育を推進していくか

「生徒指導提要」では、インターネットのみならず、「予防」ということに重点が置かれています。だからと言って、教師がルールを押しつけるようなことは求めていません。

子どもたち自身が選択・判断をしていけるような、デジタルシチズンシップ教育がまさに必要とされています。そこで、校内のカリキュラムとして、次のような年間計画案を作成しました。

図2 「生徒指導提要」を踏まえた情報教育年間計画(試案)
(「生徒指導提要」pp.240-254をもとに作成)

道徳の授業と関連しながら、デジタルシチズンシップ教育を推進していくとよいでしょう。新しいものを加えていくビルド的なアプローチではなく、今あるものの中で、関連したものがないのか考えることが大切だと思います。推進する上で、尼崎市立教育センターがデジタルシチズンシップの関連サイトをまとめてくださっています。(尼崎市立教育総合センター「情報モラル教育 / デジタル・シティズンシップ教育の支援サイト」)

このようなサイトを有効活用しながら、子どもたちに適切に情報技術を使いこなしていける力を育てたいです。

また、予防的な側面として「生徒指導提要」では、児童会や生徒会で取り組む未然防止についても触れられています。

児童会や生徒会の活動の一環として、学校内でのタブレット端末の使い方やインターネット利用について、子ども同士が対話するような時間を設けることは大切だと考えます。

しっかりとした合意形成のもと、子どもたち自身がインターネットの正しい付き合い方を決めていくことが、デジタルシチズンシップ教育においても重要です。

その一方で、こういった予防的な側面を重視しながらも、インターネットトラブル0ということは決してないと思います。

むしろ、トラブルがある前提で、組織としての動きも決めておきたいです。

これについては、インターネットだけでなく、通常のいじめ対策同様に、早期発見や迅速かつ適切な対処の仕組みを学校として明文化しておきます。明文化した上で、学校だけがそれらを理解するのではなく、保護者にもそのことを伝えておきたいです。

これは、インターネットでのトラブルの多くが、学校外で起こるからです。学校外でのトラブルを発見する際、学校だけの力では不十分だからこそ、家庭との連携、地域・行政との連携を意識して、早期発見へのプロセスも共有しておく方がよいでしょう。

「連携」が改訂された「生徒指導提要」のキーワードだからこそ、それを絵に描いた餅にしないように、システムにしておきたいです。

おわりに

予防的な側面がしっかりしていることは望ましいです。しかし、これが行き過ぎた結果、学校内でのタブレット端末の使い方のルールが厳しくなり、本来のタブレット活用のよさが失われていっては意味がないと思います。

実際、いくつかの学校では、ルールを増やし過ぎた結果、タブレットが使いづらいものになってしまい、使用頻度が極端に下がっている事例も出てきています。

いつの時代も新しい道具は発明され使われてきました。どんな道具もいつだって使う側が間違えば、戦争や悲劇を生みます。これはタブレットも同じです。正しい使い方を子どもたち自身が選択・判断できるように、子どもたちと一緒に考えていきたいです。

そして、まったくの無菌状態を求めるのではなく、失敗からどうしていくべきか、子どもたち自身に考える時間をしっかり与えていきたいと考えています。この考える過程こそが、子どもたちを成長させていくのではないでしょうか。

教師や保護者からすればインターネットの問題は、想像がつかず怖い側面もあります。だからこそ、私たち大人が積極的にインターネットを活用し、そのマイナス面だけでなく、プラスの面にも触れていく必要性を感じています。大人のデジタルシチズンシップが、今まさに求められているのです。

グラレコ:山本晃佑(@koussssssst3

次回3/22(水)公開では、中村優輝先生の第12章「性に関する課題」についてお伝えします。