漫画制作:ヤッシー(@84yame1000)
第12章について
「生徒指導提要」第12章には、以下の4点について記されています。
〇性犯罪・性暴力対策の強化の方針
〇性に関する課題の早期発見・対応
〇性犯罪・性暴力に関する生徒指導の重層的支援構造
〇「性的マイノリティ」に関する課題と対応
学校は、性に関する課題について、早期発見、そして事態を深刻化させない迅速な対応を行うことが必要です。その際、担任一人ではなく、管理職、養護教諭、生徒指導部などチームとして取組を進めることが大切になります。性に関する課題も「発達支持的生徒指導」「課題予防的生徒指導が重要であることは言うまでもありませんが、私たち教員に「何ができるのか」「どこまで踏み込んでもよいのか」など悩ましいところでもあります。
本稿では、特に「『性的マイノリティ』に関する課題と対応」について私の経験を踏まえ、記していきます。なお、個人のプライバシー保護のため、事実を一部変更して記しています。
私の「現場目線」からみた重要ポイント
「あの子は、元気にしているかなぁ。今、どんな日々を過ごしているのだろう」
これが、私が第12章を初めて読んだときの感想です。
その子の性に関する課題がはっきりと見える前より、本人と保護者、そして担任を中心として学校全体で話し合い、動き出しました。具体的には以下の通りです。
〇着用する制服について
→男女関係なく、ズボンやスカートの着用を認める
〇使用するトイレについて
→多目的トイレを使用する
〇着替えが必要な際の着替える場所について
→養護教諭の付き添いを中心とした、別室での着替えを行う
この3点は、比較的順調に進みました。しかし、学年が上がるにつれて、別の課題が出てきました。それは
「周りの子どもたちへどのように説明していくか」
です。それは周りの子どもたちから、今までは見えていなかった「どうしてあの子は…?」といった疑問が出てきたからです。
学校として効果的な対応を進めるためには、教職員間で情報共有し組織で対応することは欠かせないことから、当事者である児童生徒やその保護者に対し、情報を共有する意図を十分に説明・相談し理解を得る働きかけも忘れてはなりません。
(「生徒指導提要」p.265より引用)
私たち学校は、上記の考えより、
〇周りの子どもたちへどのように説明するのか
〇今後、想定される課題について
保護者の方と何度も相談しました。
この経験を通して「教師である前に一人の人間として、私たちにできることはないか」と綺麗事ではなく本気で向き合うことの大切さに改めて気がつきました。それこそが、私にとっての重要ポイントです。無論、そのような姿勢を見せればよいということではありません。校内だけでなく、外部機関との連携を図ることも大切です。文献から学ぶことも大切です。様々な知識を身につけながら、児童と保護者と共に考えていく。そうすることが「私たちと一緒に考えていきましょう」というメッセージを発信することになるのではないでしょうか。
そして、もう一つ。もし、あの子と出会っていなければ、この課題に本気で向き合うことができていなかったかもしれません。この性に関する課題は、学校側が気づいていない「本当は悩んでいるが、言い出すことができずに長く苦しんでいる子」がいる可能性があります。そのことに気がつくことも私にとって重要ポイントです。こんな悩みをもっている子がいるから課題に向き合うのではなく、すべての児童生徒が安心できる環境をつくることが大切になっていきます。
(「生徒指導提要」第12章 性に関する課題 pp.255-267をもとに筆者作成)
私の現場で生かすとしたら
どのように現場で生かしていくのかについて考えてみました。昨年12月に改訂された「生徒指導提要」を読むこと。文献を読むこと。研修に参加し、学ぶこと。つまり知識を身につけ、それを還元することも大切です。ですが、その前にもっと大切なことがあるはずです。それは、校内全員が課題に向き合い始めること。本気で考えること。校内全員が考え始めるスタートラインに立つことこそが「現場で生かす」ための大きな第一歩になると考えます。
特に、制服登校の学校であれば、服装をどうするのか。体操服に着替える際、どこで着替えるのか。どこのトイレを使うのか。トイレを使用する時間帯を他の児童生徒とずらすのか。修学旅行で宿泊を伴う際、部屋をどうするのかなど、校内全員で考えていく必要があることがたくさんあります。仮に取り組んだとしても、表面的な支援では意味がないでしょう。
たとえば、職員会議で服装について話し合い、自認する性別の制服の着用を認めたとします。そして、それを児童生徒、また手紙などを通して保護者に周知したとします。しかし、他の児童生徒の理解がなければ、冷やかしやからかいが起きるかもしれません。もし「やっと自分らしい服装で登校することができる」「不安だけど勇気をもって学校に行こう」と考えていたのに、学校に着くとクラスメートから「何、あの子…」「あまり話しかけないようにしよう」という事態になったとしたら……と想像するだけで、心が苦しくなります。
先ほども記したように、学校だけでなく、保護者や外部機関との連携を図ることも大切です。しかし、なかなか難しい課題であることも事実です。学校だけでなく社会全体の課題でもあるからです。SDGsの目標5に『ジェンダー平等を実現しよう』とあることから、日本だけでなく世界の課題でもあることがわかります。実現することは容易ではありません。それでもスタートラインに立ち、校内全員で考え始める。そして全員で走り始める。短距離のようにすぐにゴールがあるわけではありません。長距離のようにゴールを長く見据える必要があります。いえ、ゴールなんてそもそもないのかもしれません。一人でも多くの子を救うために走り続けることが、今の私にできることだと考えています。
おわりに
第12章に限らずですが、昨年12月に改訂された「生徒指導提要」を読むことで、生徒指導のベースとなるたくさんの学びがありました。木に例えるとするならば、枝葉ではなく幹の部分について学ぶことができたと感じています。後は、学んだことをどのように実践していくのか。それは、目の前の子どもたちによっても変わるでしょう。発達の段階によっても変わるでしょう。先生方の大切にしている教育観によっても変わるでしょう。しかし、自分の指導の軸となる部分に関して、「生徒指導提要」を通して再確認することができたのは、きっと私だけではないと思います。
今回、執筆の機会をくださった、藤原友和先生、東洋館出版社様ありがとうございました。そして最後まで記事を読んでくださった皆様、ありがとうございました。次回は、いよいよ最後のリレー連載になります。よろしければ次回以降に、第1章から連載を読み返していきませんか。きっと、新たな発見やつながりが見えてくると思います。私は、一気読みします!
グラレコ:山本晃佑(@koussssssst3)
次回3/24(金)公開では、吉野嵩史先生の第13章「多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導」についてお伝えします。