初任の先生に薦めたい2学期読書5選

執筆者: 小谷宗

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初任の先生にとって1学期は、怒涛の日々だったかもしれません。毎日の授業準備や大きな学校行事、突然起こる学級内のトラブルなどで、自己を振り返る時間や読書でアップデートする時間をあまり取れなかったのではないでしょうか。

私自身も、初任の頃を振り返ると、あまり読書をする時間は取れませんでした。「1日数ページでもいいから読書をしよう」と低いハードルを設定していても、学校で起こる出来事は初めてのことばかりで、体力も気力もどちらも使い果たし、ヘトヘトのようになって帰宅する毎日であったので、読書にまで手が回りませんでした。

もしかしたら夏休みを活用して読書に励んだ先生もいるかもしれませんが、私は「読書の秋」と言われるように、秋読書をおすすめします。4月から新しいクラスを持ち始めて、半年近くが経とうとしています。つまり折り返しの時期です。この時期に、子どもとの関わり方やクラスの作り方などを振り返っておくことが大切です。ただ、振り返ると言っても、視点がなければ難しいです。今回紹介する5冊の本を読むことで、全国で活躍する先生方の教師観や子どもとの関わり方、活動の意味など、多くの視点を得ることができます。「自分はこんな時どうしていたかな?」「こんな言葉かけをしたらいいのか」「あっこれは言わない方がよかったな」そうやって、振り返ることで、2学期の子どもとの関わり方やクラスづくりをより良いものにしていけることでしょう。

読書が苦手だった私でも「読みやすい」と感じた、教師の在り方や指導の仕方など、自分を振り返るためにおすすめの5冊を紹介します。 

小谷宗

小谷宗(こたに・たかし)

1994年生まれ・教師歴7年目

田辺市立公立学校教諭

初任時代の私は、「〜しなさい」「〜するよ」と言葉で伝えて、その通りに動いてくれない子どもたちの姿を見て、困っていました。当時の主任の先生にも「きっとクラスの子どもは試し行動をしています。言うことを聞かない時の私の反応を見ているんです。どうしたらいいですか。」と悩みを相談したこともありました。

田中博史先生は、子どもが言うことを聞いてくれないのは、子どもの心を知っていないからと述べています。大切なのは、子どもが動きたくなるような場を作ることであると。「仕掛けて、待って、待って、子どもが動き出したらほんの少し背中を押す」この言葉が、初任時代の私にとって衝撃でした。言葉だけの安易な働きかけでなく、子どもが動きたくなるような仕掛けが必要なのだと反省しました。この本には、そんな魅力的な仕掛けがたくさん載っています。教師の思い通りに動かすという教師都合では一切なく、子どものことを一番に考え、温かく関わり続けている田中博史先生の学級経営をぜひ覗いてみてください。

この本は、プロ教師になるための46のメッセージが書かれています。良かれと思ってしていたこと、当たり前のようにしていたことが、実は子どもを傷つけたり、困らせたりしていたことに、この本を読むことで気づくことができました。

初任時代にとにかく多発していた言葉が「他に」です。授業でも学級会でも、出てきてほしい答えが出ない時に「他に考えがある人?」と尋ねていました。教師から答えを言うよりも、子どもたちから引き出した方がいいという考えのもと、「他には?」「他にある?」と言い続けていました。この言葉を言い続けると、子どもが「先生は何を言って欲しいんだろう?」と教師の求める答え探しをし始めてしまいます。忖度するような子どもを育ててしまっていることを、この本のおかげで気づくことができました。

先生という仕事は、常に、多くある選択肢の中から咄嗟に一つの選択肢を選んで、行動に移します。「こうなってほしい」という願いからその判断の行動をしていくわけですが、実はその行動によってマイナスな方へと子どもを導いているかもしれません。樋口万太郎先生の46のメッセージを受け取りながら、1学期を振り返ってみてください。

盛山隆雄先生は、卒業した後でも1:1でお付き合いができる関係、大人同士として向き合える教育をしたいとおっしゃっています。そういう関係をつくるための「いま」になっているか、という視点はとても刺激となりました。

教師は子どもにとって、成績をつける人・教室のリーダー・何かあったら保護者に言われる・唯一頼れる大人、どうしても子どもよりも強い立場でいることになります。そんな権威のようなものを取っ払った時に、つまり卒業した後でも、子どもたちが教師のもとへ戻って来たくなるような関係づくりをしていこうと提案している一冊です。

確かに、私も初任の頃は、こういった権威に頼っていた部分が多くありました。そのため、「謝ることはその権威を落とすことになる」という考えにもなり、私の口から「先生が悪かった」ということはあまりなかったです。今思い返すと、初任の頃の私なんて謝ることだらけなのですが。

第1章の「クラスづくりの土台となる考え」は、初任者の先生にとっては、担任の在り方を学ぶ教科書のような存在になるかと思います。また、在り方だけでなく、どうすればいいのかの具体的な行動も第2章以降に書かれています。1年目の間に、教師の土台となる部分を強く大きく固められるように、この本を熟読してみてください。

土居正博先生は、自身の失敗から導き出した避けるべき6つの思考(①他責思考②手段の目的化思考③「横並び・安定・事なかれ」思考④極論思考⑤無自己分析思考⑥学校内価値過大視思考)をNG思考と名付け、本著で紹介しています。

私はこの本を読んで、他責思考によって教師としての自分を無理に肯定していたことに気づきました。初任時代、授業では「挙手・発表」にこだわっていました。クラスのみんなが手を上げて、ハイハイと勢いよく発表しようとしている姿、自信を持ってみんなの前で説明している姿を理想として捉えていました。そんな中、授業ではかなり意欲的で活発なのに、テストになったらなかなか点数が取れない子どもが数人いました。その時私は「やっぱりAさんは、勉強が苦手なんだな」と、Aさんに原因があると考えていたのです。この本を読んで、「子どものせいにしてはいけない。自分の授業を見直さないといけない。」と考えるようになりました。

この本を読んでいると、教師の意図なく、なんとなくやっていることの多くがNG思考から生じるNG行動であることに気づきました。不正解をこんなにも学べる本はなかなかないと思います。この本を読みながら、「だったら自分はどうしよう?」と考えてみてください。

初任の多くの先生が、子どもに出会う前の4月の春休みに、学級開きについて考えたと思います。私は初任時代の頃、「子どもと初めての出会いだから、最初の1日が大事」と第一印象を気にして、学級開きについて考えていました。

著者である阿部真也先生は、「初頭効果」という心理キーワードで、学級開きの大切さを説明しています。初頭効果とは、最初の印象が相手にとって強く残る心理効果のことです。強く印象に残るからこそ、「こんなクラスを作りたい!」という教師の願いだったり、「こんなことをしてはいけないんだよ!」といういじめ防止の思いだったりを語るのだと、学級開きで行うことの意味を知ることができました。

本著では、初頭効果のような心理キーワードを全部で46紹介しています。心理学を知ることで、1つ1つの教育活動を、意味を持って行うことができます。例えば、褒めることについてもいくつか心理キーワードが掲載されています。私自身、ウィンザー効果や漏れ聞き効果は、子どものいいところを伝える時に意図的に行うことがあります。こんな方法で子どもに伝えたらいいのかと伝える手段が増えました。

初任の先生にとって、自分の選択肢が増え、そしてその選択肢に教育的な意味を見出せる学び多い一冊になると思います。