画家インタビュー
シュタイナーのぬらし絵や手仕事教室、書道などのワークショップを全国各地で開催しているとしくらさん。淡い光に満ちた温かな絵柄そのままの、優しい微笑みとたたずまいの方である。
驚いたことに、としくらさんとかわかみさんは、直接会ったことはなく、メールや電話でのやりとりでここまでの物語を完成させたという。それでも、お二人のこの物語への思いやお話には共通点がとても多いと感じた。天使ちゃんがどのように生まれたのか、現在の心境などを語っていただいた。
—— 最初に、かわかみさんから、絵を描いて欲しいとお願いされたとき、どう思われましたか。
かわかみさんとは、Facebookで姉の友達とつながっていた関係で、私にも友達申請してくださっていて、そちらではつながっていたんです。
それで、私が出版した本のことをFacebookで紹介したらすぐに買って下さって、そのあとはわりとすぐに、自分も物語を書いていて、絵を付けてほしいという話がきたんです。
私の本の絵を見たときに、自分の本に絵を付けてくれるのはとしくらさんしかいないと思って下さったそうで。私も、かわかみさんがときどきFacebookで詩や物語を投稿されているのを読んでいて、それを読むと、とても心の温かな人だなぁ、大人になると忘れてしまうようなピュアな心を持った人だなぁと感じていたので、まだお会いしたことがなかったんですけど、まずはその物語を読ませてくださいってことになったんです。
それで、読ませていただいて、イメージのすりあわせや画材など細かい打ち合わせをするためにお電話をしました。そのとき初めて声を聞いた感じです(笑)
—— 制作はどのように進めたのですか?
物語を読んだとき、これは片手間ではなく一気に描いてしまいたいという思いがわき出て、パステルで描いたんですけど、その粉の中に浸りこんで1ヶ月くらいで描いたという感じでしたね。
お話を読んだときに浮かんできた景色や天使ちゃんの顔なんかが鮮明なうちに描きたいという思いで集中して描きました。
ラフスケッチはわりとすぐに描いて、スキャンしてメールでお送りしたらすぐに「それでお願いします!」と返事がきて、そのまま描き深めたという感じです。
私の絵の描き方って、輪郭線を描かないんです。パステルを削って粉にして、羊毛でこすったり、紙になすりつけたり、細かいところは指で描いたり、散らしてみたり、色を置いていって、重ねるなかに浮かび上がってくるんです。細い線は描かないんですね。
お母さんの温かい幸せな心を感じたら桃色の粉をぱぁっとふりかけてみて、そうするとそこからぼんやりお母さんの形が出てきたりとか、天使ちゃんが空にいるときは、まわりの空や雲を描いているうちに天使が浮かび上がってきたんです。
以前描いた本の挿絵でも、希望のページを描きたいと思ったら、まずは黄色のパステルの粉をふって、その光の色に助けられて描いていったんです。形がはっきりしていなくても、色があるだけでさまざまに感じられるような、そんなふうに、色には力があると思っています。
—— 最初に本になったとき、どう思われましたか?
描き終わったあと、本になるまでに少し時間がありました。だから、地元の印刷所で本にすることになりましたって話をうかがったときは、待ち望んでいた赤ちゃんがようやく来てくれたような、ようやく生まれるんだなという思いになりました。
私は、今までの作品はみんなそうなのですが、描き終わって校了になると、もう自分のものって感覚が薄れるというか、自分の手を離れていく感覚があるんですよ。だから、私のものであって、私だけの作品ではないし、不思議な感覚です。もう2度と同じものは描けないし、できあがった瞬間にひとつの作品として生まれて巣立ったという感じですね。
—— 『ちいさな天使のものがたり』は、どのような物語だと感じますか?
単に慰めとか、励ましというような簡単な言葉ではなくて、この本を読むことで、自分自身で希望を生み出すことができる物語だと思います。
私も結婚してすぐにはなかなか赤ちゃんができなかった時期があったんです。悩んだり、泣いてばかりだったり、身近な人に赤ちゃんができるととても複雑な思いにとらわれたり。そういう辛い時期を、最初に読んだときは思い出しました。この本ができてFacebookなどで紹介したとき、そういう思いをした人から「買いたい」という話をたくさんいただいて、想像以上に、辛い思いをされた方っていっぱいいるんだなと。
それに、赤ちゃんはお母さんを選んで生まれてくるってよく聞きますよね。本当にそうなんだって思えますよね。胎内記憶って言葉もあるけど、私の次男も「お兄ちゃんといっしょにいたよ。ママは歌ってたよ」って話してくれたことも思い出して、本当に子どもって天使だったんだなと自然に思えました。かわかみさんは男の人だけど、天使のメッセージを伝えに来た人なのかしらと思いました。
それから、私自身の個人的な話ですが、東日本大震災のあと、息子達のために京都に引っ越したんです。でも、私自身、親しい仲間や家族と離れることが寂しかったり辛かったりで、息子達もうまくなじめなかったりして、とても苦しい時期を過ごしていたんです。
その時、寄り添ってくれた人が、ただ慰めるのではなくて、気持ちをわかってくれたうえで「悲しむことは悪いことじゃない。でも泣いた後に、それを何か別の形に表現していったら、かけがえのないものになるから」と言ってくれて。それで、たくさんの絵を描いてFacebookで発表したらすごく反響もあって。
そんなときに『ちいさな天使のものがたり』の話をいただいて、無心で描いているうちに感情が違う形になっていくのを感じたんです。苦しい感情が浄化されて、天使ちゃんの存在になって帰ってきてくれたんだ、寄り添ってくれるんだと感じながら描きましたね。悲しみや辛さは一通りではないけれど、読む人によってつながるんだなと感じました。
そして、苦しかったときに寄り添ってくれた人にどうやってお礼をしたらいいんだろうっていつも思っていたのだけれど、その人自身に返さなくてもいいんだって思えて、この本を通じて社会に返せているのかなと感じました。だから、この物語と出会わせてくれたこと、かわかみさんには私も感謝しています。
—— 読者へのメッセージ
世の中が冷たい感じになっていて、相手がどんな気持ちで今いるかとか、こうしたらどんな気持ちになるかとか考えられない、想像力がない世の中になりがちですよね。だから、子育てしていても、まわりの目を気にしたり、本音を言えずに抱えこんだりしてしまう。
逆に、相手にしてみれば、本音を言ってくれないから「何を考えているのかわからない」みたいな悪循環になっているところもあって。昔は隣近所で自然に助け合える仲だったし、親に怒られている子どもを隣のおばあちゃんが慰めたり、電車で泣いている子どもを近くの席の人があやしたりってことがありましたが、今は「うちのことに関わらないでください」「他人は他人」が強くて本当に閉鎖的だと思います。
だから、この本を読んで、悲しい思いをしている人に心を寄せたり、誰かを支えたいと思ったり、そうやってまわりの人のことを考えるきっかけになってほしいなと思っています。それに、辛い気持ちをもっている人も、それを抱え込まず、今苦しくて助けてほしいなら助けてほしい、ほっといてほしいならほっといてと、素直に口に出したらいいと思います。
そうやって心を開くと、相手も心を開いて、それなら自分はどうしようと想像力を働かせてくれると思うんです。