子どもも先生も楽しい授業を創る! ~算数の大先生の考えを授業でどう生かしているか!?な5冊~
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毎日授業がある、算数。
成否がはっきりとしているため、苦手意識をもっている子も少なくありません。
また、テストの点数がプレッシャーとなり、楽しく授業できていない先生もいるかもしれません。
算数の授業を、子どもも先生も楽しい授業にしていきたいですね。
今回は、「算数の大先生の考えを授業でどう生かしているか!?な5冊」を紹介します。
紹介するのは、算数の大先生である、山本良和先生、盛山隆雄先生、樋口万太郎先生、尾﨑正彦先生、森本隆史先生の5名の著書です。
この5冊には、算数をよい授業にする様々な視点が書かれています。
算数を専門にする先生が、どのように大先生方の視点を生かして授業しているのかを実際の授業をもとに検証してみようと思います。
協力してくれたのは、山口大学教育学部附属山口小学校の算数部の有村竜希先生。
小学校2年生「かけ算っていいね」の授業です。
☆指導案:「かけ算っていいね」(授業者:山口大学教育学部附属山口小学校 有村竜希先生)
規則的に並べられた丸の総数の求め方を考え、一つ分の大きさに着目しながら、乗法の式に表したり、読み取ったりしていきます。
乗法に関して成り立つ性質を見いだし、活用して計算を工夫することを目指す授業です。(詳しくは、上記のリンクから指導案をご覧ください)
検証することは有村先生には言わずに、授業をしてもらい、参観させていただきました。
有村先生の「かけ算っていいね」の授業を算数の5人の大先生方の授業づくりの視点で分析しながら、書籍を紹介していきます。
子どもに問いが生まれなければ主体性は生まれない
著者は、関西大学初等部教諭の尾﨑正彦先生です。
尾﨑先生は、この本の序章で、算数の多くの授業が授業のスタートと同時に、教師からめあてが示される形式になっていることを指摘しています。
めあては、本来子どもの問いでなければいけない。それにも関わらず、多くの教室では子どもの問いがめあてとして提示されていない。そこに提示されているのは、教師の授業のねらいそのものである。1時間の授業のねらいそのものを、そのまま板書でめあてとして提示するのは、授業のプロとしての教師が行うことではない。
尾﨑先生は、この本の中で、子どもが問いを感じ、主体的に動き出す授業づくりのポイントを13の視点で説明しています。
子どもに問いをもたせる 教材研究の4つのポイント |
子どもが自然と問い出す 教材に仕込む5つのギャップ |
子どもの問いを引き出す 授業展開の4つのアプローチ |
1 教科書教材のねらいを探る |
5 友だちとの考えのズレ |
10 真偽を問う |
2 1時間単位ではなく単元全体で捉える |
6 教科書と子どものズレ |
11 同じと思わせる |
3 別の教科書と比較する |
7 予想とのズレ |
12 子どもに任せる |
4 教育書籍を参考にする |
8 感覚とのズレ |
13 できないと思わせる |
9 既習とのズレ |
私は、この本を読んでギクッとしました。正直、めあてから入る授業をしていることも多かったからです。子どもたちが問いをもち、自分たちで解決をしたくなるような授業を目指していきたいです。
【有村先生の授業では…?】
有村先生は、授業の導入で、規則的に並べられた丸の図を示します。
しかし、ただ提示するのではなく、見せるのは一瞬です。子どもたちは自然と、パッと見て数を判断しなければならないため、丸の数をまとまりで捉えようとします。
「5のまとまりが見えた!」「4のまとまりだ!」などと、子どもたちが口々に発言します。
すると、ある子が、「なんだかおもしろい。」と、つぶやきます。あまりにも一人一人が違うまとまりで捉えているからでしょう。
また、ある子は、大発見をしたように、「待って!これきまりある!きまりあったんだけど!」と言います。
また、ある子は「式で表すと…」と、考え出します。
示したのは図だけです。しかし、友だちとの考えのズレが生まれるように提示することで、「きまりを見つけよう」や「式に表そう」などとめあてを示さなくとも、子どもたちが自然と問いを生み、めあてをつくっていきました。
数学的な見方・考え方の具体は、「整理整頓の視点・方法」
著者は、この本が出版された当時は筑波大学附属小学校の主幹教諭で、現在は昭和学院小学校の校長をお務めになっている山本良和先生です。
山本先生は、算数授業の意味は、子どもたちにとって、「未知」と出合い、乗り越える経験だと述べています。
目の前にある「未知」に対応するために必ず対象に対して「整理整頓する」という行為を働かせます。言わばこれが学習指導要領の文言「数学的な見方・考え方を働かせ」の具体だということです。
山本先生は、この本の中で整理整頓の思考法として7つに整理しています。
①整理整頓する目的を明確にする
②整理整頓する対象を定める
③整理整頓する上での条件を確認する
④整理整頓する観点を決める
⑤整理整頓する順番に着目する
⑥整理整頓の方法による違いを検討する
⑦整理整頓した結果をもとの状態と比べる
この本を読んで、毎日の算数授業を子どもたちが未知を整理整頓によって乗り越えているんだと思うことができたら、子どもも先生も楽しい授業になると思いました。
【有村先生の授業では…?】
有村先生の授業では、子どもたちは規則的に並べられた丸の図に線を引き、整理整頓して、自分の考えた数のまとまりを表現していきます。
「もし、2ずつのまとまりだったら…」
「もし、5ずつにまとめたら…」
と、整理整頓の方法による違いを検討していきました。
子どもに寄り添う授業にするためには、子どもの表現ありきの発問が重要!
著者は、筑波大学附属小学校の盛山隆雄先生です。
この本では、発問を新規の発問、問い返し発問の2つに分類しています。
○新規の発問
教師の発問した時点から子どもが問われた事柄について新規に考えるような発問。子どもに新しい問題を出すような意味がある。
○問い返しの発問
子どもの呟き、発言、動作、記述などの様々な表現に対して、その意味や根拠、よさを問う発問。応用として、子どもの表現に対して、反論したり、別の案を出したりして、子どもの思考を揺さぶり、新たな見方や思考を引き出すために行われる発問。
盛山先生は、この発問の中でも子どもの表現に対して返す発問である問い返し発問をこの本で提案しています。
授業がうまい人はこの発問を自然と使いこなし、子どもの思考に寄り添って授業を展開していると考えられています。
私も問い返し発問を大事にして授業をしています。私の研究する道徳は対話を重視し、問い返し発問を大事にしているので、自然とその感覚になりました。この本を読み、発問についての理解が深まりました。
【有村先生の授業では…?】
子どもが表した丸を2つずつ囲った図をもとに、何に困っているかを共有して、1つの丸が囲えていないことを確認しました。
そして、「かけ算の式にできますか?」と、図から式へと別の表現で考えることを促しました。さらに、「2×24+1」という式に対して、「どういうこと?」や「一つの式にしたいと言っている人がいるけどどうまとめればよいのかな?」と問い返し発問によって、子どもに寄り添いながら授業を展開していきました。
ここ一番のセリフもっていますか!?たった7つのセリフで算数授業は変わる!
著者は、出版当初は京都教育大学附属桃山小学校教諭で、現在は香里ヌヴェール学院小学校教諭兼研究員の樋口万太郎先生です。
樋口先生は、「子供に力がつくなら何でもいい!」をモットーに、算数だけでなく様々なジャンルの教育書を書かれています。
樋口先生は、授業の終盤、それぞれの考えを検討する段階で、「は・か・せ(はやく・かんたん・せいかくに)」を形式的に聞いている授業が増えていることを指摘しています。
授業で働かせた数学的な見方・考え方や既習をもとに考えたことを、子ども自身が改めて気付き、実感し、学びを深めるために、授業の終盤で「は・か・せ」をいつも聞けばよいというはずがありません。
樋口先生は、この本で「学びを深める決めゼリフ」として、7点提案しています。
(1)「○○(大切な・わかった)ことは何?」
(2)「早く・簡単に考えることができそうなのはどれ?」
(3)「それぞれのよさは何かな?」
(4)「どんなときでも使えるのはどれ?」
(5)「もし○○でも大切にしたいことは何?」
(6)「同じ(共通している)・違うところは何?」
(7)「これまでの学習と似ている(違う)ところは何?」
決めゼリフは、問題や場面に合わせて使う必要があります。この本では、左ページに問題の状況と「さぁ、なんて言いますか?」と投げかけられ、右ページに万太郎先生がなんと言ったかが書かれており、クイズ形式で考えることができます。
私は、「は・か・せ」自体あまり使うことなく、ここまできました。
この本で言うところの(1)の「○○(大切な・わかった)ことは何?」ばかりを聞いて、まとめに向かっているように気がします。
授業終盤の決めゼリフというものを意識したことがなかったので、7つのバリエーションをもって、授業を決めていきたいです。
【有村先生の授業では…?】
有村先生は、丸の図にかいたまとめ方、考え方を式にしたり考え方を話し合ったりした後に、簡単な式で求められる図と考え方を選ばせました。そして、「なぜ、簡単な式に出来たのだろう?」「みんなにとって、一番よい(簡単)なのは、どれ?」ということを問いかけています。
セリフとしては少し違いますが、樋口先生の決めゼリフの(2)「早く・簡単に考えることができそうなのはどれ?」の考え方と同じです。
子どもたちは、「形を変えてまとまりをみつけたから。」、「形が一緒になりまとまりが見えやすい並び方になっている。」と、よりよい丸の総数の求め方を考え、一つ分の大きさに注目して、かけ算の式にすることができていました。
授業は子どもたちが主役!
著者は、筑波大学附属小学校の森本隆史先生です。
森本先生は、言葉に注目して、算数の授業を子どもたちと創っていくことを大事にされています。
教師の言葉やかかわり方によって、算数授業は大きく変わります。
教師主導の型の授業を子どもたちが笑顔になる授業に変えるために、1章では「かかわり方を変える」、2章では「授業の型を変える」、3章では「教材を変える」、4章では「展開を変える」について書かれています。
私が特に心に残ったのは、1章に書かれている「「困っている子ども」を大切にしていく」と「子どもの「わからない」という言葉を引き出そうとしてみる」です。
どうしても、困っていることやわからないことを教師や友達に言うことができずに、そのままにしてしまう子は少なくありません。
私はよく子どもたちにこのように語ります。
「わからないことをわかるように、できないことをできるようにするのが学校という場所です。なので、わからないことは恥ずかしいことではありません。だけど、わからないことをごまかしたり、わからないままにしたりしておくことは、自分だったらカッコ悪いって思います。」
「わかりましたか?」に反応するのは、わかっている子です。「わからない人いませんか?」、「困っていませんか?」などと問いかけ、わからないことや、困っていることを素直に言いやすい雰囲気をつくっていきたいです。
子どもに問いを生むことも、整理整頓の思考法も、発問も、教師の決めゼリフもただ言えばいいということではなく、子どももとのかかわりの中で効果が生まれます。
この本には、授業での子どもとのかかわり方のポイントがたくさん書かれています。算数だけでなく、様々な教科や領域の授業で生かせます。
【有村先生の授業では…?】
有村先生は、子どもとのかかわりが、とてもすてきな先生です。毎年、有村先生のクラスの子たちはのびのびと自分の考えを話しています。
この授業でもさすがだなと、思う場面がありました。
それは、丸の図のかかれたプリントで自力解決をしていた時でした。
ある子が、「わからない!」と言いました。
それに対して、有村先生は、「今、わからないと言ってくれたのは誰?」と、言いました。
この言葉から有村先生は、心の底から、子どものわからない、困ったを大事にしたいと思っていると感じました。
教師の姿勢は、言葉として表れます。
私も言葉にこだわり、子どもとのかかわりを豊かにしていきたいと思いました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
5冊の本を視点に、有村先生の授業を観ることで、具体的な姿が見えてきました。
そして、全ての本のコツを網羅して授業するなんて、さすが有村先生です。
私ももっともっと、楽しい算数の授業ができるように頑張っていきたいです!
有村先生、ご協力ありがとうございました!