学び続けたい先生に捧ぐ本5選

執筆者: 長田柊香

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私は今年で教員7年目になります。教師になったきっかけは、憧れの先生がいたことや、子どもと関わることが好きだったことですが、実際に教師になり、また違った「よさ」を見つけることができました。それは、学び続けることの楽しさです。正直、私は勉強が得意ではないし、勉強大好き人間でもありません。しかし、校内の先生と語り合ったり研修会で学んだりすると、とてもワクワクします。それは、「そんな考え方もあったのか」と新たな発見があったり、「今度はこんな授業をしてみたい」とアイデアが浮かんだりするからです。

 

このページをご覧になっている方は、きっと私と同じように学ぶことが楽しいと感じている方が多いと思います。今回はそんな、「学び続けたい」と思っている先生におすすめの本を5つ選んでみました。

長田柊香

長田柊香(ながた・しゅうか)

勤務校:成城学園初等学校

主に低学年担任と国語科専科を経験し、現在は3年生の担任。教育サークル「Kyoso’s」所属。「困った場面をズバリ解決!指導術」「誰にでもできる!オンライン学級のつくり方」等の編著に携わる。

授業の見方』や『授業づくりの設計図』(ともに東洋館出版社)の著者である澤井陽介先生の1冊です。教師が学ぶとはどのようなことなのかということを、

  1. 子供の実態から「学ぶ」
  2. 授業の本質から「学ぶ」
  3. 研究を通して学びを「深める」

という3つのパートから解説しています。私はこの本を読んで、この3つは密接に繋がっていると感じました。子供たちの実態を理解することは、子供たち主体の授業へと繋がります。そして、他の先生と共に研究することで、子供理解や授業改善へと繋がります。つまり、“教育”という仕事は一人の力では成し遂げられないのです。特に、3つの中でも1番初めに書かれているように、子供たちから学ぶ(学ぼうとする)ことが大切なのではないでしょうか。子供たちの声に耳を傾け、共に創っていくという心構えを常に持ち続けたいと思いました。


また、目の前の子供だけでなく、日本の子供という広い視点で子供を見ることも大切です。この本では、OECDの調査結果から、日本の子供たちは「対話的な学習」が苦手だということが書かれていました。日本の子供たちに馴染む対話についても触れられていたので、授業を見直すきっかけにしたいと思いました。


若手の先生にはもちろんのこと、これから学校の中軸になる中堅の先生、そして学校をリードしているベテランの先生にも読んでいただきたい一冊です。

日々の授業や子どもたちへの声がけなど、“何となく”うまくいった、もしくはうまくいかなかった、という経験は、皆さんもあるのではないでしょうか。この“何となく”を解明することは非常に大切だと思います。“何となく”の裏には理論があって、その理論を知ることで、次に生かすことのできる知識となるからです。この本では、著者の久保賢太郎先生が、ご自身の経験をさまざまな理論を元に振り返っています。

 

その理論の一つ、ロシアの心理学者ヴィゴツキーが提唱した「最近接発達領域」は大切な概念だと思いました。支援が必要と思われる子に対して、「この子のためにはあんなことが必要かな?」「こんなことをしてあげたらもっと伸びるかな?」などその子個人のために何が必要かを考えることが多いように思います。しかし、その子だけを見るのではなくて、その子が学びやすいような環境、この話から言えばその子の周りの友達のことも信頼し学習環境に組み込むことを考えれば、その子はより安心して学ぶことができるようでなるのではないでしょうか。

 

このほかにも、学習意欲が喚起されるモデルの一つである「ARCS」など、6つの教育理論が前半で解説されており、後半ではその理論に基づいた実践が紹介されています。自分の実践と比較して、考えるきっかけになるのではないかと思います。

この本の題名にもある「失敗」という字を見て、目を背けたくなった方もいるのではないでしょうか。

 

失敗と向き合うことは大事だと分かっているけれど、できれば思い返したくない…という人は、少なからずいると思います。私もその一人です。しかし、そんな私たちの代わりに失敗の根源を探り、分析してくれているのがこの本です。

 

後半部分には、名だたる先生たちの失敗エピソードが赤裸々に書かれています。正直、「あの先生も自分と同じような失敗をされてきたのだな…」と、読んでいて安心します(笑)。しかし、その失敗を分析し、失敗の本質を見出しているからこそ、今のご活躍があるのでしょう。この本には、失敗した時の先生たちの内面や、子どもたちはきっとこう思っていただろう、という分析をもとに失敗原因を見出し、次にどう生かしたのかまで丁寧に書かれています。

 

冒頭に書かれていた孔子の言葉通り、「あやまちをそのままにしておくことが過失であり、改めれば過失とは言えない」のだと改めて思いました。自分の失敗を分析することは難しいと思われる方でも、他の先生たちの失敗から学ぶことで、失敗と向き合うことへのハードルが低くなるのではないでしょうか。

どんなに熱心な先生でも、先ほどの本にあるような失敗を、誰もが一度は経験したことがあると思います。では、その失敗をどう捉えているでしょうか。例えば、研究授業をして、協議会で批判されたとしたら…。私はきっと、「自分の実践はだめだったな…。」と、何日もかけて落ち込むと思います。反対に、「自分が成長するチャンスだから、批判してもらえて嬉しい!」と思える先生もいるかもしれません。

 

この本では、私のような前者の考えを「固定型マインドセット」、後者の考えを「成長的マインドセット」と呼んでいます。簡単にいうと、「固定型マインドセット」は、資質能力は生まれた時から決まっている固定的な性質である考え方に対して、「成長的マインドセット」は積極的な取り組みによって伸ばすことができるという考え方です。この考え方は、教師の成長にとってはもちろん、学級経営をする上で非常に大切な考え方です。成長志向の教室では、困難に直面しても諦めず、挑戦することを喜ぶ傾向にあるようです。

 

この本では、自分の中の成長的マインドセットを見つけ、強化する方法とともに、成長志向の声を学校でどう生かすかについて書かれています。自己肯定感が低いと言われる日本において、子どもたちの人格形成の根幹である教育に大きな意味をもたらすのではないかと思います。

最後は、国語科における教材分析の視点について書かれたこの本を選びました。私が教師としての楽しさ=学ぶことの楽しさを実感したのは、国語科の研究が非常に面白かったからです。

 

本屋さんの教育書コーナーに行くと、『海の命』や『ありの行列』といった教材単体での教材分析本を目にすることが多いと思います。もちろんそのような教材ごとの分析も非常に重要です。しかしこの本では、教材単体ではなく、教材同士を「つなぐ」視点を持つことを提案しています。その教材研究の視点(この本では「スイッチ」と呼んでいます)が、物語文と説明文とで、合わせて63個紹介されています。

 

例えば、物語文の「情景」というスイッチ。4年生の物語文『ごんぎつね』では、ごんの気持ちが情景として投影されています。そのことに気づいた子どもたちは、5年生で『大造じいさんとがん』を読んだ時、「前に『ごんぎつね』でやったやつだ」と情景描写に気づくことができるのです。

 

このように、前に学んだことは子どもたちの中での「共通の正解」になると茅野政徳先生は述べています。「共通の正解」をもとに考えることができるので、子どもたちは自信を持って発信できるようになるのです。恐らく、それは国語科だけに通じることではないでしょう。どの教科であっても、まずは私たち教師が教材分析のスイッチをもち、系統性を意識した授業をつくっていくことが大切なのだと感じました。