教材の特性を活かした「立体型板書」の活用法 (4年生・『プラタナスの木』)

教材の特性を活かした「立体型板書」の活用法 (4年生・『プラタナスの木』)

中学年の文学作品では、登場人物の数も増え、それぞれのキャラクターの特長が際立ってきます。主に中学校で扱う「伏線」へとつながる作品のしかけも見られるようになります。
そのような、人物関係や言葉のつながりを板書上で発見し、より深い読みを引き出すのが「人物相関図型」の板書です。さらに今回は「プラタナスの木」の特性を生かし、「移動型」の板書と組み合わせました。言葉がつながることでどのような読みが生まれるのか、ご覧ください。

二つの視点から物語中の変化について話し合うことを通して、変化のきっかけや中心人物の変容について理解することができる。【第2次第3時】

岡 雅昭先生

兵庫県小学校教員。教員20年目。板書が引き出す子どもの学びを追究し、立体型板書の研究に励む。得意な型は「対比型」。現在「人物相関図型」の効果的な活用方法に悩み中。

久村 忠司先生

熊本県小学校教員。教員2年目。子どもの悩みやつぶやきを生かす授業づくりを求める中で、立体型板書に出会う。本来は算数が専門だが、この出会いを機に国語と算数の二刀流を目指すようになった。

A1. 実は、最初は「人物相関図型」だけで計画していました。教材の特性と授業展開を考えた時、「移動型」と組み合わせることを閃きました。配置は脇役全員に光が当たることを意識しました。それぞれのキャラクター性への理解が深まるようにしました。

「プラタナスの木」は、中心人物のマーちんをはじめ、花島君、クニスケ、アラマちゃんという4人のキャラクター性が際立つ作品です。冒頭部分では、丁寧にその特長と普段の関係性が紹介されています。そして、不思議なオーラをまとったおじいさん。この5人の人物の絡みによって物語は展開します。どの人物がどのようにつながるのか。これを可視化するには、「人物相関図型」が最適だと思い、板書計画を考えました。しかし、物語中の変化を読み取る授業展開を考えていると、矢印や言葉数が多くなり、板書がどうしても複雑になってしまうという問題点がありました。そこで、閃いたのが「移動型」と組み合わせる手立てです。移動型を用いて、人物を動かすことによって、余計な矢印が省略でき、人物を動かしながらたくさんの言葉を生み出すことができると考えました。
このように、5人全員のキャラクター性を引き出しつつ、なるべくシンプルな板書をめざした時、このような配置になりました。

A2.板書上の言葉のどの部分につながるのかを考えられるような子どもたちとの対話を意識しました。

例えば、この授業であれば「アラマちゃんの口癖」や「おじいさんは台風の後に来なくなったのはなぜ?」という部分です。板書の上部には「場面番号」を常に貼っておきます。これはいつでも「何場面?」と根拠を尋ねる時に意識できるようにするためです。また、本時の柱でもある「変化」についても、通常、「マイナス→プラス」という変化がスタンダードですが、「プラタナスの木」は、中盤の4場面でマイナスが訪れます。「プラス→マイナス→プラス」というおおまかな変化も板書に残しました。こうすることによって、物語を場面ごとに縦に切って考え るのではなく、物語全体を視野に入れて、横に切って考えられる工夫をしました。
この構造部分の可視化が、物語中の細かな変化(内容)を捉える際に「つながり」を生み出します。「最初は〜だったけれど、最後は〜になった」や「○場面の出来事につながる」という発言が生まれるきっかけになるのです。そして、子どもたちの発言のすべてを板書する必要はありません。子どもの言葉の受け止め方は、板書に言葉を残すことだけではありません。対話の中で聞き出したことを受け止め、強調の意味合いを込めて、「線を太くする」や「グルグルとマーキングする」といった方法を使うこともできます。また、今回の「プラタナスの木」では、人物を黒板上で移動しながら話すことで「花島君が中心だ」や「木が折れてからおじいさんが来なくなっているから、プラタナスの木に大きく関係している」という声も引き出すことができました。

A3. 「発問の段階性」と「板書を通した問い返し」です。

いきなりは「深い思考」は生まれません。そこにつながるための思考の耕しが必要になります。そこで、発問に「段階性」をもたせました。「変化」という言葉を柱にしながら、最初は「ある→ない」へと変わった部分を問いました。すると、「プラタナスの木」「おじいさん」「アラマちゃんの口ぐせ」「サッカーへの白熱具合」という発言が生まれました。これらを確認しつつ、周辺の情報や疑問も交流しました。 耕しが十分に行われたタイミングで、後半には「ない→ある」へと変化した部分を問いました。板書上の人物を動かすことで、「4人が無くなってしまった幹や枝になろうとしたこと」や「根についての考え方」に迫りました。ここが本時の「深まり」に当たる部分です。これらが整理されると、題名にも着目することができます。「なぜ、題名が『プラタナスの木』なのか?」と問い、その意義を考えると、様々な変化の「きっかけ」であり、最初と最後で「見方や考え方」が変わった対象であることが明らかになりました。
最後には、逆に「変わらない部分は?」と問い返し、5場面の「ぼくたちのプラタナス公園」に着目させ、対比構造を捉えて授業を終えました。

岡先生「人物相関図型」と「移動型」の組み合わせが圧巻でした。移動させることによって、物語の変化、登場人物の変容が、より立体的に可視化されるということ。また、移動と共に思考の広がり・深まりが生まれるということ。他の教材でも活用できそうな汎用性のある組み合わせだと思いました。

久村先生「思考の耕し」の大切さを聞いたとき、算数とも共通していると思いました。考えの過程が板書で整理されているからこそ生まれる発展。沼田先生の子ども一人一人の考えを最大限に生かす板書を見て、もう一度自分を見つめ直したいと思いました。

沼田先生今回は、「人物相関図型」と「移動型」を組み合わせたことによって、子どもたちの様々な言葉を引き出すことができました。一方、お二人との対話を通して、子どもたちにどのように問い返すかが、授業を左右する大きな要因になることにも気が付きました。今後は、「どのタイミングに、どのような言葉で問い返すことがさらに有効なのか」を明らかにしたいと思います。

〈参考文献〉

沼田拓弥(2020)『「立体型板書」の国語授業』東洋館出版社

沼田拓弥(2021)『「立体型板書」でつくる国語の授業 文学』東洋館出版社

沼田拓弥(2021)『「立体型板書」でつくる国語の授業 説明文』東洋館出版社