説明文「たんぽぽのちえ」教材分析の《3つの鉄則》

説明文「たんぽぽのちえ」教材分析の《3つの鉄則》 - 東洋館出版社

定番教材で説明文の基礎固め
前回、物語、説明文、詩を教材分析するときの「手掛かり」となる、教材分析の「3つの鉄則」をご紹介しました。 今月からは、いよいよ実際の教材を取り上げて具体的に述べていきたいと思います。
今回取り上げるのは、低学年の定番の説明文「たんぽぽのちえ」(光村図書2年下)です。

  • 鉄則1 基本三部構成をとらえる
  • 鉄則2 話題・課題をとらえる
  • 鉄則3 まとめ・主張・要旨をとらえる

※鉄則の概要については「第1回 教材分析の《3つの鉄則》」を参照

2年生になると、教材文の構成も少しずつ複雑になってきます。1年生の説明文は、シンプルに「何が書いてあるか」を読み取ることが目標でしたが、2年生では、筆者は、何を説明するためにどんな事例を挙げているのかを読み取ることが始まります。
この段階で説明文の読みの基礎をかためておくことが、2年生の後半以降の読み方にも大きく関わっていきますので、しっかり取り組んでいきましょう。

まず、全体を3つに分けてみましょう。 そのためには、各形式段落に段落番号をつけます。この説明文は①段落~⑩段落まであり、全体が10の形式段落で構成されていることがわかります。 次に、各形式段落の「段落の主語」を明らかにします。「段落の主語」とは、その形式段落で説明している事柄です。

  • ①段落…たんぽぽの花
  • ②段落…たんぽぽの花
  • ③段落…花のじく
  • ④段落…花のじく
  • ⑤段落…わた毛
  • ⑥段落…わた毛
  • ⑦段落…花のじく
  • ⑧段落…花のじく
  • ⑨段落…わた毛
  • ⑩段落…ちえ

説明文を3つに分けるときには、次のように分けます。

①~⑩段落の「段落の主語」を見てみると、①、②段落は「話題提示」、⑩段落は「まとめ」であり、③~⑨段落は「事例・具体例」であることがわかります。
したがってこの文章を3つに分けると、次のようになります。

《+OnePoint》意味段落と主語連鎖
上で挙げた各段落の「話題」を主語とすると、各段落を短くまとめることができます。 文章全体を見てみると、この「主語」が同じ段落がいくつか続いて一つのかたまりとなり、主語となっている事柄について述べていることがあります。 このようなかたまりが「意味段落」です。 また、主語が同じ段落が続くことを「主語連鎖」といいます。

「話題・課題」から、読みの方向性をつくってみましょう。
説明文では、「話題・課題」が題名となっているものが多く見られます。この教材「たんぽぽのちえ」も、「話題・課題」を題名にしたものです。
そこで、この題名を使って、次のような「問いの文」をつくってみます。

「たんぽぽのちえ」って、どんなちえが、いくつあるの?

このような「読みの方向性」をもつと、ただ漫然と文章を読むのではなく、「何を読み取るのか」が明確になり、目的をもって文章を読むようになります。そのため、読みの精度が向上します。

「『たんぽぽのちえ』って、どんなちえが、いくつあるの?」という問いのもとで〈なか〉の各段落を読んでみましょう。すると、つぎのように、5つの「ちえ」が挙げられていることがわかります。

  • ぐったりとたおれるじく(②段落)
  • 白いわた毛ができる  (④段落)
  • おき上がるじく    (⑥段落)
  • いっぱいにひらく   (⑧段落)
  • すぼんでしまう    (⑨段落)

では、それ以外の段落には何が書かれているのでしょう。すると、それぞれの「ちえ」の「目的」が書かれていることがわかります。

  • ③段落…たねを太らせるため(じくがたおれる目的)
  • ⑤段落…ふわふわとばすため (わた毛ができる目的)
  • ⑦段落…とおくまでとばすため(じくがおき上がる目的)

おや、「いっぱいにひらく目的」と「すぼんでしまう目的」がありませんね。実はこの2つの「ちえ」が述べられている⑧段落、⑨段落では、「目的」も同じ段落で述べられています。

  • ⑧段落…とおくまでとんでいくため (いっぱいにひらく目的)
  • ⑨段落…しめらないようにするため(すぼんでしまう目的)

このように、文書は「必ず決まった形にあてはまる」というわけではありません。たとえば、鉄則1で文章全体を3つに分けますが、中には3つではなく2つに分けるのが適切な文章もあります。形式にとらわれるあまり無理やり3つに分けたのでは分析がおかしなことになってしまいます。
大切なのは形式を守ることではなく、教材文それぞれに即した分析を行うことである点に十分注意してください。

《+OnePoint》題名のひみつ
説明文の題名は、次の3つに分類することができます。

①「話題・課題」が題名になっているもの。
②「具体的題材」が題名になっているもの。
③「筆者の主張」が題名になっているもの。

今回取り上げた説明文「たんぽぽのちえ」は、①、②の2つの要素を兼ね備えた題名だといえます。

この教材文では、「主張」のような、筆者の考えを強く述べた部分はありません。したがって、「要旨」も述べられていません。「要旨」は「主張」を一般化や抽象化したものだからです。
全体を通して事実の説明となっていますので、〈おわり〉で述べられているのは「まとめ」です。
鉄則2で見てきたように、この説明文では5つの「ちえ」が述べられています。「どんなちえが、いくつあるの?」という問いの後半部分の答えは、「5つある」になります。 では、前半部分の「どんなちえが」についての答えはどうなるのでしょう。
鉄則2であげた5つの目的を挙げてもよいのですが、それでは単なる列挙になってしまいます。
〈おわり〉にあたる⑩段落をよく読んでみると、 「そうして、あちこちにたねをちらして、あたらしいなかまをふやしていくのです。」という文章でまとめられています。つまり、5つの「ちえ」はどれも、あたらしいなかまをふやすための「ちえ」だとわかります。
これらのことから、鉄則2で設定した問い「『たんぽぽのちえ』って、どんなちえが、いくつあるの?」に対する答えは、

なかまをふやすための「ちえ」が5つある。

とまとめることができます。

 「たんぽぽのちえ」には、

  • 全体を3つに分けるのが容易。
  • 題名から問いがつくりやすい。
  • 主張、要旨はなく、まとめのみ。

といった特徴がありました。低学年において、説明文の読みの基本を習得するのに適した教材文だと言えるでしょう。
主語連鎖も明確なので、意味段落の学習につなげることもできるでしょう。
また、「ちえ」が示された後に「ちえの目的」を述べるという基本パターンを繰り返しています。このような構成の特徴をとらえることは、「問いと答え」「具体と抽象」といった関係をとらえる力につながっていきます。