もっとも変わっているのは誰? ~「世界でいちばんやかましい音」(東京書籍5年)より~

もっとも変わっているのは誰?  ~「世界でいちばんやかましい音」(東京書籍5年)より~

子どもたち自身が【問い】の解決に取り組むことは大切ですが、任せきってしまうと授業が拡散してしまいます。解決の手がかりを教師が示すことも大切です。

【今回の「問い」】

「もっとも変わっているのは誰だろう?」

【習得を目指す力】

中心人物と、その変容をとらえる力

それでは、「世界でいちばんやかましい音」の、実際の授業を見ていきましょう。

「世界でいちばんやかましい音」には、次のような特徴があります。

→だれが中心人物で、どのように変容したのかをとらえることができる。

物語とは何かをひとことで表すと、「中心人物の変容を描いたもの」ということができます。 変容をとらえるときの具体的な要素としては、

  • 変容前後の中心人物の様子
  • 変容のきっかけ
  • 中心人物の変容に関わった人物(対人物)
  • 物語の中で中心人物が変容した点(クライマックス)

などがあります。

また、物語の中で変容するのは中心人物だけではありません。
「この登場人物は変容しているから中心人物だ」とも限らないため注意が必要です。

〔「世界でいちばんやかましい音」では…〕
「世界でいちばんやかましい音」では、中心人物である王子様以外にも多くの変容が見られます。

変容したもの 変容前 変容後
王子様 やかましい音がすき 静かな音がすき
世界でいちばんやかましいガヤガヤの町 世界でいちばん静かな町(ガヤガヤの都)
おくさんたち 「口だけは開けて、声は出さないでいたら? 世界でいちばんやかましい音がどんなものかを聞ける。」といろいろな人に話す。 だれもかれもが、仕事は、ひとにまかせて、自分はその結果結果だけを楽しもうととした。

※「おくさんたち」の変容は、くり返しによって強調されている。
「世界でいちばんやかましい音」には、このほかにも、以下のような特徴があります。

→中心人物の変容をとらえることができる。

→設定をとらえることができる。
→中心人物の変容をとらえることができる。
→クライマックスをとらえることができる。

教材研究から見えてきた、「世界でいちばんやかましい音」の特徴のうち、今回は特徴1として挙げた「変容が多い」に着目し、子どもたちが次のような【問い】をもつ授業を組み立てたいと思います。

【問い】
もっとも変わっているのは誰だろう?

子どもたちに「中心人物」と「中心人物の心の変容」に関心をもたせるため、次のような【課題】を示しました。

【課題】
この物語では、中心人物はどのように変わったのだろう?

この【課題】に対する【活動指示】は、

【活動指示】
変わった人物と、どう変わったのかを書いてみよう。

「世界でいちばんやかましい音」では、多くの変容が見られます。
【課題】に答えようとすると、変容している登場人物のうち、中心人物が誰なのかを特定する必要があります。 「世界でいちばんやかましい音」で変容している登場人物としては、次が挙げられます。

  • 伝えたいことを絵や図、文字を組み合わせて見える形にしたデザイン。
  • ガヤガヤの町(世界でいちばん静かな町になった)
  • 王子様(静かな音が好きになった)
  • おくさんたち(大きな音を立てなかった)

このうち、誰が中心人物なのかが【ズレ】となります。 そこから、次のような【問い】が生まれます。

【問い】
もっとも変わっているのは誰だろう?

ここで子どもたちに「こだわり」という視点を与えます。 その登場人物が心に強く思っていることが「こだわり」です。中心人物の変容とは、こだわりの内容がかなったり、解決したり、こだわりそのものが変化したりすることです。

物語の中で変容している人物が複数いる場合には、「こだわり」が最も大きく変化した登場人物が「中心人物」です。 「世界でいちばんやかましい音」では、もっとも強いこだわりをもっていたのは「世界でいちばんやかましい音が聞きたい。」という願いをもっていた王子様です。その「こだわり」が、結末では大きく変化しています。

したがって、問いに対する答えは、

「世界でいちばんやかましい音を聞きたい」という願いをもっていた王子様が、みんなが世界でいちばんやかましい音を聞くために自分は静かにしていようとしたことで、自然の音や静けさと落ち着きをすっかり気に入ってしまった。もっとも変わっているのは王子様である。

となります。

題名が主張内容を含んでいる。 技 →筆者の主張をとらえることができる。

説明文の題名には次のようなものがあります。
a「題材」を題名にしたもの
b「話題・課題」を題名にしたもの
c「まとめ・主張・要旨」を題名にしたもの
したがって、題名を検討することによって、筆者の主張や要旨などをとらえる手掛かりとすることができる場合があります。

〔「思いやりのデザイン」では…〕
「思いやりのデザイン」という題名は、本文の最後である⑤段落で述べられている言葉です。これを題名として取り上げているということは、筆者が強く思っていること、つまり筆者の主張に結びついていると考えることができます。

今回は、この特徴を利用して説明文の筆者の主張をとらえる【技】の習得を目指します。
なお、「思いやりのデザイン」には、このほかにも、以下のような特徴があります。

【課題】や【活動指示】で「題名」と指定していますが、中には本文中にも「思いやりのデザイン」という記述があることを指摘する子どももいます。
そこから、本文中の「思いやりのデザイン」という言葉は、「相手の立場から考えたデザイン」を言い換えたものであることに気づきます。
筆者は、デザインは「相手の立場に立って考える」ことが大切だと言っているのであり、それが「思いやりのデザイン」だと言っているわけです。
ここまでの【問い】の解決を通して、子どもたちは「思いやりのデザイン」という題名には、「デザインは相手の立場に立って考えることが大切だ」という筆者の主張からつけられていることを理解できます。

中心人物をとらえる学習では、「物語の中で大きく変容した人物」という視点を用います。
今回は5年生の教材だということもあり、「変容とは何なのか」ということにも結びつく「こだわり」という視点を活用しました。
【問い】の解決においては、「子どもたち任せ」にすると拡散してしまい、解決にたどりつけないことがあります。
子ども自身から生まれた【問い】であっても、今回のように教師が具体的な視点や、原理・原則、用語などを示すことが大切です。