先生と子どもが、「自らやりたくてやる状態」をつくりだし、自分自身で「自分にとっての答え」を追い求めるための“ 3つのステップ ”。今回もそのステップになぞらえ、2つ目の実践例として、山内先生が中学年のクラスを対象に毎年行う、絵の具で色紙をつくる授業「カラフルペーパー工場」をご紹介します。
実践・第1ステップ 先生が「自由」になる
今回紹介するのは図工の教科書に掲載されている題材(絵に表す活動)です。この授業を教員1年目に行ったところ、子ども達と僕は本当に楽しかった。それ以来この授業は、毎年必ず実施する定番授業となりました。
実は、僕は同じ授業を滅多にしません。面白い図工の授業実践がたくさんあるのです。やってみたいことだらけです。それに、何度も同じ授業をすると経験値が溜まるので、どうしてもその経験が邪魔をします。子どもの発見を純粋に喜べなかったり、彼らのアイデアが僕の予想を越えることが少なくなりがちです。僕は、子どもと一緒に発見して喜んだり、僕が知らないことを子どもからたくさん教えてほしいので、できるだけ新たな取り組みを授業に組み込むようにしています。
しかし、常に新しいことをやり続けるのもパワーがいるので、こうした定番の授業をもっておくと安心できると感じています。
定番授業とはいえ、毎回スタートは同じでも、実はゴールを変えています。そのため僕も子ども達と同じ気持ちで、毎年チャレンジができました。定番だけど、いつも新鮮。これがこの題材のとても素晴らしいところで、僕がこの授業をやり続けた理由なのです。
実践・第2ステップ 子どもが「自由」になる
今日みんなは、カラフルペーパー工場の、工場長ね!
ひとり8枚以上、カラフルな紙をつくってね。
失敗は全然構わない。どんどん試して!
その中から、「これがいい!」っていうのを選んでね。
道具はここから見渡せるもの、何を使っても構わないよ。
それと自分の絵の具を組み合わせて、つくってね!
冒頭、子どもたちに伝えるのはこれだけです。
「ローラー使っていいですか?」
— もちろん!いいよ!
「この大きな筆使っていいですか?」
— それは刷毛っていうんだよ。もちろんいいよ。
最初は何人かこんな風に使っていいか尋ねてきます。でも全部「いいよ!」と返していくと、だんだん確認はなくなります。
たまに「これ使っていい?」と聞かれたら、意地悪く「逆に何でダメなの?」と聞き返してみることも。
「本当になんでも使っていいんだ……」
そういう呟きを聞いたこともあります。
ローラー、刷毛、スポンジ、網、歯ブラシ、ストロー、この辺りはモダンテクニックと言われる表現技法に適した道具です。デカルコマニー、スパッタリング、ドリッピング、吹き流し等、すでに名前がついた技法はあれど、子どもたちは遊ぶようにしてそれらを自然と発見し、試していきます。
例えば、濡らした紙の上に、絵の具を垂らして滲ませると、とても綺麗なこと。それを先生が説明してやるのではなく、自ら色々試した結果、発見した時の子どもの喜ぶ様子は、僕にとって最高に嬉しいものです。
木材に絵の具を塗ってスタンプしてみたり、手形をつけるだけでは飽き足らず、おでこや足の裏に絵の具を塗ってスタンプする子も!
「私、天才かも!!」
僕も本当に天才だと思います。
「みてー!」と子どもたちから、たくさん声をかけられます。授業内容は毎回同じでも、同じ模様はひとつとないので僕は素直に「きれいー!」「すごー!」とリアクションができます。面白いものは僕も共有したいので、隣や前にいる子に「ねー、みてこれ!すごくない!?」と、どんどん巻き込みます。
そんな風に子どもたちに声をかけていくと、いつの間にか友達同士で「これすごくない!?」「いいねー!」と言葉がどんどん飛び交い、「面白いー!」と誰かが叫んだら、「なになに!?」と気になる人が集まって、そのアイデアは瞬く間に広がります。
こうしてわずか60分程度で、ひとクラス300枚以上のカラフルペーパーができあがるのです。
実践・第3ステップ 誰もが「自由」になれる環境をつくり続ける
この授業を毎年やっていくうちに、授業の教育的な目標や目的(めあて)だけではなく、この授業がもたらす沢山の恩恵に気づきました。
まず、「どんな道具を使ってもいい」ということ。アイデア探しのために子どもたちは図工室内を隈なく探索します。さまざまな道具や材料があること、その置き場所をこの活動を通じて覚えてくれます。同時にその名称を伝えることができます。
この授業では試す過程が面白く、その結果表れたものがきれいで、不思議だったり、その表現に「上手い」「下手」はないのです。しっくりこなかったら、もう1回挑戦できます。
さらに、目の前の人、横の人で、やっていることがバラバラ。隣の机では、4人でひとつの紙に共同で取り組んでいることも。あれもあり、これもあり。この活動では「何をしたらいいのかわからない」という子はひとりもいません。ヒントがすぐ近くにたくさんあるからです。
周りにヒントになるアイデアが溢れていること、何かしら表したものに「上手い」「下手」がないこと、これは想いを伝えるにはもってこいの活動でした。これまで図画工作が苦手だった、嫌いだった人にも、「これならできる」と安心してもらえるのです。
こうして、誰もが自由になれる環境の基礎をつくります。
作品ではなく、素材をつくる
この授業には、続きがあります。このカラフルペーパーをお店屋さん形式で交換しあう授業を毎年セットで行っていました。良さを言語化し、交換し合うことは鑑賞活動になるのですが、こどもたちは遊ぶように活動します。この活動の後に、それぞれの手元にバラエティー豊かなカラフルペーパーが揃うのです。
図工の授業=作品づくり、という印象が強いと思いますが、必ずしも毎回「作品」にする必要はありません。僕はこの授業は「素材づくり」だと捉えています。授業で生まれたものを「素材」として、さらに次の授業で作り替えていく。この授業はそのような展開が可能です。
このカラフルペーパーを切って貼り、街を描いたり、tuperatuperaの絵本「木がずらり」「魚がすいすい」をみんなで読んで、森や海の中を描いたこともありました。
カラフルペーパーに名前をつけて、カルタにして遊んだこともありました。
始まりは同じカラフルペーパー。でも、それは素材。僕は図工の時間で作り替えましたが、もしかしたら国語や算数でもその素材が生きるかもしれません。教科連携の可能性も感じています。
「自分がやりたくてやっている状態」をつくりだし、自分自身で「自分にとっての答え」を追い求めることのできる授業、その実践例をご紹介しました。
授業展開の詳細
僕の、2021年度、新渡戸文化小学校での実践が学校ブログに掲載されています。
エリックカールの絵本「えをかくかくかく」をみんなで読み、切って貼って表現しました。
「みんなの表現を集めて本にしたい!」という声からはじまり、最後は一冊の本に!
よかったらご覧ください。