山内先生は、子どもたちに「図工を学ぶ意味や価値」を伝えるため、授業と授業を繋ぎ、年間を通したメッセージを伝え続けてきました。4年生、5年生に続き、今回は6年生について紹介していただきます。
4年生は、とにかく「上手い下手なんてない!」ということを、この3つをテーマに1年を通じて伝えました。
あ! っと自分でひらめく
あ! っと他の人を驚かす
あ! っとみんなでおもしろがる
5年生では図工を子どもたちの身の回りのあらゆるものと結びつけるように、そして決められた「答え」はないと伝えてきました。
一生懸命考えて、悩んで、
みんなで考えて、
一番いい方法を探す/つくる/やる。
今回は、6年生について紹介します。
AI時代がやってくる!
2019年度に僕が受け持った6年生たちと、最初の授業でこんな話をしました。
「AI時代がやってくる!」 この先10年間で世界はさらに大きく変化すると言われ、ソサエティ5.0という言葉を見かけるようになり、小学校でも「プログラミング教育が始まる」と話題にあがった時でした。
そこで、テクノロジーの進化による社会変革についてビジュアルで訴える映像を子どもたちと一緒に見ました。
AI時代の到来。僕たち人間は何をすればいいのでしょう。子どもたちと話をする中でこんな話題になりました。
コンピュータが得意なこと
計算すること
暗記(記憶)すること
指示通りに動くこと
同じことをずっと繰り返すこと
「このチカラはコンピュータには敵わない。
あれ、これって今学校で取り組んでいる多くのことが、これじゃないか。
では、人間にしかできないことって何だろう」
人間にしかできないこと
課題をみつけて、それを解決するアイデアをだすこと
人に伝えること(感動的に!)
人間にしかないもの
感性
「そうだ、これだ。 あれ、これって今までもやってきたじゃないか。 そうだ、図工の時間で取り組んできた学びそのものだ!」
と、彼らと話をしたのを覚えています。 そこでこの年の6年生のテーマは
「コンピュータに負けるな!」
アイデアをどんどんだそう!
人に伝えよう!
感性をみんなで育てよう
(みんなで面白がる!)
このようになりました。
そうしてこの年度に実施した授業を3つ紹介します。
学校を描く
最初にチームで挑戦したのは、オノマトペを色と形で表現することです。
オノマトペが書いてあるカードを箱の中に入れ、引きあてたカードが自分のチームの課題です。これを絵の具で表現します。アイデアをたくさん出し、人に伝え、みんなで面白がることをたっぷり体感できました。
この授業を経て、次に「学校を描く」というテーマに挑戦しました。
自分の気になった場所、思い出の場所、好きな場所に行って、そこで感じたものや描きたいと思ったことを表現します。風景画ではありません。見たものそのままを描いてもいいし、見えないものを描いても構わないのです。1枚をとことん突き詰めてもいいし、何枚描いても良い、それも自分で決めてもらいました。
この授業のことを説明すると、早速それぞれの場所へ散らばっていく6年生。校庭、昇降口、廊下や自分たちのクラスの教室だったり、そのまま図工室にいたり。1枚出来上がるごとに場所を変えたり、同じ場所で何枚も描いてみたり。この授業は全部で3回(6時間分)行いました。2回目以降は、「この時間には戻って来てね。じゃあいってらっしゃい!」と、僕が伝えるのはそれだけ。6年生は自分たちで決めて、自分だけの表現方法を探して、表してくれました。
「そんな方法もあるんだ!」「それを描いたの!」「!これどういう意味が込められてるの?」という具合に、徐々に完成していく絵をみんなで眺めては、子どもたち同士で様々な会話が広がりました。
さくらの森再生プロジェクト
2019年の2学期、学校の隅にあった鬱蒼とした森を、自分たちの手でつくり変える活動を授業で行いました。
土壌改善から専門家と共に行い、徐々に風の通りがよくなり、気持ちよく変化していく森。
そこでめいっぱい遊んだあとに、「ずっと“楽しい!”が続くためには、どんなものがあったらいい?」という問いを出し、「自分たちが欲しいもの、つくりたいもの、この場所にあったらいいなと思うもの」を、力を合わせて作り上げていきました。
黒板、ベンチ、竪穴式住居、休憩所、小屋、シーソー、ブランコ、滑り台……様々なものが気持ちの良い森に現れました。 『展覧会』という学校行事にて、他学年や保護者、地域の方々にも披露し、自分たちの活動を伝えることも行いました。
「さくらの森再生プロジェクト」については、noteにて詳細をまとめています。よかったらこちらもご覧ください。
教育新聞にも取り上げられました 「学校の森を再生させよう」 児童がPBL型授業で挑戦
オリジナルキャラクター開発
3学期はKOOVというプログラミングツールにとことん関わりました。これで何ができるのかをひたすら試し続けたあと、「このツールを活かしたオリジナルキャラクターを開発せよ!」という課題にチャレンジしてもらいました。
KOOVをつかって、形と動きをつくり、それに合わせて紙など実際の材料を組み合わせて、動きのある立体的なキャラクターをチームで制作しました。
子どもたち自らが「まずは手を動かして考えようよ!」というマインドになっていて、この難しい課題でもわずか2時間、1回分の授業時間の中でどのチームも見事に形にしてくれました。課題に対して「うーん」と腕組んで考えるのではなく、つくりながら対話をして、つくりかえて……を繰り返す6年生がとても頼もしく思えた時間でした。
上記の授業例はほんの一部ですが、
- アイデアをどんどんだそう!
- 人に伝えよう!
- 感性をみんなで育てよう!
(みんなで面白がる!)
冒頭でも伝えたように、この年はこのキーワードを各授業で思い切り体感できるよう授業を設計していきました。
「未来は自分たちの手で創れる」という感覚
この6年生の例は、2019年のことです。
今、図画工作の授業を担当したら、同じような授業はしないでしょう。地球環境、社会課題、それに紐づく日常はモヤモヤと日々変化し続けています。コロナ禍で社会も大きく変化しました。
4年生はとにかく遊ぶことに注力し、5年生は、その遊びに価値を加え、日常に接続することにフォーカスしました。
その上で、6年生は、その日常から、さらに未来へと繋いでほしい。「未来は自分たちの手で創れる」という感覚を少しでも持ってほしい。未来に希望をもつために、今を楽しく、ワクワク過ごして欲しい。そんな願いを込めたのです。もし再び授業をもつなら、その時に目の前にいる子どもたちにフィットする言葉やテーマを探りたい、そこから授業をつくりたいと思っています。
僕がつくる授業は「遊ぶ」→「価値づけ/共創」→「日常との接続」→「課題発見」→「課題解決/発信」を1つのセッションとして捉えています。これを公立校では図工の時間で、4年生から6年生までの3年間をかけて取り組んだのです。
僕は受け持つこどもたちと出会って、最初から「課題発見/解決」の授業には取り組みません。2020年に新渡戸文化小学校に移り6年生も担当しましたが、2019年に取り組んだ6年生の授業とは全く異なる展開にしました。学年で決めるのではなく段階が大切で、まずはとことん「遊び」が必要です。その「遊び」に価値があることを共通理解した上で、次のステージに進めるからです。
こうして授業と授業とを編み、伝えたいメッセージを子どもたちにしっかり手渡していく。学校として1年単位で付き合っていく関係性だからこそできる学びの価値を、常に考えて実践してきました。