教育は、世界を変えるために使うことができる最強の武器

教育は、世界を変えるために使うことができる最強の武器

不登校を経て世界を飛び回るフォトジャーナリストとなった佐藤慧さんが多感な子どもたちに綴った読み物、10分後に世界が広がる手紙シリーズ全3巻(小社刊)。ここでは、学校という場のかけがえのなさや、不安・窮屈さを感じている思春期の心に向き合う5話を、Edupia連載として再編集しました。
最終回となる第6回は『勉強なんてしたくない君へ』収録の「君は戦争を止められる」。学校という存在がどんなに大切なことなのか、子どもたちの教育に関わるみなさんへエールとなる一編です。

最後は、「勉強」の一番反対にあるものごとについて、考えていきたいと思います。勉強の反対って、君はなんだと思いますか? 「遊ぶこと」は、勉強の反対ではなく、むしろとっても近いものだということを、ここまで本を読んでくれた君なら、わかってくれたと思います。
さまざまな世界にふれて、その可能性にわくわくし、しあわせに生きていくために必要なのが「勉強」だとしたら、きっとその反対は、たくさんの人の大切なものをうばう、「戦争」だと、ぼくは思います。ぼくも何度も取材に行っている、シリアという国では、もう10年以上も戦争が続いています。ひとつの戦争が終わったと思ったら、また次の戦争が始まり、「平和」を感じるひまがありません。

戦争はたくさんの大切なものを奪う(ウクライナ) 撮影/佐藤慧

シリアで育ったサラちゃんは、8才のある日、ふたりのお兄ちゃんといっしょに、家の外で遊んでいました。そこにとつぜん、どこかからロケット弾がとんできたのです。道路のアスファルトがはじけとび、その破片が、サラちゃんたちにおそいかかりました。
お兄ちゃんのムハンマドくんは、大きなかたまりが直撃し、その場で亡くなってしまいました。もうひとりのお兄ちゃんのアフメド君は、右目に大けがをしてしまいました。そしてサラちゃんはというと、その爆発で右足がふきとんでしまい、のこされた左足の骨も、こなごなにくだけちってしまったのです。
病院で出会ったサラちゃんは、「わたしはなにも悪いことしてないのに……」とつぶやきました。戦争をしている大人たちに、「もうやめて」と伝えてほしいと、なみだをうかべながら、ぼくに言ったのです。

シリアで育ったサラちゃんは、8才のある日、ふたりのお兄ちゃんといっしょに、家の外で遊んでいました。そこにとつぜん、どこかからロケット弾がとんできたのです。道路のアスファルトがはじけとび、その破片が、サラちゃんたちにおそいかかりました。
お兄ちゃんのムハンマドくんは、大きなかたまりが直撃し、その場で亡くなってしまいました。もうひとりのお兄ちゃんのアフメド君は、右目に大けがをしてしまいました。そしてサラちゃんはというと、その爆発で右足がふきとんでしまい、のこされた左足の骨も、こなごなにくだけちってしまったのです。
病院で出会ったサラちゃんは、「わたしはなにも悪いことしてないのに……」とつぶやきました。戦争をしている大人たちに、「もうやめて」と伝えてほしいと、なみだをうかべながら、ぼくに言ったのです。

残念ながら、今の大人たちは、たくさん勉強してきたはずなのに、戦争を止めることができません。戦争はいけないものだとわかっているのに、どうやったら戦争を止めることができるのか、だれもわからないのです。
大人はいつもえらそうに、なんでも知っているふりをしてしまいがちですが、本当は戦争を止められなくて、こまっているのです。

けれど、ぼくたち大人のまだ知らない戦争の止め方を、君たちなら、見つけることができるかもしれないと、ぼくは思います。
この本で見てきたように、勉強をするということは、世界のすばらしさを知り、自分自身の可能性に気づくということでもあります。戦争が、どれだけたくさんのすばらしいものをこわしてしまうかに気づき、「そんなことはもうやめよう!」と、君たちみんなで力を合わせて、世界を変えられるかもしれません。

君がどんなことに興味を持ち、そして将来、どんな職業についたとしても、きっとできることはあるはずです。「パン屋さん」になった君は、毎朝だれかの笑顔のために、パンを焼くことができるでしょう。「ゲームクリエーター」になった君は、世界を楽しむ方法を、たくさんの人に伝えることができるかもしれません。「ミュージシャン」になった君は、平和のために歌をうたい、「カウンセラー」になった君は、だれかのにくしみを、いやしてあげられるかもしれません。

そう、君は戦争を止めることができる。そしてきっと、もっともっと、すばらしい世界をつくっていける。もちろんぼくたち大人も、がんばります。これから大人になる君たちに負けないように、戦争を止める方法について、考えていきたいと思います。

だって世界は、こんなにもすばらしいものに満ちあふれているのですから。すばらしいものは、ひとりで楽しむよりも、みんなでいっしょに楽しむ方が、何倍も楽しいものです。
そんなすばらしい世界で、いつか君と再会できることを、楽しみにしています。

世界の美しさは、身近なところに隠れている 撮影/佐藤慧