「モノ」編 ① 「建物・空間」の視点で「出会い」と「縁」を考えてみる

「モノ」編 ① 「建物・空間」の視点で「出会い」と「縁」を考えてみる - 東洋館出版社

2023年現在、山内佑輔さんが運営に取り組んでいるクリエイティブ・フィールドVIVISTOP NITOBE。ここは、「出会い」をつくり「縁」が起きる場です。ここでの取り組みを、この場を構成する大切な3つの要素ヒト・モノ・コトそれぞれの視点から紹介していきます。ここで言う「モノ」とは、「材料・道具」、そしてVIVISTOP NITOBEの「建物・空間」と捉えます。今回は「建物・空間」の視点から考察します。

まず「モノ」編①は「建物・空間」、VIVISTOP NITOBEそのものの視点から、「出会い」をつくり「縁」が起きた事例を紹介します。

VIVISTOPは、子どもたちが持つ好奇心とその可能性を信じるVIVITAが、それを最大限に広げるために運営している「クリエイティブ・フィールド」です。

VIVISTOPにはカリキュラムがなく、先生もいません。 ここは子どもたちがあらゆるものから解放され、自由に自分の好奇心や興味、やりたいことにとことん向き合い、突き詰めていくことのできる場所です。

子どもたちのアイデアを実現するための多様な機材やツール、素材の揃うこの環境で、アートやテクノロジーを活用し、世界各国にいる多様な人たちと共創しながら子どもたちが自分の可能性を信じ、未来を創っていくためのサポートをしています。

この空間で、日中は授業が行われています。例えば、小学校の図画工作科の授業の隣で、高校生の情報科の授業が同時に行われていることもあります。さらにその隣では、ワークスペースとして、僕が学校外の人と打ち合わせしたり、何か制作していたりします。区切りのないワンフロアで、授業が2つ実施されていて、その中で大人が仕事もしているのです。

運用当初は、移動式パーテーションを並べ、それを仕切りとして空間を分け、小学生と高校生の授業を同時実施していました。ここでは、講義形式より、実技系と呼ばれる作業中心の授業の方が相性良いのです。しかし実技系の授業でも先生が説明する時間は発生します。その際、隣の授業の音が大きく、生徒が聞き取れない、そこで先生も声を張り上げる、しかし結局伝わらない……というストレスがありました。

ところが、移動式パーテーションを並べるのをやめ、隣の空間があえて見えるようにしてみたところ
「あ、向こうの授業で先生が説明を始めたな」と思えば、児童生徒が自然とトーンを下げてくれたり、高校の先生が小学生に「ちょっとこれから説明するから、少しの時間協力しれくれない?」と声をかけることで小学生も協力してくれたりと、ちょっとしたやり取りが生まれるようになりました。空間を区切るより良い関係性になったのです。隣り合わせの異なる授業の実施が、空間を区切らずに可能になりました。

この空間で、自然とこんなことが起きました。高校生の美術授業の隣で、小学生が図工の授業をしていました。高校生はりんごのデッサンをしており、小学生は水彩絵の具で抽象画に取り組んでいました。ある小学生が高校生を気になって覗きに行くと、「すげ、めっちゃうまい……」と呟きます。その呟きが、他の子に届き、「え。俺も見たい。すっげ!」と徐々に、高校生の制作を遠巻きに眺める小学生のギャラリーが増えはじめます。
高校の先生に「よかったら、どうぞ」と授業空間に立ち入ることを許可してもらうと、小学生は絵を描く高校生の姿と作品を間近にみて、「すごい!すごい!!」と感動しました。ある高校生は、小学生に絵について説明をしてくれました。

「よし、僕もまた描きたくなった!」
「そうだ、いいこと思いついた!」

と、小学生たちは再び自分の制作に向かいます。

僕が高校生に感謝を伝えると、「ちょっと照れたけど、すごい、すごいって言ってもらえて嬉しかったです」と笑顔で返してくれました。
高校生が、小学生の取り組んでいる作品を眺めて 「え。小学生、すごくない?私、こんな風に描けないかも……」と、小学生に感嘆する姿も。
高校の先生も「生徒にいい影響がありますね」と。

これは、こういう行き来が起こることを想定して、それぞれの授業を準備していたわけではありません。たまたま偶然、こうなってしまったのです。でもこれは、仕切りで空間を分けていたら起こりません。ましてや、壁をつくって空間として完全に隔てていたら起こるはずのない出来事です。

小学生の隣で高校生、というケースは新渡戸文化学園という総合学園だからこそ生まれるシチュエーションかもしれませんが、今まで分断していたものをあえて勇気をもって、その隔たりをなくすことで、これまで起こり得なかった「出会い」が生まれる可能性を感じました。

また、こんなこともありました。VIVISTOPで小学校のクラブ活動を実施している隣で、VIVIWARE株式会社の社員が、UFOキャッチャーを試作していました。
VIVISTOPにも配備しているVIVIWARE Cellというプロトタイピングツールをつかって制作されています。このUFOキャッチャーは実は、クラブ活動には直接関係がありません。ただ、子どもたちは興味津々です。そこで急遽、VIVIWARE株式会社のエンジニアに実演をしてもらい、説明していただきました。VIVIWARE Cellは、子どもたちもつかったことがあるツールなので、「じゃあ、僕も!」とそこから火がついて、VIVIWARE Cellを使ったものづくりがはじまりました。これもエンジニアによる特別授業を用意していた訳ではありません。たまたま同じ時間に活動をしていて……偶然生まれたことなのです。

学校、授業、という一般的には閉じた環境の中で行われることを、こうして開いてみます。すると、「今学んでいることが、実社会と接続していることをダイレクトに感じられる」そんな環境がつくれるのではないかと思うのです。

さて、このVIVISTOP NITOBEの空間は、放課後はより隔たりがなくなります。僕は仕事をし、小学生は何かをつくり、中高生は何かを企んだり、試したりしている。さらに土曜日は地域の子どもたちもやってきます。その活動は個々で分かれているわけではなく、なんとなく影響し合い、時には「それ何やっているの?」と声を掛け合います。「ね、これどこにある?」「このことを教えてほしい」と、年齢や大人子ども関係なく、コミュニケーションが発生し、時には協力がうまれ、コラボレーションが生まれ、共創がうまれていくのです。

上記に挙げたような例は他にもたくさんありますが、素敵な好例が毎日起こるわけでもありません。放課後に誰も来ない日だってあるのです。そんな寂しい日もありますが、何も起きなくても、焦らずに待つ。きっといつか必ず何か起こるはずと信じて、タネをまきつづけているのです。

最後に、VIVISTOP NITOBEの特徴でもある木の机、椅子は、2020年9月にVIVISTOPが半分だけプレオープンした際に、当時の小学5年生とつくったオリジナルの家具です。
VIVISTOP NITOBE FURNITURE DESIGN PROJECTと名づけた、このプロジェクトでは高知県佐川町に住むデザイナーの方や林業関係者と一緒に、高知の木材を知る取り組みや、木の加工までを子ども達と相談しながら進めました。レーザーカッターやshopbotなどのデジタル工作機械を活用しながら、最後はやすりがけや組み立てで自分たちの手で椅子を完成させました。この取り組みは、2021年度のキッズデザイン賞の最優秀賞もいただきました。
詳細はこちらをご覧ください。

この空間は、大人が用意するわけではなく、オーナーシップ、メンバーシップをもって子どもと大人が一緒になって、自分たちの手でつくり、更新していきます。それがVIVISTOP NITOBEなのです。