大切なのはその場で起こる「縁」、それを受け変化する「コト」。

大切なのはその場で起こる「縁」、それを受け変化する「コト」。 - 東洋館出版社

山内佑輔さんが運営に取り組んでいるクリエイティブ・フィールドVIVISTOP NITOBE。前回はVIVISTOP NITOBEの「モノ編」として空間、道具、材料について紹介しました。その空間自体に縁を生む仕掛けがあり、そこに置いてあるモノも縁を生みだします。今回は「出会い」をつくり「縁」が起きる「コト」について紹介します。

道具を知り、材料をなんとなく触っているだけで、「あ! いいこと考えた!」と動き出し、やりたい「コト」を見つけ出す子どもたちを何人も見てきました。
前回紹介したSATO COMPANYとのエピソードのように、モノがヒトを繋ぎ、「コト」=(企画)が起きるケースもここにはたくさんあります。
縁で生まれる「コト」を大事にしていますが、意図的にイベント企画などの「コト」をつくるケースもあります。

“ワークショップ”という言葉がずいぶんと耳に馴染んで来たように思います。先日観ていたTVニュースでも「ワークショップを開催します!」という宣伝が聞こえてきました。“ワークショップ”という言葉は非常に幅が広く、例えばみなさんは「まちづくり系」のワークショップと、「工作系」のワークショップとでは、それぞれどういう内容をイメージしますか?

前者でしたら付箋を使い、アイデアを発散・収束させ、発表・共有するようなイメージ。後者では、特別な材料をつかって、普段家や学校ではできないような、ものづくりに取り組むイメージでしょうか。もしかしたら、僕のこのイメージすら他者の認識とは違っているかもしれません。“ワークショップ”をひとくくりで語るのは非常に難しいのですが、今回はその中でも、工作系の造形ワークショップに焦点を当てて、話を進めていきます。

僕が造形ワークショップと出会ったのは2010年頃でした。当時は大学職員で、ホームカミングデーという、卒業生を対象にしたイベントの企画運営を担当していました。
当時、来場者に30〜40代が少ない、という課題から、親子で足を運んでもらえるようにと考えたのが、子ども向けの企画でした。

その時の僕にはノウハウが全くありません。そこで子ども向けワークショップの先駆者的な存在であったNPO法人「CANVAS」と出会い、まず僕自身が造形ワークショップを体験し、体感して、学ぶ機会を得ることにしたのでした。代表の石戸奈々子さんは、ワークショップで大事にされていることを以下のように説明されました。

  • 学び方を学ぶ
  • 楽しく学ぶ
  • 本物と触れる
  • 協働する
  • 教え合い学び合う
  • 創造する
  • 発表する
  • プロセスをたのしむ
  • 答えはない
  • 社会とつながる

その内容の面白さは圧倒的で、まさに目から鱗。これまでの図工や美術の授業、また工作教室とは全く違うものづくり体験でした。僕自身それまで、学び=インストラクションだった世界観を、この出会いが大きく変えてくれたのです。第1回で紹介した、山添joseph勇(深沢アート研究所)さんの紙コップのワークショップなどの事例、vol.12で紹介した渡辺裕樹さんとの出会いもこの頃です。ワークショップ、これが新しい学びなのだ!と感動したのでした。

ところが最近、街で見かける造形ワークショップの中には、ワークショップという冠をつけつつ「◯◯をつくろう!」と、みんな同じようなものができあがる企画を目にすることがあります。クオリティが高い物は出来上がるのですが、それ故に手順が決まっていたり、自由度が少なかったり。

「はい、僕にとっては。皆さんこれ作ってください、できたら次はこれをやってください…というワークショップも多いですけど、一緒に体を動かしたり何か作ったりするのは本質ではないと思うんです。リスキー(冒険的)で、クレイジー(情熱的)で、セクシー(本質的)なワークショップをやろうぜ!と言っています(笑)。参加する人も主催している人も、本気になって、リアルタイムで刻々と変化していく状況を楽しむ、そういうのが理想です」

eduview 闘うワークショップのつくり方〜上田信行氏にきく から引用

1990年代からワークショップを実践してきた上田信行先生も、インタビューで上記のようなコメントを残していました。冒険的で情熱的で本質的なワークショップとは、まさに「縁」がその場で起こり、「縁」を受けて状況がどんどん変化していくのです。

「皆さんこれ作ってください!」的なワークショップを否定するつもりはありません。本物と触れ合い、普段の生活ではできないことに挑戦したり、知らなかったモノ・コトに出会ったりするのはとても良い機会です。ただ、「皆さんこれ作ってください!」的な企画が街中で多く起こってきたならば、そうではないことをしたいなと思っています。

そこでVIVISTOP NITOBEでは、僕ら大人が何か企画する際には、「縁」がその場で起こり、「縁」を受けて状況がどんどん変化していくことが前提であるという考えに基づいた設計にしています。“ワークショップ”という言葉に耳慣れてきた中、あえてその言葉を使わずに「コト」=(企画)をつくっていこうとしています。

VIVISTOP NITOBE OPENDAY(地域に開いた土曜日の活動)の基本活動です。自由なこの場所で、好きなように考え、探検し、創造することができます。決まったプログラムやカリキュラムはありません。「ティンカリング」とは、家財道具を修理してまわった流しの修理屋(ティンカー)を語源に持つ言葉で、さまざまな素材や道具、機械を「いじくりまわす」こと。デザインセンスや問題解決の力を高めることができる手法として近年注目されています。VIVISTOPにある機材、道具、材料をいじくり回して、自分のやりたい!を探求していきます。自分で決めて、 制作を進めていくTinkering Sessionです。

Tinkering Sessionよりも、もう少しテーマ性をもったコトにもチャレンジしたい、という想いから企画をしました。木工DAYは”木でつくる”、ドローイングパーティは”絵を描く”だけが決まりごと、あとは何をするのかは自分で決めていきます。

VIVISTOP NITOBE OPENDAYでは、1日だけではなく、数ヶ月単位で続けていく活動もつくっています。
「VIVITA ROBOCON」というオリジナルロボット制作プロジェクトや、前回紹介した「クリスマスに本屋さんをオープンしよう」というプロジェクトなどを進めてきました。
どの活動も、完成形を大人が決めていません。大人は、“子どもにつくらせたい”のではなく“子どもと一緒に考えたい”のです。手を動かしながら、大人と子どもたちがアイデアを出し合って、共に創っていく、そして共に学んでいく、こうした環境には「たまたまあの時……」「結果的にこうなってしまった。」というような「縁」がよく生まれます。

効率の良さ、理論的思考、守破離の思想など、それらも大切です。時短や、最近ではタイパ※なんて言葉も生まれていますね。でもだからこそ、効率性とはちょっと離れて、「縁」を大切にする場所があってもいいのではないかと思うのです。

※タイパ=タイムパフォーマンスの略:「時間対効果」のことで、ものごとに費やす時間とそれにより得られるものや満足度を対比させた度合いを表す言葉。